『黄金の夜明け』
ごめんなさい。時間がなかったので文字数は少なめです
馬鹿馬鹿しくも思えたが、彼の言葉に嘘は感じれなかったので、ジェイルは微妙な表情をしながらも部屋を後にした。慣れない金属の枷に苦戦しながら階段を上がって行くと、下からチェイサーの声が響いた。
「あーそうそう! 言い忘れてたけど、それ付けてるとウォッチャーとかメイドが攻撃してくるから気をつけてね? まぁでもそのときは手足に付けた金属でガードすれば痛くはないよ」
ジェイルは思わず顔をしかめた。二階まで上がったとき、目の前に箒を持ってご機嫌に掃除をしているメイドがいたからだ。
「あ、やっほージェイル君。その装備付けてるってことは訓練始めたんだね~」
「まぁな。それで? お前は俺のことを攻撃するのか?」
「もちろん!」
メイドは快活な笑顔で持っていた箒の柄をこちらに向けると、柄の先端を突き出した。その刺突は鋭い風を帯びてジェイルの胴体に向けて放たれる。
咄嗟に回避をしようと体の重心を傾けるが、手足を使って守れという指示が来ていた事を脳が伝え、反応が遅れる。一秒足らずのその遅れは――この一瞬の時のなかではあまりにも致命的で、結果としてジェイルは何もできずに空気の塊のような風の一撃を受けた。
腹部を殴られたかのような衝撃が走り、苦しげに咳き込みながら両手で打たれた場所を押さえる。
「躊躇うくらいなら避けてもいいのに。そしたら二回目の攻撃をあげたから」
「……次は絶対防ぐからな。覚えてろ」
ジェイルは拳をぎゅっと握り、奥歯を強く噛んだ。チェイサーの指示やこの腕や脚に付いた金属がなければ確実に回避することはできたはずなのだ。おかげでこうもやすやすと少女の一撃を受け、したり顔をさせてしまった自分が悔しかった。
そんなことを思っていると、2階広間の奥の扉から金の髪を伸ばし、大人びた雰囲気を漂わせる少女が、アベンジャーが姿を見せた。
「あら、さっそく硬化の訓練始めたのね」
アベンジャーは懐かしむようにして微笑むと、パチンと軽快に指を鳴らした。すると、まるでそれが当然であるかのように、暖炉の上に置かれていた馬のオブジェや、テーブルに置かれていた木製のシックな箱が重力を無視して浮かび上がった。
「あんたも……攻撃してくるわけか?」
「それが特訓ってやつじゃないかしら?」
直後、宙に浮いていた物が一斉に、弾丸のごとくこちらに飛来した。あまりにも遠慮のない攻撃。
ジェイルは反射的に顔を防ごうと腕を前に出したが、ボールでも投げるかのように放たれたそれらは直線的に近付いたかと思うと急カーブを描き、背中を殴打した。
走る衝撃。しかし手加減はしてくれているのか、普段受けていたような蹴りなどと比べると随分と優しいものである。痛みはほとんどなかった。
「痛っ……くはないな」
「痛くする必要はないもの。けれどこれで分かったでしょ? 反射神経も大事だけど、ちゃんと攻撃は見ないと駄目よ? 【浮遊】の付与は自由に軌道を変えられるから。それじゃ、訓練頑張ってね」
攻撃に使われた道具が元の場所に戻ると、アベンジャーは軽いウインクを寄越した。
ジェイルは呆気に取られたようにその光景を眺めた後、深く頭を下げた。
「……次は絶対、全部防いでやる」
「ふぅん。ただの根暗かと思ったけど根性はあるのね。でも私はこれから敵を捜さないといけないの。会えるのは数日後かな? 期待してるわよ?」
アベンジャーは悠々とした笑みを浮かべると、玄関へと向かって行った。
ジェイルはそれを見届けた後、三階に上がった。
階段を上がると、視界にアイラが目に入った。
彼女は白銀の髪を弄りながら廊下でジッと待っていた。箒などの武器になりそうなものは持っておらず、敵意は向けられているが、攻撃の意思は感じられない。
アイラはこちらに気付くと、少しばかり恥ずかしがるように髪弄りを止め、仏頂面に戻ってしまった。
ジェイルは呆れるように首を横に振ると、煽るように尋ねた。
「お前は俺を攻撃しないのか?」
「…………書斎はこっち」
アイラはこちらの発言を華麗に無視すると、書斎の扉を開けてくれた。俺は礼だけ言ってその部屋に入った。部屋は寝室と同等か、もしくはそれより少しばかり大きな部屋だった。
赤や緑、黒などが幾何学模様を描いた絨毯が引かれ、暖炉のある壁以外の面を本棚が覆っていた。部屋の中央には作業用のデスクと椅子が置かれている。脇には新聞が大量に掛かっていた。
本棚を見ていくと、正式に出版されたであろうものや、自作したのであろうお粗末な造りをしたものまでさまざまであったが、どれも共通して言えることは魔術に関連したものだった。なかにはタイトルにエドワードの名前が入ったものまであった。
「答えてくれるとは思わないが、一応聞こう。教えてくれるとありがたい。俺はどれから読めばいい?」
「…………エドワード・シルヴァーのことを知りたいなら、これ」
予想外なことに、彼女は質問に応じてくれた。小さな、しかし透き通った綺麗な声が耳に残る。アイラはとてとてと小さな足取りで本棚から一冊の本を取り出し、それを手渡した。
『黄金の夜明けの歴史』というタイトルをしたその本は何らかの動物の革で装丁されていた。さほど分厚くはないが、本にしては大きい部類のもので、ズシリと歴史の重みが感じれる。
「ありがとう。お前もこういうときは答えてくれるんだな」
「…………」
アイラはこちらの礼を無視すると、不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。そして机とは別の箇所に置かれていたゆったりとした椅子に腰掛け、その辺にあった本を手に取って読み始める。
少しはマシになったと思ったが、そういうわけでもないらしい。冷静に考えて見れば、ただ単に命令をされていたからかもしれない。
「……まぁ、いいか」
ジェイルは観念してアイラとは別方向を向いて席につき、ゆっくりと本をめくり始めた。




