プロローグ:全ての始まりと一人の終わり
初めましてのかたは初めまして。そうでないかたはお久しぶりです。今回も絶対エタらない&面白いを目標に完結をします! (機械仕掛けのアウトローと機会仕掛けのイェーガーは公募により取り下げており、現在閲覧できません。申し訳ございません)
少しでもこの作品を気になってくだされば、ぜひぜひブックマークとか、なんかそういうのを! と、懇願。
作品投稿は不定期ですが、まぁ一週間以上間が空く場合は連絡をさせていただきます。そしてそうならないように最善の努力はいたしますので、これからよろしくお願いいたします。
黒より深い夜のとばりが空に下りていた。辺りには灰色の霧が漂い、月はまどろんでいる。ガス灯がぼんやりと夜道を照らしていた。
中世と近世が入り交じったような、レンガや石を主にして、しかし鉄柵やガラスなども多く使われた四階程度の高さをした建物が、道を挟むようにして連なっていた。そんな建物の青緑のレンガの屋根の上、それなりに傾斜がある場所で、二人の男は対峙していた。
二人とも同じような黒いコートを着て、トップハットを被っていた。しかし黒い髪に、琥珀色の瞳をした中年の男だけが、酷く血に濡れていて、服の一部が切り裂かれ、赤く染まっていた。その手に握られたリボルバーも血で汚れてしまっている。
「情けない姿じゃぁないか……エドワード・シルヴァー。この世界の英雄が聞いて呆れる。おっとぉ! オレも英雄だったなぁ!」
相対する若い男が紅い瞳を輝かせ、金の髪を靡かせた。そして悠々と不敵な笑みを浮かべると、手に持っていたレイピアを血まみれの男の喉元に向ける。
エドワードと呼ばれた男は銃を持つ力もなくなってしまったのか、手に持っていたリボルバーが屋根に落ちた。それはカラカラと小さな音を響かせて、傾斜を下っていくと、そのままどこかに落ちてしまった。
「メイザス……ッ!! なぜ生きている!」
メイザスと呼ばれた男はレイピアでエドワードの腕や背を何度も切りつけた。噴水のごとく鮮血が湧き上がり、痛々しい呻き声が聞こえ渡るなか、彼はいびつで狂気的な笑顔を浮かべて声高らかに笑い出した。
「生きている? 違うな!! 死んださ。死んだとも!! だが生き返った! フハハ! フヒャヒャヒャヒャヒャイーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! 笑いが止まらない! 実に愉快だ!! 愉快だろう!!」
「……化け物め」
エドワードは痛みを堪え、眉間に皺を寄せた。全身から血が滲み出るにつれ、琥珀色の双眸から段々と光が失われていく。メイザスはそんな彼の頭を踏み躙ると、深刻そうに声を低くし始めた。
「その化け物を生み出したのはお前だろう? エドワード。まぁそんな昔のことはどうでもいいさ。それよりも聞いてくれ。蘇ったはいいが、まだ肉体が未完成なんだ。今のオレの体には血が通っていない。それどころか内蔵の一つもない」
「……何が言いたい」
エドワードが息も絶え絶えな様子で尋ねると、メイザスは手のひらからバチバチと、黒い稲妻を迸らせながら答えた。
「元に戻るには……そう、魔術の素質がある若い人間の心身が! お前の子供! ジェイル・シルヴァーが必要なわけだ」
瞬間、エドワードは瀕死の体であるにも関わらず、あらん限りの声をあげ、メイザスの脚に縋りついた。
「わたしはどうなってもいい! 子供にだけは、子供にだけは手を出すんじゃねえ!」
「断る。精々祈るといい。このオレに使われることをな。……ついでにあの女も利用させてもらおうか」
メイザスはレイピアを躊躇なくエドワードの首元に突き刺した。皮膚が断ち切れる音と、ぐじゅぐじゅと肉と血の音が静寂な夜に響く。鉄のような臭いと、生が死へ変わる瞬間の忌ま忌ましいうめき声を感じ取ると、おぞましいほど恍惚となってさらに死体を切り刻んだ。
「これで……計画はもう少しだ。もう少しでチェックメイトだ。フハハ……フヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャイーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
メイザスの笑い声が夜の街に響いた。そのおぞましい狂喜の声は、ガス灯でも照らすことができない深い闇に溶け込んでいったのだった。