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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冬童話2017

『死季の女王』

作者: 南 屋

 昔々とある国に、四人の魔女が存在しました。

 四人の魔女はそれぞれに、一つの季節を司る。春と夏と秋と、そして冬。

 彼女達が国の中央に位置する塔の中で祈りを捧げれば、その国にその季節の効果を与えられるのです。

 魔女である彼女達でしたが、国民からは敬意と畏怖を、そしてその美しさを称えられて女王と呼ばれていました。


 国の王との契約によって定められた期間中は、塔の中に閉じこもって祈りを捧げる女王達。

 特別な力を持った魔女。人々に崇め奉られる女王。しかし、彼女達も一人の女でした。


 ある春の日。冬の女王と呼ばれるその女は、一人の男に恋をします。

 若くたくましい一国民。女王はその身分を隠して、男へと近づきました。

 一人の女と一人の男。

 身分を隠そうとも、見目麗しい冬の女王。男が心惹かれるまで、そう時間はかからなかったでしょう。


 二人は逢瀬を重ねる。

 春が過ぎ、恋仲となった二人は共に夏を越える。

 しかし、秋が終わりを迎える頃、男の前から女は姿を消しました。


「どこに……一体どこに行ってしまったんだ。僕の前に姿を現しておくれよ……」


 身分を隠したが故の結果。

 魔女であり女王であり、一人の女である彼女は、最期まで男にそれを打ち明けることが出来なかったのです。

 男は女が消えたことを悲しみ、女は塔の上から見るその姿に心を痛めました。


「ごめんなさい……でも、あなたがそう願ってくれるのなら、私は次こそ魔女であることを打ち明けるわ」


 しかし、それも僅か数日の間だけの事でした。


 ある日、いつもと同じように塔の下を眺めた冬の女王。

 そこにいたのは、女王が恋した男と、その隣に連れ添う女の姿でした。

 男は僅か数日で冬の女王を忘れ、新しい女と恋仲になっていたのです。

 仲睦まじく腕を組み、笑顔で語り合う二人の姿。冬の女王は人知れず涙を流しました。


「あなたはもう……私を忘れてしまったの? 私のことはもう……愛していないと言うの?」


 来る日も来る日も、男は女と共に歩く。冬の女王は塔の上で悲しみ、やがて嫉妬するようになりました。


「……あの女が憎い。あの人の隣を奪った……あの女が許せない」


 冬の女王は、冬が終わり塔から出ることを許されるその日に、男に詰め寄ろうと。密かにそう誓ったのです。

 しかし、冬が終わりに近づいた頃、塔の下からは耳を疑う声が聞こえてきました。

 春が訪れたその日。男と女は、塔の下で挙式を上げるという話。

 冬の女王が塔を出たその時、彼らは恋仲から夫婦へと関係を変える。

 彼女がそこに入り込める余地は、もう存在しない。


「そう……挙式を上げるのね。ならば私は塔から出ない。あなた達を決して結ばせはしない。私はあなた達を許さない」


 恋慕と嫉妬の感情に狂ってしまった彼女が取った行動は、塔の中に閉じこもり続けて、春を訪れさせないというものでした。


「どういうことだ! いつになったら春は訪れる!」


 国の王は、いつまで経っても春が訪れないことに苛立ち始めました。

 しかし、彼らにはどうすることも出来ません。

 同じ魔女である春の女王ですら、冬の魔女を力づくで引きずりおろすことは出来なかったのです。

 何故なら、四人の魔女の中で、最も強い力を持つのが冬の女王。その彼女だったのですから。


 やがて食物の備蓄もあと僅かとなり、貧しい民は寒さに凍えて死者が出るようになり始めました。

 苛立ちよりも焦りが目立ち始めた王様は、国全体へとお触れを出しました。


「冬の女王と春の女王を交替させよ! 季節を廻らせることが出来た者には好きな褒美を取らせよう! ただし、冬の女王が次の季節を訪れさせることが出来る方法に限る。季節の廻りは妨げるな。よいか!」


 国民はそのお触れに奮い立ちました。

 ある者は交渉を。ある者は献上を。そしてある者は力づくで。

 しかし、どれ一つとして冬の女王を動かすことは出来ませんでした。

 それどころか、心を狂わされ、財を巻き上げられ、そして命を奪われる始末でした。


 国民達の心は折られ、国王までもが諦め始めました。

 食物の備蓄は尽き、冬眠していた生物すら死に絶え、人々は次々倒れていく、死の季節。


 そんな中、冬の女王が恋した男と、恋仲である女は一つの決断をしました。

 このまま春が訪れず、やがて全てが死に絶えるのならば。

 せめて命がある内に、挙式を上げて幸せを得ようと。


 国中が苦しみ、絶望の最中だというその日。

 塔の下では厳かに挙式の準備が進められました。当然冬の女王も、塔の窓からそれを目にします。


「あなた達は国の一大事でも……自分達が祝福されることを望むのね」


 春を遅らせても挙式は行われる。もはや自分にそれを止める術は無いということを。

 叶わない恋ならば。報われない想いならば。私に生きる意味は無いということを。

 冬の女王はそれを見て、一つの時期を悟ったのです。


「なら……私が悟ったこの死期を。一つの季節として残すわ」


 冬の女王は音を立てて窓を開きました。


「私はあなたに痕を残そう。決して忘れることの出来ない、呪いにも似た季節に変えて」


 冬の女王が姿を見せたことで、喧騒に包まれる塔の下。やがて国王もやってきました。


「国王よ。私は春の女王と交替しよう。代わりに、私の言う褒美を全て取らせなさい」


 民衆は罵詈雑言を浴びせ掛けましたが、国王は頷きます。

 事の元凶である本人であろうと、今はそれを拒んでいる余裕が無いのですから。


「一つ。私が延ばした分の冬を、一つの季節としてこの国に加えなさい」


 それはこの地獄のような季節が毎年やってくるという契約。

 王は渋る表情を見せましたが、受け入れなければ永遠に春は来ません。

 王は頷かざるを得ませんでした。


「一つ。その新しい季節には、冬の女王と共に、そこの男を塔に閉じ込めなさい」


 冬の女王が指差したのは、かつて恋した。そして今もなお愛している男でした。

 男と、そしてその妻となる女は当然拒みますが、王は頷きます。

 一国の命運と、一人の男の僅かな時。比べるまでもありません。


「一つ。新しい季節の終わりは、その年の今日。そこの男と女が契りを交わしたこの日。その日にのみ、春の女王との交替を認めます」


 王は頷く。その姿に冬の女王は凍てつくような視線を向けました。

 それは女王であり、同時に抗うことの出来ない強大な力を持った魔女の眼光。


「もしもそれが破られれば。私は死してなお、この国に滅びをもたらす」


 王は冬の女王の力を知っていました。それが本当に可能であるという程、強大なその力を。


「約束しよう。いかなる場合でもそれを守ると余が誓う」


「よろしい……では、これで最後。私は冬の女王の座と、その力のみを……そこの女にゆだねる」


 冬の女王が指差したのは、愛した男の隣に立つ女。指先から流れる光は女を包み、有無を言わさず力を譲渡していきました。


「いや……いやよっ! あんな塔に閉じ込められるなんて!!」


「すまぬな……何人なんぴとたりとも彼女には逆らえぬ……」


「いやっ……いやぁぁ!」


 力を渡し終えたただの魔女は、塔の上で静かに笑いました。


「喜びなさい? あなた達が新しい季節を終えて塔から出てくるたびに、国中から祝いの声が聞こえてくるわよ。欲しかったのでしょう? ……この日を祝福してくれる声が。もっとも……あなた達に向けられる感情は、憎悪でしょうけれど……」


 泣き崩れる女と、それを支える男の姿。それを見た魔女は、最期の行動に移りました。

 窓から体を乗り出して、そして、高い高い塔のその上から。彼らに向けて飛び降りました。


「死に至る季節。死季しき。私からあなた達へ贈る祝儀よ……ありがたく受け取りなさい」


 季節と共に、自らの身体が出した血飛沫を贈る魔女。

 死してなお彼らを呪う声が、国全体に響き渡りました。


「女王の座を手放したければ。憎悪から逃れたければ。死にたければ……死ぬがいいわ。それこそが私の、最上の喜びとなるのだから……」

冬童話2017提出作品、その二つ目となります。こちらは少しだけ暗い(怖い?)話にしてみました。意外と童話って、暗かったり怖かったりする話が多いですよね。という思い付きで。この他にも、真面目な童話と、ラノベ風なんちゃって童話を提出しておりますので、もしよろしければそちらの方もと一言添えて。

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