星のような砂糖をたくさん
「じゃ、お邪魔しま…うわっ!?」
「お邪魔しますじゃなくて!!!」
当たり前のように家に上がろうとする"優希"の襟首をむんずと掴んで止まらせる。
「ちょっとー、危ないじゃないですか、急にそんな後ろ取って」
「いや止めるでしょこれは!」
「なんでです?レンタル彼氏、一応"彼氏"ですし、ね?」
「ね?って言われても頭が追いつかないんですよ」
そこで首を捻ってこちらを見ていた彼が体ごとこっちに向く。やっぱりルックスはモデル並みに良い。つい見とれてしまって言葉がうまく出てこない。
「や、やっぱり私レンタル彼氏、って、あの、要らない、みたいな…」
「あー。うんうん分かったよ」
「へ?」
何故か物分りがいい言葉に一瞬戸惑う。分かった?帰るのか?それもそれでちょっと寂しいというか…いや、そうでもないか。
「ふみちゃんさ、人形とかぬいぐるみを彼氏に見立てるタイプなんでしょ?」
「…はい!?なんでそうなったの!?」
「あれっ違うの?てっきり前のお客さんの時それで断られたからそうなのかと…」
なんだその斜め上のぬいぐるみの使い方は。
「ん?じゃあレンタル彼氏要らない理由ないよね?はい、じゃあここ、同意書にサインしてもらうから、部屋に通して?」
「いやっ、あのだから」
「玄関先じゃサインしづらいし俺も説明出来ないから。大丈夫だよ、急に襲うとか無粋なことしないから」
ここでまたあのニコッと笑う爽やかイケメン。くそう。見てくれがいいからって!!
「じゃあ…こっちで…」
「はーい!今度こそお邪魔しまーす」
その見てくれに釣られて部屋に通す私も私だ。
「やースッキリしてんね、俺こういう部屋好き」
「そうですか」
慣れてそうな口調で部屋を褒めている優希に一応はお茶を出す。
「ん?あ、アップルティーだこれ。ありがとうね」
「どういたしまして。それで、同意書と説明してもらえる?」
「あー、そっかそっか忘れてたよー」
ヘラっと笑いながら冗談なのか何なのか分からない事を言いながら、背負ってきていたブルーのリュックから白い用紙を出す。
「まぁ、これに全部書いてるんだけど、質問とかあったりする?口頭で説明でもいいんだけど。」
「んー…?」
同意書に目を通す。パッと見だが、これは…
「アップルティーおいしいーこれ」
「ねえ」
「ん?」
「質問することしかないこの同意書はなんでしょうか」
「同意書。」
「うん。知ってる。」
10秒ほど沈黙が訪れる。え、説明してくれないの!?終わり!?
「あの…」
「口頭説明やっぱりいるかー、俺もね、そう思うの。俺たち気が合うねえ」
ニコやかな顔をこちらに向けながら紅茶の入ったカップを顔の前に持ってくる。そしてカップを仰いで一気に飲み干した優希がゆったりした動作で同意書と向き合う。
「じゃ、説明するからちょっと聞いてて」
ここまで真面目に同意書の説明を聞いたのはきっと生まれて初めてだったと思う。