星よりも素敵な恋愛を
「月を見る度、君を思い出すね。」
こんな素敵な言葉をかけてくれる恋人がどこにいるだろうか。遠距離になった恋人に対して、なんて甘い言葉をかけてくれるんだろう。あぁこの人に一生ついていこう…。
そう思った私は今に至る。待つ人も待ってくれる人もいない独り身だ。もう1度言おう。私は独り身だ。
月を見るたび私を思い出すと言ったあの人は、「太陽のような人を見つけた」と、なんとも軽くほかの女に乗り換えたのである。
「あんた人を星に例えらんないと死ぬの!?」
とかショックすぎて意味不明なことを電話口で言ったのを覚えている。いや、そこじゃないだろう自分。
ぐるりと部屋を見渡すと、なんとも小ざっぱりしている。遠距離のまま別れたから、部屋の中に元彼のものは一切無い。片付ける手間が無いだけ感謝しておく。
「別れたっても遠距離長かったし…何にも変わんないよねぇーあーあ。」
ため息と同時に投げ出した足に何かがあたる。
「何これチラシ?あー…」
さっき道端で配ってたやつね、とゴミ箱に捨てようとする手を一旦止めた。待ってあたし中身見てない、何かクーポンとかなら使わなきゃ損!なんか切り取り線見えるし多分クーポン!よしっ!ペラッ
『あなたの心に寄り添う恋人はいかかですか?この冬、クリスマスをレンタル彼氏と一緒に過ごしましょう!!※お得なクーポン付き!』
「…レンタル彼氏ぃ!?もうじきクリスマスだからってバカにしてんの!?」
チラシに怒りながら、そのチラシをぐしゃぐしゃにしてゴミ箱ポイ。そしてすかさず友達に電話。
「あっ!ねぇ聞いてよー!さっきレンタル彼氏とかっていうチラシもらってさー、え?まさかー!頼むわけないじゃん!でも面白くない?ヤバイよねー!」
特に話すこともないけど暇だし、いっか。
「うんうん、そうなのー!それでね、」
でもやっぱさっきのチラシ気になるかも…。でもそんな怪しげなとこ電話して何かトラブル起きたら…でもちょっとだけ試してみたかったりとか…ああーもう!
「ごめん!ちょっと用事できたから後でかけるね!」
きっと後から苦情のメールが入るな、と思った。
「よし…」
電話を切ってから、さっきぐしゃぐしゃにしたチラシを丁寧に開き直す。レンタル彼氏の電話番号を探しだし、ゆっくり番号を押した。
「あ、ああの!レンタル彼氏っ!お願いしたくて!」
電話して30分が経った。
ひどい虚無感に襲われている。なんだこれは。受付してもらったのはいいが、レンタル彼氏とやらは家に来るのか?それとも待ち合わせ?え?分かんないんだけど!!てかあたし何してんの!?キャンセルの電話入れれんのかな…
そう考えていると玄関のチャイムが鳴った。
レンタル彼氏か!?と緊張しながら応答する。
「はい…」
「あ、宅急便ですーハンコもらいたいんですけど、いいですかー?」
「あ、はい!」
なーんだ宅急便か。判子を持って玄関へ向かう。
「すみませんーお待たせしましたー!」
「川崎 楓実さんでお間違いないですか?」
「はい!」
あれ?なんかこの宅急便の人違和感ある…なんだろ。
「お待たせいたしました、」
あ。
「わたくし、」
この人
「レンタル彼氏で伺わせて頂きました、優樹と申します。」
荷物持ってない。
にこやかに笑う目の前のイケメンは、私のツッコミの才能を開花させた。