トライゼン=アドバジスタ
「やあ、君たち元気かい?」
トライゼンはにっこりとした笑顔で話しかけてくる。
胡散臭い笑顔だ。
「これはこれは、トライゼン様、なにか用ですか?」
俺はこいつを殴り飛ばしたい気持ちを何とか抑えてそう返した。
「いや~、別に特に用があるって訳でもないんだけどね。」
---ただ
「さっきの話を聞いてね。ニーナと決闘することになったみたいだね?婚約者として彼女がどんな相手と決闘するのか興味があってね」
爽やかな笑みを浮かべる。
こいつは表では爽やかな人格者を演じているが、本当のこいつはかなりえげつない性格で、こいつは上手く猫をかぶれていると思っているみたいだが結構性格が悪いことで有名だったりする。
本人の耳には上手く入らないようにしているみたいだ。
「君も平民にしては強いらしいけど、彼女も本当に強いからね。一体どちらが勝つのか予想できなくて楽しみだよ。頑張ってね、ゴ‥‥じゃなくて‥‥えっと確かルル?さん。」
嘘だ。
こいつはニーナが負けるなんてこれっぽっちも思っていない。
「は、はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、目的も果たしたことだし、僕はこれで失礼しようかな」
そう言ってトライゼンはいってしまった。
ルルはトライゼンが見えなくなったあと
「なんかあの人の笑顔とか言葉って嘘臭い、全部が演技みたい」
ルルもあいつの性格の悪さに気付いたみたいだ。
あいつには関わらないように釘をさしておかないと。
「そうか、あいつにはなるべく関わるなよ」
「うん、言われなくても関わらないよ」
俺は寮に戻った後、これからどうするか考えていた。
未来ではルルがニーナに勝ってしまったことで彼女は全校生徒の前で恥をかいてしまい、その事に落ち込んだのだが、彼女はそれから努力してルルに再び決闘を申し込んで勝つことで汚名を返上しようとしていた。
トライゼンは婚約者であるニーナを溺愛している。
しかし、ニーナはあいつのことが苦手なようでお互いの気持ちにはかなりの温度差がある。
そもそも二人の婚約は親同士が決めた結婚、いわゆる政略結婚であり、表向きは家同士の関係性を高めようというものだが、実際はかなり違うと思う。
そもそもこの政略結婚の本当の目的はトライゼンがニーナを自分のものにするために親に頼んで取りつけて貰ったのだと俺は考えている。
なぜならダーナニウス家は今、経済難でありこのままでは潰れてしまうとさえ言われているのだ。
それをアドバジスタ家がニーナとトライゼンの結婚を条件に資金援助をすることを約束したのだろう。
なぜダーナニウス家が経済難であるかというと5年前にダーナニウス領のあちこちで自然災害『黒い霧』が異常発生し、他にも疫病や農作物の病気、様々な不幸が同時に襲ったことでダーナニウス領は大打撃をうけ現在の状況に至るというわけだ。
なので、ダーナニウス家は今アドバジスタ家に頭が上がらない状態で正直いって言いなりに近い。
未来で、お兄様が当然ルルの国外追放を取り消そうと色々と動いてくれたのだが、ダーナニウス家とアドバジスタ家によって圧力をかけられてあまり大々的に動くことが出来なかった訳だ。
ダーナニウス家もニーナをあんな男の嫁にしたくないだろうが、領民を救うためにはそれしかないのだから仕方ないと苦汁を飲む思いで了承したのだろう。
そもそも、ルルに対して悪口や嫌がらせを行うような奴等の大半はトライゼンが後押しした奴等だ。
この前トライゼンと話していた奴等がその直後になってルルに対して嫌がらせを行うようになったので、ほぼ間違いないだろう。
俺----というより、お兄様という存在がいるなかで、なんの後ろ楯もなく他の貴族がルルに対して何かを行おうとするのはよっぽどの馬鹿だろう。
未来ではニーナが負けたことで、ルルに恥をかかされたとトライゼンは怒り狂い親の権力や裏組織を使ってルルを罪に陥れようと動きだすのだ。
国外追放でもまだましなほうだ。
お兄様が動かなければ確実に処刑するつもりだったようだ。
ニーナがそんなことを望んでいないのに、婚約者のために動いていると思っている自分に酔っていたのだろう。
トライゼンはそういう奴だ。ニーナに避けられていることにすら気付いていないようだし。
これは周りの目からみても明らかにそうだし、俺は小さい頃からニーナとは面識があり、遊んだこともあるのだが、その時にニーナが言っていたのだから間違いない。
その結果ニーナは自分が努力して汚名返上しようとしていたことを無駄にされ、汚い手を使ってルルを追い込んだトライゼンを本格的に嫌うようになったとしても。
今後起こる大まかな出来事は大体こんな感じだ。
さて、これから俺はどう動こうか。
視点:トライゼン=アドバジスタ
ニーナと平民のゴミ女との決闘が決まった。
これで調子にのっていたあいつも終わりだ。
2組で猫の次に魔法の成績がいいと言っても獣人は魔法適正が人間よりも低い。
あいつが僕達より強いということはないだろう。
公爵家は優れた人間が集まっているからな。
もちろん、例外はいるがな‥‥。
4組の無能、アルマ=サーリングだ。
あんな奴が僕らと同じ舞台にいることが如何わしい。
まあ、精々僕達の踏み台にでもなってくれ。
さて、決闘に負けた後のあのゴミ女の始末はどうしようか。
適当な罪でも擦り付けて処刑させるか?いや、ニーナもさすがにそこまですると僕のことをよく思わないだろう。彼女は優しいからな。
まあ、しばらくは貴族達の不満があいつと無能に集中しているほうが僕からすれば色々と好都合だ。
あいつらを使って僕の株を上げ続けて、最後の最後、卒業する前にでも処刑してやればいいか。
そのほうがあの平民も苦しむだろうし、僕の株もあがる。
まさに一石二鳥じゃないか。
ふふふ、笑いが止まらないね。
おっと、顔に出る所だった。
僕はあくまで紳士だからね。
僕は笑顔という仮面をかぶりなおして寮へと向かった。
寮へと向かっている途中にニーナを見かけた。
ああ、彼女はほんとにかわいらしい。
ニーナ、やはり僕の結婚相手に相応しいのは君だけだよ。
苦労して手に入れた甲斐があった。
「やあ、ニーナ」
これ以上ない笑顔で声をかける。
「ぎぉえ!‥‥じゃなくてっ、こんにちはなのっ、トライゼン様」
ん、どうしたんだろう? あぁ、僕に話しかけられて嬉しくて驚いたんだろうな。
「平民の女と決闘をすることになったみたいだね。」
「そうなのっ‥‥。彼女を敵視している貴族が変な事をする前にこうしたほうが結果的に彼女への被害も少なくなると思いましたのっ。(‥‥‥‥それになによっ、あの女、アルマ君といちゃいちゃしちゃって‥‥、一発殴っとかないと気がすまないのっ‥‥)」
最後のほう声が小さくて聞こえなかった。
ニーナ、そんな建前は僕のまえではいらないのに
君もあの女を潰したいんだろ?
「最後なんていった?声が小さくて聞こえなかったんだけど」
「なんでもないです」
彼女は慌ててそういった。
そうか、気になるけど別にたいしたことじゃあないんだろ。
「そんなことより、これから一緒にお茶でもどうだい?いい紅茶の茶葉があるんだよ」
「え‥‥、あ、ああ、すいませんなのっ。わたしこれから用事がありますので、残念ながらいけないです。それでは失礼しますのっ」
そう言うと彼女は行ってしまった。
そうか‥‥。用事があったのか、残念だな。
「ねぇ、君たち、今から僕とお茶でもどうかな?」
近くを通りかかった女子生徒に声をかけた。
今日はこの子達で我慢するとしますか




