恐怖
次の日、瑠夏は学校を休んだ。熱を出したそうだ。
「あーあ。標的が休んじゃうなんて、つまんない」
「ズル休みなんじゃなぁい?」
クスクスと恋歌グループが話す。
心優は相変わらず端っこで関係なさそうに本を読んでいる。昨日の帰りとはまるで別人。
「あ……っ」
私は口を開いて声を出そうとしたが、結局閉ざされた。怖いんだ。ターゲットにされる事が。
だけど、瑠夏はそれ以上の恐怖を味わっているはず。
そんなもどかしそうな私を、恋歌は見ていた。
「ねえねえ、ゆーまり」
恐ろしく、可愛らしい声で恋歌が話しかける。
「本音、言ってみなよ」
上目遣いで聞いてくる。
恋歌グループ以外の生徒はザワザワとこちらを見るだけ。
「え……」
やばい。目つけられた。
「ほら、はやくはやくぅ」
「……その、……る、瑠夏は、……ず、ズル休みするような、子では……」
「えー?聞こえなーい」
くそ。最後まで人の話を聞けこの野郎。聞こえてるくせに。どれだけ私のメンタルを潰せば気が済むんだ。
「瑠夏は、ズル休みするような子じゃない」
「……そっかぁ」
震える声で、やっと言えた。と思うと、恋歌は驚きの行動に出た。
本当に女子かというほどの力で、私の座っていた椅子を引きずって振り回し、私は転倒した。
そして、私の鞄の中身を全部出して、さらに蹴った。
「うっ……!」
何度も、何度も蹴りを入れてくる。
「瑠夏ちゃんは、こーんなにも痛い思いしても、学校来ると思う〜?」
クスクスと冷たい笑い声が聞こえる。
額から血が出てきた。教科書の角が当たったんだ。
さすがに心優も焦ったようで、立ち上がった。
そして廊下を見て、
「恋歌、先生近付いてきてるよ」
と言った。
「……」
恋歌は無言で私のすぐ近くにあった掃除用具箱を開け、中にあったほうきを倒して私に降りそそいだ。
痛い。
「どうしたの!」
ほうきの倒れた音に気付いた教師が駆け寄る。
「きゃあ。先生、掃除用具箱が勝手に開いちゃって……」
なにもなかったかのように愛花が両手を口に置く。
「ゆまりちゃん、大丈夫?」
恋歌が手を差し伸べる。
別人だ。私は自力で立ち上がる。
「まあ、大変。おでこから血が。先生、私が藤堂さんを保健室にお連れしますわ」
お嬢様口調でご丁寧にお話する。
怖い。こいつと一緒にいるとなにされるか。
私は不安と恐怖しかなかった。この先どうなるのか、誰にもわからなかった。