14.フランとゴディバ
依頼達成報告をするため、俺たちは冒険者ギルドのカウンターに並んでいる。依頼帰りの冒険者が続々と集まってきているせいか、ギルド内部の人口密度が徐々に高くなっていく。
ギルドのカウンターには猫耳受付のニャルさんと、耳が尖っている薄緑髪ロングの顔立ちが整った20代前後の女性受付さんがいる。
(耳が尖ってるってことは風精族かな?)
注目してしまったからだろう、自動で鑑定が発動する。
【名前】フラン
【称号】なし
【種族】風精族
【職業】ギルド受付
【ジョブ】弓使い
【レベル】8
【スキル】
レベル上昇時器用成長+1、弓術レベル1
【魔法】
精霊魔法(風)
【その他】
弓装備時器用+3
【ステータス】
HP(18/18)MP(15/15)
力23(+3)体力18魔力15素早さ24器用32(+3)運15
【装備】
ギルド制服
(やっぱり風精族だ。ニャルさんに比べて全体的にステータス高いな)
そんなことを考えながらフランさんを見ていると目があった。
「次の方こちらへどうぞ」
フランさんの声に従い、俺はフランさんの受付に向かうことにする。
「依頼達成報告したいのですが」
「はい。どの依頼でしょう?」
「Fランク依頼の子鬼討伐を2回分、風船鼠討伐を8回分で。これが魔石です」
「ギルドカードの提示お願いします」
「はい」
俺はギルドカードを提示すると、フランさんの目が大きく開く。いきなりフランさんが整った顔をこちらへ寄せてくる。
(一体何だ!?)
「このステータスは一体なんですか? 不正ではないでしょうね」
「………は?」
「だっておかしいでしょう。レベル3で力888とか体力551とか、他の数値も軒並みおかしいですよ」
(なるほど、確かに不正だと思われてもおかしくないな。でも小声で言ってくれてるのは助かる。不正じゃなかった場合のために配慮してくれてるのかな)
そんなことを考えていると、周囲がザワザワとざわめきだした。
「お、おい。フランちゃんがキスしてる……」
「嘘…だろ…。あいつ、誰だよ…。俺のアイドル、フランちゃんとキスとか許せん…!」
「殺す、今日あいつを殺そう」
「あいつに手を出すと危険だぞ? デフルワンパンで沈めた猛者だからな」
「あいつ、今朝デフルたちを跪かせてたやつじゃねーか!!」
「あのホモか! 両刀使いかよ。マジ引くわー」
外野が勝手なことをいい始める。名前は知られてはいないが、顔だけが徐々に有名になっているようだ。俺は頭が痛くなってきた。
(どうする? フランさんへの説明だけでも面倒なのに、周囲の奴らを放っておくわけにもいかない)
その時、パンパンと手を叩く音がした。フランさんが手を叩いたようだ。皆が注目する。
「キスなんてしてませんよ! こちらの方のギルドカードに不具合が出ているようでしたので、ステータスに関することのため、顔を近づけて小声で確認していただけです!」
「な、なーんだ。そういうことか。勘違いしちゃったよ」
「フランちゃんもダメだよ。そんな男に顔を近づけたら襲われちゃうぞ? 気をつけないと」
(何もしなくても解決しそうだな。良かった)
俺がホッとしていると、フランさんに睨まれた。
「何も解決してませんからね? 少し待っていてください。ギルドの上の者を呼んできますので、事情を話してもらいます」
「はい…」
(面倒なことになったなー。どう説明すればいいんだろう)
フランさんはカウンターから下がり、裏に移動する。数分その場で待つと40代くらいの顔に傷がある歴戦の兵士のような男を連れてやってきた。
「こちらが当冒険者ギルド、サブマスターのゴディバさんです」
「ゴディバだ、よろしく。ハヤト君だね? ちょっと裏で話を聞かせてもらおうか」
「はい…」
(この人ヤクザより迫力あるな…、子供なら顔見ただけで泣き出しそうだ)
俺たちはゴディバの後をついていく。
「ん、そちらのお嬢さんは?」
「ユイです。ハヤトのパートナーしてます。よろしくお願いします!」
「僕の仲間のユイです。一緒に連れて行っても問題ないですよね?」
「ああ、構わないよ。2人ともついてきてくれ」
「はい」
ゴディバの先導でカウンターの後ろにある部屋に入っていく。
中は市役所のような作りになっていて、10人くらいの人たちが事務仕事をしている。
その横を通り過ぎ、2階に上がる階段を登り、サブマスター執務室と書かれた部屋に通される。
部屋のサイズは8畳程度。恐らくゴディバの趣味なのだろう、質実剛健と言う風な部屋で飾り気はない。
「そちらの椅子に座ってくれ」
ゴディバに革張りのソファに座るように促されたため、ユイと並んでおとなしく座る。
「さて、フランからは簡単にしか聞いていないが、ギルドカードの表示がおかしいんだって? 見せてくれるかい?」
「はい」
俺はギルドカードを渡すと、ゴディバの目が大きく開く。カードを触りながら何事か考えているようだ。
「確かにおかしい。だがギルドカードに不具合が出たと言う報告は、今まで一度もきいたことがない。このカードの質感も偽者とは思えない。何故こんな表示になっているかわかるかい?」
(誤魔化すのは無理そうだな、ある程度正直に言うしかないか)
「はい。恐らく僕の所持しているスキルのせいかもしれません」
「ほう? どんなスキルかな?」
「幸運と言うスキルです」
「どんな効果かわかるかい?」
「ジョブを取得した際のことですが、魔法陣に乗ったときに剣士等6種類のジョブが最初出たんです。その時、幸運が発動しましたと頭の中で声が響きまして、全てのジョブが剣神等に変化したんですよ」
ゴディバは眉間を揉みながら思考に耽っている。
「……にわかには信じられんな、そんなこときいたことないぞ? 君はわかっているのかね? 剣神と言うジョブは歴史上数人しか辿りついたことがない境地だ。取得するための前提条件すらわかっていない」
「そう言われましても変化してしまったので仕方ありませんよ。その時剣神以外にも武神や魔導神等が現れまして、選べないでいると幸運の効果でその3種類が同時に取得できてしまったんです」
「そんな馬鹿な!!! ジョブの3種同時取得など聞いた事ないぞ!? それならまだ誰にもわからないほど精巧な贋作のギルドカードを作ったと言われた方が信じられる!」
ゴディバが思いっきり詰め寄ってくる。強持ての顔が近くに来るのは心臓に悪い。
「そう言われましても事実しか言っていませんので、信じて貰えないならこの話は終わりだとしか言えないのですが」
ゴディバは頭を抱えて考え込んでいる。
(その気持ちわかるよ。常識破壊されるとどうしていいかわからなくなるよね)
「……フゥー。すまない。取り乱してしまったようだ。それではジョブとスキルが表示される検査用魔具を持ってくるので、確認させてもらえるかい? 正直自分の目で見ないと信じられない」
「ジョブの確認は構いませんが、スキルは見せたくありません」
(他にも色々持ってることがばれると余計に面倒に巻き込まれるしな)
「そうか…。今回はジョブの確認だけさせてもらえばいい」
「わかりました」
ゴディバは執務室の隣の秘書室だろう場所に声をかけ、検査用魔具を用意するよう指示を出したようだ。
しばらくして、30代くらいの眼鏡をかけた女性秘書が検査用魔具を机の上に置いて去っていく。検査用魔具はタブレット型の石版タイプのようだ。
【鑑定の石版】
手を置いた者の詳細なステータスを表示する
【耐久】1,144/1,144
【価値】43,324
「検査用魔具の使い方はわかるね?」
「ジョブだけ表示は出来ますか?」
「出来ない。見せたくない部分は自分の手か何かで隠してくれ」
「わかりました」
俺は鑑定の石版に手を置く。すると白い魔法陣が浮かび上がり、5秒ほどで石版に鑑定スキルで表示されるのと同じ内容が表示される。
俺はスキルと魔法の部分を隠し、ゴディバに見せた。
「……まさか本当だったとはな。俺の目がおかしくなったのか疑いたくなる。人外入門とは、ククッ、相応しい称号じゃないか」
「信用して頂けましたか?」
「ああ、信用するしかないじゃないか。俺が信じるための条件を出したんだ」
「それなら良かった。僕はどういう扱いになりますか?」
「君はたしかまだGランクだったか?」
「ええ、Fランク依頼10回分の魔石の用意はしていますので、手続きさえすればFランクに上がれますが」
「ふむ…、君みたいなのをFランクにしておくことはできないな。Aランク位にしておきたいところだが、俺の権限で上げられるのはCランクまでだ。それに、君には実績がない。実績が出来るまでしばらくはこちらで依頼の指定をさせてもらう」
「わか――」
「ちょっと待ってもらえますか?」
今まで黙っていたユイが話に入ってきた。
「ユイ君、何かね?」
「依頼の指定はやめてもらいたいです。それならハヤトのランクをFランクのままにしてください。ギルド子飼いのような扱いはされたくありません」
「なるほど、ハヤト君はどう思っているんだ?」
「俺もユイの言うとおり、子飼いになるつもりはありません」
(危なかった。依頼の指定くらい別に構わないと思ってたけど、子飼いになるかどうかの誘いだったのか)
ゴディバは少し考えて1つの提案をしてくる。
「それではCランクに上げて、しばらくはモンスター討伐系依頼のみ受諾可能にする。たまに指名で依頼させてもらうのは構わないかね?」
「ええ、その条件なら」
「はい。ランクを上げてくれるのは助かります」
「それではCランクと言うことにする。君のステータスに関しては部外秘として扱わせてもらう。ギルド上層部や受付の者には通達するがね」
「はい、ありがとうございます」
「少し待っててくれ」
ゴディバは紙に何かを書いている。書き終わった後、俺に渡した。
「これを受付に渡してくれ。そうすれば君はCランクだ。制限解除時期は決まったら通知する」
「はい、わかりました」
俺たちはサブマスター執務室から出る。
「ちょっとお手洗い行ってくるね! ハヤトは先にカウンター並んで手続きしていて?」
「わかった」
俺は1階に下り、受付カウンターに並んだ。
Side by ユイ――
私はトイレに行く振りをしながらハヤトを見送り、再度サブマスター執務室に入る。
「ユイ君、何か忘れ物でもしたかね?」
「ええ、大事な忘れ物を」
私は一瞬でゴディバの後ろに転移し、ナイフを首筋に当てる。認識阻害の結界と消音結界も忘れない。
「一体いきなり何だね?」
「あなた、私たちを監視するつもりだったでしょう。それにハヤトを利用することを考えてる」
「……そんなことはしない」
「ええ、そうですよね。そんなことしたらあなたの首が物理的に切断されますからね」
(殺してしまえれば楽なんだけど、面倒ね)
私はナイフをアイテムボックスにしまい、ゴディバと机を挟んだ位置に転移し、正面からゴディバの目を見る。
「……君は何者だ? ハヤト君はステータスは高いが動きは素人だった。だが君には全く隙がなかった」
「私はただのハヤトの護衛よ。あなたたちが私とハヤトの邪魔をしなければ、私とも今後関わることはないわ。わかっているとは思うけど私のことは秘密よ? 私は目立つ気はあまりないの」
「ククッ、お前が護衛におさまる器か? 何が目的か知らんがギルドや街に害を及ぼすなら俺は命を捨ててでもお前たちを殺す!」
ゴディバは殺気を私に向けてくる。どうやら私の言葉を信じる気はないようだ。
(ぬるい殺気ね)
「本当のことを言ってもあなたが信じられないと思うわよ?」
「……言ってみろ」
「ハヤトは人族をモンスターから救うために、世界に産み出された存在なの」
「ククッ、確かに無理だな。そんな話があるわけない」
「さっきのハヤトのステータスと私の存在を見ても本当にそう思える?」
「…………」
(ありえない設定でも、信じられる条件さえつければ人間はもしかして? と思ってしまうものね。この嘘の設定が広まればハヤトは英雄として祭り上げられるかもしれないわ)
「別に信じなくてもいいわ。私たちの行動の邪魔さえしなければ、街やギルドに害を及ぼすことは絶対にない。悪いことをしようとしているなら、ハヤトの存在をギルドに知らせるわけないでしょ?」
「…………」
ゴディバは深く考えてる。徐々にもしかしたら本当なのかもしれないと思いこんで言ってるはずだ。
「私たちの過去を探るのは許すわよ? この街に来る前のことは全く出てこないと思うけどね。私たち容姿はそれなりに整っている自信があるし、目撃者がいればすぐわかるはず。私たちのことをこの街に来る以前から知っている存在は誰もいないということがわかれば、少しは信じられるかしら?」
「……わかった。お前たちの過去は調べさせてもらうが、こちらに害がない限り、行動の邪魔はしないことを約束しよう。今後の行動でお前たちのことを見極めさせてもらう」
「それでいいわ。それじゃまたね」
(完全には信用できないけど、この男を上手く利用できればいいわね)
私はハヤトの元へ向かうことにした。
――Side by ユイ End
「やったね! いきなりCランク!」
「おかえり、ユイ。ランク上げる手間が減って良かったよ。でも戦闘経験が少ないからなー。Bランク依頼受ける前にレベル上げたいかも」
「んー、どうなんだろうね。依頼見てみないとわからないけど、今のままでも平気そうにも思えるよ! 不安ならレベル上げしてもいいけど」
「依頼見てから決めようか。判断はユイに任せるよ。俺よりモンスターの強さわかってそうだし」
「うん! まかせて!」
俺たちが列に並びながら話していると、フランさんは俺たちに気づいたようで、ゴディバとの話がどうなったか気になるのかチラチラ見てくる。しばらく待っていると、俺たちの順番になったようだ。
「次の方こちらへどうぞ」
フランさんの声に従い、俺はフランさんの受付に向かうことにする。
「どうなりましたか? 疑惑は晴らせましたか?」
「後で通達があると思いますよ。後これを」
フランさんにゴディバから貰った紙を渡す。
「いきなりCランクですか…、つまり不正ではなかったと」
「はい」
「疑ってすみませんでした」
フランさんが頭を下げる。
「気にしないでください。逆の立場だったら俺も疑いますし」
「そう言ってもらえると助かります、では手続きしてきますね」
フランさんはギルドカードの更新作業に向かう、1分もかからず戻ってきた。
「Cランクおめでとうございます」
「ついでに子鬼と風船鼠の依頼処理もお願いします」
「はい。報酬は全部で大銅貨8銅貨6です。お確かめください」
「はい。あの、高級宿でどこかお勧めな宿ありませんか? 今から行って泊まれそうな宿で」
「貴族街の方はまず無理でしょうから、お勧めできるのは時の雫ですね。一泊2食で銀貨2枚もしますが」
「地図書いてもらえます?」
「はい。少しお待ちください」
フランさんに時の雫までの地図を書いてもらい、それを受け取る。
「ありがとうございました。早速行ってみます」
俺たちは冒険者ギルドを後にするのだった。




