➖ その7 ➖
その微粒がゆっくりと回転を始めたと思ったら、明らかにアルファベットが出来上がってきた。
あ、《 welcome 》だ。
そう確信した途端、その文字列は玉の後ろ側へと後退し、代わりに手前に新たな文字列が浮かんで来た。
それも、自己紹介でもしているかの様に、一文字づつ次々と全面を覆う大きさで現れては消えた。
エム?アイ?アール?エー?ケー?ユー?
《 M I R A K U 》って?
皆目見当も付かない。
全く意味不明だ。
首を傾げていると、「MIRAKUでミラクと読むの。」と女は言った。
「何か、随分優しくなっちゃったね」
そう言って、しまったと思った。
また怒鳴られるかと思ってびくびくしていると、女はその場にしゃがみ込み、玉を名残惜しそうに手の平で何度も優しく撫でた。
「ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。」
女の声に反応した玉は、一旦金色に染まるとその金粉が表面に浮き上がって来た。
女の手の平には、その金粉がペンキで塗り付けた様に隅々まで付いた。
女は、そっと手の平を包む様に両手で大切に自分の胸へ当て、じっと目を閉じ、目から大粒の涙を幾度も落とした。
その後、一旦透明のガラス玉に変化した玉は、今度は万華鏡の様に異なる見た事もない模様を描き始めた。
そんな次から次へと起きる奇跡に、只々驚嘆するばかりの俺の口から出て来るのは、ハ、とか、マ、とか、ホホ、とか、言葉になら無いものばかりで、開いた口を閉じる事すら忘れていた。