➖ その8 ➖
店の中は熱気と大歓声だった。
勿論、この騒ぎは俺にとって良い結果になったと言う意味の物じゃない。
そんなことは分かっている。
「黒田官介君!良く頑張ったな!」
そう言って両手を上げて喜んでいるのは又太郎だった。
「ソウソウ、ダイケントウネ!」
マセコも手を叩いてハグしてきた。
次々と、さっきまでのライバル達が満面の笑みで手を握って来る。
だけど、どの顔もどの会話も遠く感じてしょうがない。
たまで他人事の様に聞こえる。
俺は、今笑っているのだろうか……
それとも、恐怖に怯えた青白い表情を見せているのだろうか……
それとも、悲しみに暮れて暗く落ち込んだ表情を見せているのだろうか……
「それでは!全員揃ったので、結果発表と参りたいと思います!」
その前に、と念を押して又太郎がペナルティーについて話を始めた。
「本日のビリッけつのチームの代表者には、参加者全員の食事代全額を支払っていただきまーす」
全員が、ボードに向かって金額の表示に注目した。
喜一郎が、そろそろと前に進み出て言った。
「本日のお食事代の合計は、こちらじゃあ!」
ドドーン!とファンファーレが鳴って金額の数字が大きく出た。
《➖➖➖,000》
イチ!ジュウ!ヒャク!セン!マン!ジュウマン!ヒャクマン!イッセンマン!イチオク!
全員が大合唱となった。
《¥328,459,167》
同時に大歓声と拍手が起こった。
そして全員の視線が、俺に向けられた。
俺だけが呆然と突っ立っているこの光景は、一体何を意味しているのだろうか……
頭の整理がまだつかない。
改めて全員の顔の表情を見つつ、落ち着いて、落ち着いて、と自分に言い聞かせていた。
この次に喜一郎から発せられる言葉は、絶対に聞きたくない。
急に目の前の視界がグニャリと歪み始めた。
「黒田官介君が支払う金額じゃー!逃れられぬ定めなのじゃあ!」
次から次へと、入れ替わりながら皆んなが俺の顔を覗き込んでくる……
どの顔も化け物だ……
モンスターだ……
紫の肌、緑の唇、赤い目玉に黒い牙……
何なんだこいつら、おかしいと思ったよ、俺は罠にはめられたんだ……
そう、まんまとモンスターの餌食にされるんだ……
終わったんだ……
これが終止符、人生の幕が降りる、終演……
ああ母さん、父さん、ゴメンね、俺は所詮この程度なんだよ……
麗亜、本当の姉弟じゃ無いけど、父さんと母さんの事頼むよ……
本当は、麗亜のこと……
ゴメン、もう俺行かなきゃ……
もう、二度とこの世には戻れないんだ……
永遠の別れの時って、こんなにも呆気なくやって来るんだね、母さん……
ああ、離れて行く……
ああ、昇って行く……
これって、いわゆる《天国へ召される》って状態では?
意外に苦しく無いんだな……
なんか実感として感じる気がするな……
でも、やっぱり疲れたな……
眠りたいな……
そのまま俺は、暗い穴へと落ちて行った。