➖ その10 ➖
「分かっちゃ!」
暫くボードを覗き込んでいた喜一郎が、突然叫んだ。
皆んな一斉に、喜一郎の顔に擦り寄る程自分の顔を近付けた。
俺も遅ればせながら、割り込んで覗き込んで見た。
すると、喜一郎におもむろに右手の人差し指を掴まれ、ジロジロと舐められる様に見られた
「恐らく間違いねえじゃろ。」
皆んな一斉に、俺の人差し指に食いつく様に群がって来た。
「ちょ、ちょっと〜、何?何なの」
皆んな鼻をヒクヒクさせながら、天を仰いで何か考えを張り巡らせている様だった。
「皆んな分かっちゃじゃろう」
皆んな一斉に、無言のまま首を大きく左右に振った。
「しゃあねえのう、バカばっかりじゃのぅ」
喜一郎は自分の人差し指を一旦真上に真っ直ぐ伸ばし、ゆっくりと自分の鼻の穴に差し込んだ。
「はあ⁈」
一斉にどよめきが起こった。
「鼻くそじゃ。」
と、喜一郎は鼻の穴に人差し指を突っ込んだまま言った。
いやいやいやいや意味分かんねえし、と口々に皆んな呆気に取られ、その場から離れた。
この爺い、もうろくの極致なのか?
それともおちょくってんのか?
すると、喜一郎が、
「これは、トップシークレットじゃが、特別に教えちゃろ」
と開き直った様に腰に両手を置いて話し始めた。
「MIRAKUは、人間の鼻くそが死ぬ程嫌いなんじゃ。」
「……」
「動物のは苦にならん、らしい。」
「……」
「塩分が多くて悪臭が酷い、人間の鼻くそは。」
「……」
「因みに、わしの飼っとる犬のマサヨシの鼻くそは、全然塩気がなかっちゃ」
「……ぷっ、食べたんだ。」
女子高生のミキがボソッと言った。
「マサヨシは家族同然じゃ。」
そう言って、喜一郎はポッと赤面した。
「で、食べたんだ。」
「……チョビッとだけ。」
途端に店内は大騒ぎになった。
女子全員の驚きと軽蔑の混ざった奇声が渦を巻いた。
「もう!長老の変態!」
「二度と私の体に触れるな!」
「先生に知らせてやろう」
「犬人間だ!犬人間だ!」
「長老に触るな!菌が移るぞ!」
こりゃ面白い事になったぞ。
これが想定外の展開、てやつだな。
ドッキリは、こうでなくっちゃ。
いや、待てよ……
これって、ターゲットが俺から爺いに方向転換された、って事なのか?