➖ その6 ➖
「私達は、別に良いんだけど。あんたさあ、そんなに余裕かましてて大丈夫なの?」
OLの一人が、長い髪を掻き上げながらダルそうに言った。
「そうそう、高校生が払える額じゃないよ、大変。ねえ……」
「お金はね、いざとなったらご両親に相談すればいいかも知れないけど、女の子に負けちゃったなんて知れたら、笑い者にね……」
「やだ、あんた今女の子って言った?私達もその中に入れてたりして、やーだちょっと図々しいんじゃない?」
「良いわよ、どうせ分かんないわよ。」
おばさん達が口々に言いだした。
チョー受けるんですけど、と言って隣では小学生がゲラゲラと笑い出した。
「あんたさあ、ごちゃごちゃ言ってないでさあ、直ぐにパスをそこに置いて始めた方が良いよ。」
「こっちはあんたら番組の仕掛け人の事まで考えて色々言ってやってんだよ。別に義理もねえし、このまま知らん顔して店から出てやってもいいんだ」
と、OLに向かって消え入る様な小声で反論した。
「はあ?何か言いましたか?聞こえてますかー?男子の癖に意気地なしですかー?」
「本当。私の弟なんか小学4年生だけど、あんたよりずっと男気が有るけど。ぐずぐず言わないし」
「なんかさ、言い訳ばっかの男子ってチョーダセエし」
高校生女子からのこの言われ様に気持ちの箍が外れた。
「うるせえ!黙って聞いてりゃ図に乗りやがって、親切心で言ってやってんだろうがよ」
はあ!
突然張り上げたその声は、消防士の三姉妹の一人だった。
「自分が置かれている立場が分かってないみたいだから、この際きちっと教えといてやるわ。親切心?寝ぼけてんじゃねえや!ここに居る人は、お前の闘う相手なんだぞ!敵に親切心ってなんだ?お前は勝ちたくねえのか。はは〜ん、そうか分かった、怖じけずいて逃げてるわけだ。女に負けそうだから、正義ぶって回避しようと必死って訳ね」
「それから、これが一番大事な事だけど。あんたに残された時間は三日だけ。この三日間でMIRAKUが認める人格者に成長出来なきゃ、元の世界へ帰れないんだよ。」
「帰れなければ、お前はこの世から抹消される。お前の存在が消えて無くなるって事。何故なら、役に立たない者が数揃っていても国の為には何の利益も無いからな。あ、心配しなくてもいいよ、別に痛い思いして殺される訳じゃ無いから。MIRAKUが手を放せば、それが寿命切れで自然消滅って事だから。」
「いくら鈍いあんただって知ってるだろ。突然姿を消したまま行方知れずに成っている人達。あんたらの世界では、色んな推測でテレビのワイドショーなんかで賑わってるけどさ、彼らは二度と家族の元へは帰れないんだよね。」
「あんたも、その内の一人になるかならないかの瀬戸際に立たされているって訳。どう?少しは実感湧いた?」
矢継ぎ早に三姉妹に言われ、ポカンと口を開けて聞いていた。
「これが本当のお手上げって事じゃな」
又太郎に言われた言葉に、これまでの緊張感が一気に終息した。
「クククク……ぶあっははははは!」
もう笑いが止まらなくなった。
ここまで徹底した演出とは、そのこだわりぶりに驚くし呆気にも取られるし、感心するしかなかったが、同時に、仕掛け人の皆んなが余りにも滑稽過ぎて、もう心底気の毒に思えてならなかった。
しばらくテーブルに伏して笑い転げていたが、やっとの事でそれも去り、俺の中でやっと方向性が決まった。
馬鹿になろう。
この際、徹底的に楽しませてもらおう。
そう決めると、身も心もスッキリと、そして晴れ晴れとして来た。
「ハイハイ分かった分かった、やろうやろう。この玉をここに置けばいい訳ですね。簡単デース。」
そう言うと、俺は玉をボードの中央部に近付けた。
すると、表面がグニャリと揺れると、受け皿の様な突起がせり出てきた。
そこに迷わず玉を置くと、玉の中にまた模様が見え始めた。
《Standby OK?》
そして、ボードには《00:18》と表示され、どうやらこの時点でペナルティに値する超過時間を止めてくれたようだ。
途端に全員が、その超過タイムを覗きに集まって来た。
「18分か……かなり行っちゃったね。こりゃ無理かも」などと皆こっちに同情の表情を見せつつも、勝負あり!とでも言いたげな笑みを浮かべ、自分のテーブルに帰って行った。
しかし、この玉もボードもほんと良く出来てるよな。
これを開発している会社へ就職する、てのも有りだよな。
俺といえば、周囲の空気も気にも留めず、そんな事を考えながら改めて各チームの顔触れを確認していた。