➖ その4 ➖
喜一郎は、俺に玉をポイっと投げ返した。
立体映像は瞬時に消え失せ、ボードには詳細を記した文字が箇条書きになって出て来た。
だが、誰もそれを見ようとしなかった。
既に熟知している、といった雰囲気だった。
喜一郎がボードの真横にちょこんと立った。
また何処かに飾られている狸の置き物の様に、そして目を細めたままひょこひょこと時々ボードへ顔を向けていた。
内容を直ぐに確認しろと言う事らしい。
『祝!黒田菅介君問答無用のハッスルショータイム!肉入り野菜炒め大盛りライス早食い選手権!』
➖ 勝つための10ヶ条 ➖
➊30分1回勝負じゃ。
➋より多く米を食ったチームの勝ちじゃ。簡単じゃ。
➌箸を置いたり食べる動作を止めたら即失格じゃ。
➍勝つために必要なあらゆる知恵を絞り出すんじゃ。
➎敵を舐めたら痛い目に合うんじゃ。
➏途中棄権は許されんのじゃ。
➐泣き言も言い訳も聞いてやらんのじゃ。
➑食うか食われるかじゃ。
➒命懸けでやるんじゃ。
➓負けチームのリーダーは責任を取って参加者全員の焼き肉代を払うんじゃ。
※尚、既に開始時間が遅れており、MIRAKUの時間厳守の掟を破った罪は重い。したがって、敗者は焼肉代➕違反金(後日金額請求)の返済義務が課せられる。
目が点になった。
要するにだ。
30分間に一番多く米を平らげたチームが勝ち、て事で良いわけだ。
だけど、最後の代金全額支払いってのがヤバイな。
それに、違反金てのが見えないだけに怖しいよな……
ブルッと身体が震えた。
「さあ!お遊びはここまでじゃけえな。早う始めん事には、違反金が雪だるま式に増えるぞ」
そう言いながら、又太郎は各テーブルへ肉野菜炒めの材料を運んだ。
それは困った事になった。と騒ぎ立てたいところだが、ドッキリ的には違反金が大きければ大きい方が見応えがあるというものだろう。
どうせ、誰も払う事にはならない訳だから、ここは莫大な違反金になる様に仕向けてやろうか。
我ながら妙案を思い付いた、と有頂天になっていた。
この斬新さに感動した番組プロデューサーが、収録の後に涙を流して手なんか握って来たりして。
「菅介君、パスをボードの真ん中に出て来る受け皿に置いてくれや。それが開始の合図になる」
これは願っても無い展開になった。
要するに、俺がこのパスの玉をボードに置かなければ、何も始まらないという事じゃないか!
チョーラッキーじゃんか。
「あのですねえ。ちょっと言いたい事が有るんだけど、この際はっきり言って良いですか」
また全員の視線が一気にこちらに向けられる。
「いやあ、この状況で競技を始められても納得出来ないですね」
これまで和やかなムードだった空気がシンと静まり返えり、一片の棘が顔を出した。
「俺以外、誰も何も言わないけどさあ、ここに居る皆んなはこのままで良いと思ってる訳?」
鋭利な棘は、二本、三本と無音の空間に確実に増えていった。
「い、いや、黙ってるけど……」
堪えきれない怒りが一気に胸の奥から噴き出て来た。
「おい、聞いてんの?俺の話し。てか、おちょくってんの?なあ」
棘は急速に数を増やし始めた。
「不公平だっつってんの!頭大丈夫かよ。」
段々と、皆の顔に血が上り始めているのが分かった。
監督や消防士の三姉妹のこめかみには、青筋がクッキリと表れていた。
良いね〜
この険悪なムードこそドッキリの一番の見所ってことでしょ。
「俺んとこのチームは、どう見ても一番不利でしょ。」
嘘だった。
唯一、勝てると確信が持てるチームが有った。
だけど、本心を明かすことはしない方が良いだろう。
今は難癖でもこじ付けでも何でもやって時間かせぎを楽しんでやれ、そんな短絡的な考えただった。