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MIRAKUで「必ず!」宣言  作者: 百合男爵
19/42

➖ その9 ➖

それは、OL風のスーツ姿の女達が四人、スーパーの買い物袋を下げた中高年の主婦が四人だった。


途端に店内が騒がしくなった。


五つのテーブルは一席を除いて満席となった。


しかも、俺を除いて客が全部女という状況に、居心地の悪さはぐんと増したようだ。


「又ちゃーん、生四つね」


主婦四人組は早速ビールを注文し、皆暑い暑いと首に巻いていたタオルでしきりに汗を拭いながら、持って来たビニール袋の中から特売品を引っ張り出すと、ワイワイ大騒ぎで品評会を始めた。


OL四人組はコーラを注文し、こっちはこっちで会社の内部事情の愚痴り合いを始めた。


「カウンターの高校生の君」


突然声をかけてきたのは、女子相撲の監督だった。


「え、僕ですか?」


「君以外に誰もいないでしょ」


クスクスと笑い声が響いた。


高校生の女子達が顔を見合わせて笑っていた。


「うちの子供達のテーブルにさあ、一緒に座ってやってくれない?そこの奥のテーブル。」


見ると、そのテーブルに座っている小学生の三人は、下を向いてクスクス笑っていた。


「おう、兄いちゃん、カウンターはこれから使えんけぇ、テーブルに移ってくれや」


又太郎が追い打ちをかけてきた。


まわしを締めた小学生の女の子には、正直かなり照れもあったが、これも致し方無し、てことで割り切るしかないようだった。


「あ、はい。僕で良ければ。」


そう言いながら、鞄を胸元に抱え、出来るだけお行儀よくスッと座るよう心掛けた。


相手は小学生とはいえ、嫌われるのは辛い。


子供達は、足をバタつかせてゲタゲタと笑い出した。


「気にしなくて良いから。子供達は照れてるだけだから。」

そう言う監督こそ、腹に手を置き笑いをこらえているのが見え見えだった。


まあ、そんなことは取るに足らない、と言うかこれまでの俺の人生の中では良くある事、て言うかいつもこんな感じなので、笑われ慣れてるし馬鹿にされる事も慣れてる訳だ。


しかも、幅広い年齢層に渡って。


椅子に腰掛けたら、早速挨拶でもしようと、隣の女の子に軽く手を挙げた。

勿論、自分の中ではこれ以上は無い最高の笑顔も添えて。


途端に彼女は立ち上がると、自分の腰掛けていた椅子を引き摺り、前の席の女の子二人の横に押しかけた。


「あ、嫌われちゃったかな?」


そう自分で発した言葉を一瞬後悔した後、次に彼女達から帰ってくる言葉を察していた。


三人は、互いの耳元に口を付けてはひそひそ話しを始めた。


自分の体温が急上昇するのが分かる。


嫌な感じ。


初対面の、特に異性を目の前にしてのこのなんとも言えない気持ち悪さ。


そう、あえて言うなら、石油系の粘土を、無理矢理口の中にねじ込まれて咀嚼させられる、そんな感じだ。


「キャッ!キモーい!」



「舌で鼻の下を舐めてる〜」


「うちの犬の方がマシだよ〜」


良く分かってる。同級生や年上なら未だしも、歳の離れたガキに馬鹿にされるのだけは、嫌なんだ。


喉が急速に乾いていく。


口の中で舌がカタカタと音を立て、口内の粘膜から唾液の分泌を促し始める。


「小学生?えー⁈嘘、高校生だっていってたよ」


俺の目の前でそのヒソヒソ話しは止めろ!


いい加減にしろよ。ガキだからって容赦しねえぞ!


もうこれ以上は耐えられないところまで来た。


全身に痙攣が起こり始めた。


両腕を振り上げ、怒りを込めテーブルへ叩きつける自分の姿を思い描いた。


「お前ら、全員オレンジジュースでええな」


ハッとして横を向くと、監督が腕組みをしたまま仁王立ちだった。


何を思ってか、俺を見る表情は、聖母が子供をあやす様な慈愛に満ちたようなものだった。


何だろう……


今しがたあれ程こみ上げていた怒りが、まるで何処かへ一気に吸い込まれるように、嘘のように終息していった。


監督は、勝手に子供達の注文を済ませると、アザース!の声が店内に響いた。


彼女は、既に消防士の三姉妹と同席を決め、自分は生ビールに目を細めていた。


ここまできてやっと番組の構成が見えた気がした。


改めてこの店に来てからこれまでの経緯を見つめてみると、実に良く計算されているのが分かる。


一風変わった店主にへんてこりんな爺さん、体育会系消防士の三姉妹に学生女子相撲の一行、後はOLのお姉さん連中におばさん連中だ。


ドッキリにはこのエキストラは最高な顔ぶれだよな。


凄くリアルだし自然でもあるな。


ここは、一旦自分も喉を潤し、表面的には平静を装いつつ、どんな展開にも対応できるよう心積もりだけでもきちんとしておかないと。


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