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MIRAKUで「必ず!」宣言  作者: 百合男爵
16/42

➖ その6 ➖

このオヤジは、又太郎の父親の喜一郎だった。


喜一郎は、怯える俺にその笑い顔をさらにクシャクシャにして両手でおしぼりを差し出してきた。


素足にビーサン履きでピタピタと音を立て、ガニ股で歩く。


そのとことんくたびれた姿に、すっかり引き込まれていた。


このオヤジ、エキストラの常連かな。


あのわざとらしい笑顔なんか、本人からしたら、迫真の演技ってとこかな。


「案外強者だったりして」


そんな事を小声で呟きながら、受け取った冷たいおしぼりを開いて、またギョッとした。


マダラ模様になった黄ばみが目に飛び込んで来た。


唖然として喜一郎を見た。


喜一郎は、相変わらず肩をすくめてクシャクシャの笑い顔のまま、こじんまりとカウンターの隅に立っていた。


ぷっ、これまた強烈な個性のオヤジだな。


まったく、これじゃあ何処かで見た安い狸の置き物だよ。


そんな事を考えていると、ふと喜一郎の頭上の壁にゴールドのプレートが貼り付けられていることに気が付いた。


➖ 焼き肉屋 味楽 志宣言 ➖


「え?なんだあれ。」


そお呟きながら、その下に書かれていた解説を良く読んでみた。


「当店は、お客様にとことん満腹の幸せを与えます。志宣言町『MIRAKU』推薦店。だって。」


へ〜、マジうけるぅ!


この演出は中々面白いと思った。


新作のドラマの撮影に使われてたりするのかも。


そう考えると益々わくわくして来た。


そこへ甲高い又太郎の声が飛んで来た。


「兄いちゃん、あんた野球はどこのひいき?わしはタイガースじゃ。今年は絶対優勝じゃけぇ」


そう言って又太郎は、いつの間に付けたのか、テレビの野球中継を見ながらタオルをバット代わりに素振りの真似をした。


又太郎の言葉は、恐らく広島辺りの方言だと思った。


でも、このおっさん、東京に居て広島弁で阪神タイガースを応援してていいのかな。


今の会話を聞かれたら、ジャイアンツファンにもカープファンにも袋叩きに遭いそうだけど、マジで。


「あ、あのう、どうやって注文したら、って言うか、このお店のシステムはどうゆう感じなの……でしょうか」


店内を見渡して見ても、メニューと思われる物は見当たらない。


その時、まるで馬か牛かの競舎かと思わせる程の店の奥にある大きな木製の扉が、ゴゴー!と重い引き摺るような音を立ててじわりと開いた。


外からいきなり飛び込んで来たのは、黄色の耐火スーツに身を包んだ三人の消防士だった。


三人は、各テーブルのガス栓や消火器の位置など、いちいちヨーシ!ヨーシ!と気合いの入った指差し確認を怠らず、店内を一通りチェックした後、最後に互いを指差し、ヨーシ!完了!と声を掛け合い終了した。


いきなりの想定外の訪問者に唖然となった俺は、思わず席を立って只々呆然と眺めていた。


「牛?豚?」


又太郎の問いに、消防士の三人は同時に牛!と言ってそのままテーブルへドカッと座った。


え?女?


先程から、妙に小柄な体型と声の細さに違和感を感じていた。


すると、三人はスルスルと上半身の耐火スーツを脱ぎ、スポーツブラ一枚の姿になった。


グレーのそのスポーツブラは汗だくで黒っぽく変色していた。


しかも三つ子⁈


三姉妹のその見事に鍛え上げられた逆三角形の上半身からは、メラメラと大量の湯気が立ち昇り、お揃いのベリーショートに刈り上げた頭部からは大量の汗が滴り落ちていた。


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