第2章 焼肉屋『味楽』 ➖ その1 ➖
電車は、蒸せ返るような暑さの中をメラメラと陽炎を揺らせながら進んだ。
「お客さん、とっくに終点ですけどね。降りる気無いんですか?」
フンガ!と自分の 豚鼻で目を覚ました所へそんな声が聞こえたもんだから、ビックリした俺は、慌てて両手両足をバタつかせてV字バランスを保とうとした。
「無理無理!限界だよ、誰かこれを下ろして……」
「後5分で発車しますので」
車掌はそれだけを言い残し、次の車輌へと移っていった。
あれ?
ん?
目を擦り、腹の辺りを良く見ると、大きな玉は影も形も無かった。
俺……寝てたのか?
ガバッと起き上がり、改めて周囲を良く見ると、窓の外にはのどかな田園風景が広がっていた。
更にその向こう側には、こじんまりと町並みらしき情景も見えた。
ホッとして思わず深いため息をつく。
いったい何処まで眠ってしまったんだろう。
一先ず外へ出て現状確認するしかない。
窓の外には駅名の案内板が見えた。
『MIRAKU』
しかし、鉄道会社の表示すら無い。
いったい、ここって何線なんだ?
山手線では無い事は確かだと思うが……
そもそも、俺が乗った駅は……
あ、あれ?思い出せない。
俺はいったい何処から電車に乗ったんだっけ?
考えれば考える程、こめかみの辺りに針を刺す様な痛みが起きた。
夢で見た玉を、無意識に手探りで見つけようしていた。
とりあえずホームのベンチに腰掛け、念のため鞄を開いてみると、探し物は鞄の底にひっそりと収まっていた。
思わず目を背け、慌てて蓋をした。
そして、そのまま鞄を胸の中できつく潰れるほど抱きしめた。
違う違う、今のは錯覚に違いない……
鞄の底を外側からの感触で確かめると、丸い物の手触りが感じられない。
ホッとして蓋を開けて覗き込んだ。
「⁈」
やっぱあるじゃないか!
夢じゃなかったんだ……
息が止まりそうな程の得体の知れない恐怖感が、咽喉元から一気にせり上がって来る。
背筋にぞわぞわと寒気が走り、思わず目を閉じ天を仰いだ。
何度も深呼吸を繰り返し、やっとの事で目を開くと、向かい側のホームの壁に貼られていたバカでかい広告が目に飛び込んで来た。