第1章 いきなりのMIRAKU行き ➖ その序章 ➖
MIRAKUで「必ず!」宣言
「必ず!」
その町は、この「必ず!」を絶対的な理念として外さない。
決めた事は、必ず具現化させる。
出来るか?
出来ないか?
は問題では無い。
やる気があるか?
やる気が無いか?
これも問題にしない。
悩める者の前に突如として現れるこの町の名は、
MIRAKU。
MIRAKUは、「いやでも志宣言させたい町」と自ら謳う、まったく何処にも属しないお節介主義の町である。
人が成長する為には、自身がそれまでかたくなに持ち続けて来た、閉ざしたままの古く錆びきった殻を破らせる必要がある。
併せて強靭な信念と力、そしてそれを発揮せざるを得なくなる高いハードルが必ずいるだろう。
そう、自分の生きる意味を実感する為に、それまで味わったことの無い、大きく輝ける「舞台」が必要なのだ。
さて、「毒牙にかかった」などと言う例えは、人間同士の様々な駆け引き的なシナリオにおいては意味を発揮するものだが、MIRAKUで降りかかって来る様々な試練は、この学生生活終了間際の高校生男子、黒田官介にとっては、まさに〝毒牙〟にかけられた心境だったに違いない。
身長150センチのチビ。
「風貌」と言う言葉でわざわざ彼を表すこともわずらわしい。
彼が持つ外見的特徴に見るインパクトの薄さは、その他大勢と言う枠組みの中では一番すんなりと収まれる、程度。
卒業と同時に同級生の意識の中から完全に削除されてしまう、そんな程度。
個性と言えるものは、あえて言うならば身長の低さぐらいなのか。
そう言えば……外見で一箇所。
そばかすだらけの顔面の真ん中に、それは控えめにぽっかりと酸素吸入穴が天に向かって二個反り返っている「鼻」と言う代物がある、とやはりそんな程度。
どう考えても、女子高生などには真っ先に記憶から削除されてしまう事間違い無し、だ。
官介が両親からの将来の期待を一身に受けて頑張ろうと奮起していたのは、高校入学後僅か三ヶ月の間だった。
いきなり、周囲の異常な(官介から見てだが)身体的成長を日々見せつけられ、スタートでつまずいたその後は、見事に体力的にも学力的にも、全てにおいて我が身がおき戯れ感に支配されてしまった。
そんな暗黒の3年間だった。
やっと彼らと離れられると喜んではいたものの、卒業後の進路へ胸膨らます同級生達の眩しすぎる笑顔を見る息苦しさに耐え切れなくなっていた。