3話
前回突然何かから逃げるように去っていった夏姫その原因とは?
一旦落ち着こう、僕。今度はもう少し冷静に天の川を観察、いや観測しよう。
双眼鏡を覗いた時、
「なんだ、星でも見ているのか、愚弟よ」
僕の嫌いな声が聞こえた。
「うぉおおっとっと」
何故あのコが足早に去って行ったのかだが、やっぱりだ。その原因となる人物は、数人の供を従え、だらしなく垂れた長すぎるマントの両端を、二人の侍女に一つずつ持たせて(女の子にこんな扱いするとは許すまじこの男)優雅に歩いてくる。彼の隣には先ほどの小娘(神楽夏姫)の姉上様でいらっしゃる、神楽 凛 様(「様」をつけない者は死刑)が、落ち着いた雰囲気をまとって歩いている。今日も相変わらずお美しい・・・クンカクンカ
「星・・・とは少し違いますがまぁ、似たようなものですよ、兄上様」
「フン、相変わらずいけ好かないなお前は」
「奇遇でございますな!たった今全く同じことを思っておりましたので!」
「ッ!貴様・・・」
「・・・早く参りましょう、一龍様、今日の祭りはあなた様が主役なのですから」
凛とした声。
凛だけに。
これでさっきの女の子と血が繋がってるっていうんだから人間って不思議だね。
「なるほど、今日で兄上も16歳になられるのですか、ご立派になられて、この愚弟も嬉ばしい限りでございます」
僕の村では男は16で成人となり、元服の儀式が各自行われる。
「大袈裟な、お前も明日には16歳であろうが」
「そうでございましたな、母上の中でもたもたしておりましたら日が変わってしまいましたので」
そう、変わってしまった。何もかも。
「フハハハっ!何と滑稽な話か、だからお前は何をやらせてももたつきおるのだな、納得だ」
そう言いながら、いつのまにか太鼓の音が鳴り始めた村の広場に向かってゆっくりと歩いていく。少し離れてから
「もしくは前にいらっしゃった方がもたついていたからかもしれませんがね」
と小声で言ってやった。
「ふふ、聞きましたよ、一虎」
「っ!?凛様!いつの間に!」
彼女の白銀の髪がさらりとなびいて僕の頬に触れるほどに神楽凛「様」のお顔は、僕のすぐそばにあった。さっきの妹君といい、本当に恐ろしい一族だ。ちなみに一虎は僕の名前です、僕、天羽一虎と言います。よろしくお願いします。
「いつも妹がなにかとお世話になっているようで・・」
「いえいえっ!むしろご褒b・・・ではなくてっ!」
「ごほう?」
「こ、ご奉仕、ご奉仕させていただいてます」
「それにしてもあの子、何か失礼なことをしてはいないでしょうか」
「いえいえいえいえっ!見てるだけで目の保y・・・じゃないですね、あれ?」
「目の・・・?」
「め、目の・・・目の・・・保湿っ、保湿になりますぅ!」
「よく分かりませんが、少しはお役に立てているのでしょうか」
「もちろんですとも!はは、ははは」
「そうですか、よかった。どうかこれからも、よろしくお願いいたします」
言葉を重ねる彼女の表情が、いつもの凛とした表情に比べると、なにか切迫しているようなものに見えた、が、一転艶美かつ奥ゆかしい笑みを浮かべて、一礼してその場を去っていった。
長い銀髪は、流れ、月光を反射して、まるで自ら輝いているかのよう。白い花の柄が入った、藍色の浴衣の裾から伸びる足は、(よだれ垂れてきた)花の茎のようにしなやかでかよわい。・・・双眼鏡どこだっけ。
「さてと、どれどれ・・・?お、あの娘・・・ハハ、ふつくしい・・・。あの娘もいいな、あ、あの娘は今日散歩中に見たぞ。お、おぉ・・・お?おっほほwオゥ、イェア、イェス・・・」
そうして祭の夜はふけていく・・・
兄妹というのは厄介な生き物ですがなかなか嫌いにはなれないんですよね。
「妹うぜぇ、まじいらねーわ妹とか」
とか言ってる人は僕にください。