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"招き人"の召喚ー2

~“王”の分野の“招き人”はすべてにおいて人々の頂点に立つ存在である。その分野の先人から知識を学び、ともに発展させていくことが出来る唯一の存在である。

 そして“王”は自分が来た時代の王の子女と結ばれ、次の世代を作っていく。これは初代“王”であるミサキから伝わる習わしである。“王”は必ず国王の子女と結ばれる性別の者がやってくる。

                       列王辞典、“王”の記述より~



 鏡をくぐると何とも言えない感じが体を包む。例えるなら少し粘り気のある水をくぐった感じだ。

 すぐにその感覚は消え視界が鮮明になり、見えるのは豪華に作られた王城の一室である“鏡の間”である。



「おかえりハルトさん。遠征はどうだった?」



 声をかけられた方を向けば一人の女性が立っていた。身長が170㎝を超えたモデル体型で抜群のスタイルの身体を白を基調とし、肩や袖などの一部分に派手すぎない金の装飾や、青の飾りがついた軍服に包んでいる。容姿もまぁ完璧に近いものをしており、道行く人が振り返るレベル。

 そんな素晴らしい女性、アリサ・I・ハンニバルが部屋の入り口近くで微笑んでいた。



「……城の中でそんなにフランクに話さないでください。ハンニバル卿」

「いいじゃないですか、私と貴方の仲だし。何より同郷の間柄なんですよ私たち」



 俺の言う事をサラッとスルーする彼女。彼女の言う通り、彼女も俺と同じ“招き人”である。彼女の分野は“戦”、武官の中で一番レアな分野だ。

 この分野は今までに確認された数が少なく、彼女で13人目。名前の通り受け継ぐ苗字はハンニバル、彼女の正式な名はアリサ・I・ハンニバル13世。彼女自身は人当りもよく、男女関係なく好かれている。国民の人気も結構高い。



「ねぇ、いいでしょうハルトさんって呼んでもあと私のこともアリサって呼んでよ。それとも貴方の事はヘルメス伯爵のほうがいい?」



 首を傾げて聞いてくる。こいつ確信犯だと思いながら顔を背けると、嬉しそうに小さく笑う声が聞こえる。さっき伯爵と呼ばれたが、この王国にも爵位が存在する。

 相続とか継承とかの詳しいことは分からないが、分かっているのは、俺が日本で知っていたものと同じ五等爵であり、列王記を読むと昔の“学”の“招き人”によって導入されたと書いてあるので、俺が知っているものと同じのを昔に導入したのだろう。

 “招き人”は基本伯爵の地位に列せられる。先代が何かやらかしたりすると子爵の可能性もある。例外として“戦”などのレアなものや、“政”などの特に重要な分野は侯爵になる。

 彼女は俺に遅れること三ヵ月、この世界に来た。年が近いという事もあって俺が最初彼女の相談役を務めていたが、次第にその必要がなくなり、爵位もあって俺は敬語で接するようにしたが、彼女はずっとこの調子で話してくる。

 そして毎度俺が敬語で接していると最後は決まって



「じゃあ、ミネルバさんに言おうかなぁ。ハルトさんが冷たいって」



 と言ってくる。彼女の言うミネルバさんとはミネルバ・カメリア・フォン・ローベンブルグ侯爵の事だ。

 この人は女性でありながら卓越した剣の才能を持ち、“剣”の“招き人”を同等レベルまで到達した人だ。彼女の親は地方の貴族だったのだが、その剣技で次々と戦功を挙げてついには女性でありながら侯爵に列せられた女傑なのだ。

 その成り上がりから色々と貴族から言われていたという話も聞いたことがあるが、ローベンブルグ伯爵は真っ向から腹を割って話をして周りの信頼を得たという性格も素晴らしい方ということらしい。

 基本的に誰にでも公平な態度で接しているローベンブルグ伯爵が可愛がっているのがこの目の前にいるアリサ・I・ハンニバルだ。

 ローベンブルグ伯爵曰く、「いきなり来た世界で戦いの中心に放り込まれてしまった彼女には同じ女性という身で戦場に立っていた自分が何か教えられるのでは」という事で特に目をかけているということらしい。

 そんな子から俺の態度が悪いなど言われたら、ローベンブルグ伯爵から何をされるか想像しただけでも恐ろしい。なので、いつも最終には



「……分かった。でも周りにほかの貴族がいる時はちゃんとした言葉使いに直せよ?」



 と俺が折れる形になる。何度もこのやり取りをしているのだから、いい加減諦めて敬語なしで話してもいいのかもしれないが、どうにも引っかかってしまい、このやり取りを繰り返している。


「もちろん、時と場所はちゃんと考えるよ。それにしてもいい加減このやり取りが無駄だって分かってもいいのに、ハルトさんは頑固だね。ベアトリーチェもそう思うでしょ?」



俺の言葉に頷きながら、アリサは後ろに控えているベアトリーチェに質問する。




「はい、アリサ様の言う通りでございます」



 とすぐに返すベアトリーチェ。この二人が揃うと、俺の立場が一気に弱くなるので、肩身が狭い。



「うーん、私はベアトリーチェにももっと軽い感じで接してほしいのになぁ」

「それはいけませんアリサ様。私はご主人様のメイドですので、立場が違いすぎます」

「でも貴女だって貴族じゃない。家だって立派だし」

「確かにそうですが、それとは関係がありません。何卒ご容赦を」



 ベアトリーチェの言葉に渋々といった感じで頷いているアリサ。この二人がいると途端に場が賑やかになるが、こんなことをしている時間があるのだろうか?



「そうだった。もう支度の部屋は準備出来ているみたいだから、そこまで案内するね」



 アリサは思い出したという顔をして先頭に立って歩き始めた。扉を出て通路を右に進みしばらく直進しているとき、アリサが隣に来て声をかけてきた。



「ねぇハルトさん、今回の“招きの儀”で来る人ってさ……」

「あぁ、もうどの分野が来るかは決まっているだろう」

「そうだよね、やっぱり“王”の人が来るんだよね」



 俺の言葉にアリサはやっぱりという顔をする。儀式でやってくる人数は王の即位の日に鳴く雄鶏の数で分かる。しかし具体的にいつ来るかとどの分野の“招き人”が来るのかはその時には分からない。

 儀式の日時は“泉の間”の発光によって分かるが、どの分野の人が来るのかは儀式が終わってからでないと分からない。

 しかし唯一の例外が“王”の分野の“招き人”なのだ。即位の日に鳴く雄鶏の鳴き声は普通すべて同じ声なのだが、“王”の“招き人”来る時だけは最後に鳴く雄鶏の声が他とは違う声だという。

 実際に聞いたことが無いので話でしか知らないが、列王記などを見ると確かに“王”が来る時だけは鳴き声が違うという記録があった。そして今の国王の即位の際も鳴き声が違う雄鶏がいたという。



「それに来る人は絶対に男性」

「まぁ、同然だろうな。国王の長子は女性だしな」

 “王”の“招き人”にはもう一つ特徴がある。それは次期王位継承者と別の性別が来るというものだ。

 “王”の“招き人”は次期王位継承者と結ばれ子を成すのが、最終的な使命である。

 この国は特別な場合を除き長子相続制だ。性別に関係なく長子が後を継ぐ。それは王族であっても同じで、今の国王の長子は女性で次は女王の時代になる。その人と結ばれるのだから、今回来る“王”の“招き人”は間違いなく男性だろう。



「でも今回来る人が好色な人で、私にまで手を伸ばして来たらどうしよう。私にはハルトさんがいるのに」



 “王”の事を話していたら、いきなり顔に手を当てて言い出した。



「何を言ってるんだお前は。でもそれに関しては心配ないだろう」

「それって、もしかして」



 何か期待しているような目でこちらを見てくるが、おそらく彼女の思っている答えは俺がいう事とは違うだろう。



「アリサに何かあったらローベンブルグ伯爵が黙ってないだろうからな」



 俺が言うと、アリサは「あ、うん。そうだよね」と言って少しショボーンとなった。

 俺の後ろにいたはずのベアトリーチェが肩に手を添えて何か言っている。きっと彼女が望んでいる答えはそう易々と言えるものではない。俺の思い過ごしであるならそれでいいのだが。



「でもまぁ、ローベンブルグ伯爵だけじゃなくて、俺も黙っていられないかもな」



 小さな声で言ったはずなのに二人には聞こえていたようで、途端に嬉しそうに顔を合わせている。



「やっぱりハルトさんは素敵だよ。ほら支度の部屋についたよ。話しているとあっという間だね」



 嬉しそうに言いながら扉を開けて入っていくアリサに続いて部屋に入る。部屋に入るとき、扉を押さえていたベアトリーチェが少し嬉しそうに言ってきた。



「ご主人様、先ほどはうまくフォローなさいましたね。アリサ様も嬉しそうでした」

「分かっていたのならベアトリーチェが言えばよかったのに」

「いえ、ああ言うものは殿方が言ってこそ意味があるのでございます」

「そういうものか。難しいな」

「これは慣れでございます。あまり慣れすぎるのも困りものですか」



 そういうベアトリーチェに肩をすくめると、彼女はクスッと小さく笑った。



「ハルトさーん。着替えないの?あまり時間はないんだよ」



 と部屋の中からアリサが呼んでいるのに返事をして急いで着替えるために俺も部屋の中に入った。






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