プロローグ
新しい小説です。良ければご覧ください。
勝鬨の声が上がった。耳に聞こえるのは周りの興奮した声。それが不快というわけでは無いが、今はそれを聞くことで自分の中に疲労が溜まっていくのを感じた。
「顔色が優れません。奥に入って休まれますか?」
後ろから凛とした女性の声が聞こえてくる。その声に頷きながら歓声から背を向け、自分に与えられた幕間に戻る。
「ベアトリーチェ」
「何でしょうかご主人様」
歩きつつ、自分の背後に付き従って歩いている彼女に声をかける。反応する声は何時もと変わらず落ち着いていて、淡白な声。
「今回の戦い君の活躍が無かったら、俺はきっとこの瞬間こうして生きてはいなかっただろう。感謝する」
「いえ、当然の事をしたまでです。ご主人様をお守りするのが私の役目であり、すべてです。……そして、それが我らの王国の繁栄につながるのですから」
礼を言えば、当然のことだと返される。そう、彼女が王国から与えられた使命は“公私において俺をサポートし、必要において護衛を行うこと”であり、彼女は自身の役目を果たしたに過ぎない。それを分かっていても礼を言いたくなるのは俺が“元”日本人だからなのだろうか?
そう思いながら歩いている俺と静かに付き従っているベアトリーチェ。与えられた幕間まであと少しというところで、一人伝令らしき兵が向こうから走ってきた。
俺の前で立ち止まり、一礼すると、後ろにいるベアトリーチェに何か伝えている。立ち止まって振り返り、彼女たちを見ていると、聞き終えたのかベアトリーチェが頷き、伝令兵は去って行った。
兵士が去って行ったのを確認したベアトリーチェがこちらを向く。伝えられた内容を聞こうとする前に、彼女のほうから口を開く。
「申し訳ありませんご主人様。幕間でお休みになることができなくなりました」
そういう彼女の顔は相変わらず冷静で感情を感じさせない。
「何か起きたのかい?」
「そういうわけでは無いようですが、陛下から帰還せよとの命だそうです。急ぎ支度をお願い致します」
「国王から……また何か言いつけられるのかな?」
言いながら溜め息が出る。国王からの命は決して不可能なものではないが、半分の確率で難題が多い。今回はどんなことを言われるのか、考えただけで溜め息が出る。
しかし、ベアトリーチェは「……いえ」とそれについては肯定せず、辺りに人の気配が無いことを確認するかのように見回した後、そっと耳打ちをしてきた。
「伝令によれば、今夜から明日にかけて“招きの儀”が行われるとのことです」
「…………そうか」
ベアトリーチェからの言葉に短く返す。国王から言われることは無理難題があるが、今回は直接俺に関わってくるわけでは無いが、飛び切りの難題だ。
「ご主人様、急ぎましょう。あと少しで王都が鏡を開くと知らせてきた時間です」
ベアトリーチェの言葉に頷きつつ歩き始めるが、足取りは重いものだった。
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