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古の月  作者: 銀月
1.古の月
1/15

 もう死んだ、と思った。ソレと遭遇したとき、俺はここで終わるんだ、と思った。

 腐臭を放つ半分腐り落ちたような、大人の身長の倍以上あるような巨体から長く伸びた首。その先には鋭い牙が並んだ大きな顎を持つ頭。

 そいつが俺を見て、大きく口を開けた。


 ──なのに、まだ生きていた。

 どさりと何かがすぐ前に降りてきた音と、がちゃりという鎧の軋む音、ぶん、と何か大きなものを振るう音に続いて、魔物のあげる悲鳴と肉を断つ音……それからしばらく後、音が止んだ後に漂ってくる、鉄さびのような生臭い臭い。


「……無事か?」


 俺を助けてくれたはずの声は、ぞっとするほど冷たく、低く、まるで地の底かどこかから響いてくるようなものとして聞こえた。恐る恐る目を開けると、そこにいたのは……。


「獣、人?」


 真っ黒な鎧で全身を覆い、ぼうっと魔法の光を帯びた身の丈もあるほどの大きな剣を持ち……兜の隙間から見える目は青い燐光を放っている。靴は履かず、脛当てを付けた下肢の先には二股に割れた蹄を持つ足。そして、尻尾……まるで、大きなトカゲのような尻尾が後ろにすっと伸びていた。

「獣人? ……私のもとの種族は、お前たち人族からは“角持つもの”と呼ばれていたと思うが」

 首を傾げるそいつは、「だが、ところ変われば呼び名も変わる、か」と呟くと、氷のように冷たい手で俺の腕をつかみ、立ちあがらせ……すっかり怯えた俺の様子に、ふ、と笑ったように感じた。

 恐ろしげな燐光を宿した目が優しく笑んだように見えて、それがとても綺麗なものに感じられた。


「お前にひとつ尋ねたいのだが……近くに休めるような場所はあるか?」


 俺はこくりと頷いて、シェンと名乗る彼女に、自分に付いてくるようにと言った。



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