うっかりおねだりしちゃいました
皆様、お久しぶりでございます。
うっかり召喚され、うっかり居着いて、うっかり求婚された桜井莉子でございます。
え?もう忘れてたなんて言わないで。リコちゃんも別にダラダラ平凡な日々を過ごしていたわけではないの。
実は皆様から遠ざかっていた数ヶ……げほんおほん。燃え盛る山の奥に住む伝説のドラゴンを退治し、隣町まで列を為すイケメン求婚者とのお見合い合戦を繰り広げ、伝説の聖女だとリコ様記念館を建てられていたりしていたわけよ。
「……ひとっ欠片も真実の入っていない話を良くもそこまで……!」
あ、皆様、フィル君のツッコミ体質もまだまだ健在ですよ。
「お師匠様、もうコイツ詐欺罪とかで訴えた方が良いんじゃないですか。絶対に勝てますよ」
なんだなんだ、その自信は。世の中に絶対などというものはないのだよ、若造め。
「俺、お前より年上なんだけど!」
もちろん私も若造。ていうか可愛い盛りのガール。可愛いって正義らしいもんね。
「お前に正義があるならこの世は崩壊だ……!!」
あら、フィル君たら、大袈裟なんだから。私の可愛さがワールドワイドと。うん、わかるわかる。
「こんにちはリコ、今日はいい天気だな、結婚しよう」
私とフィル君のバイト先の食堂にて、毎度飽きもせず、にっこり微笑んで花と婚姻届を差し出してくる王子様、セレ様8歳。
「私を落としたいなら、“一日十食限定ランチセットデザート付き食後の紅茶はもちろんおかわり”くらいオーダーしてみせる事ね!万年、紅茶一択のケチ王子様め!」
私はすでに恒例となったやり取りでそれを弾き返した。いやんまるでかぐや姫になった気分。
「ううむ……やはりそれか」
「情報通なリコちゃんは知っている。セレ様のおこづかい、めっちゃ少ないもんねー限定ランチなんて夢の夢だもんねー」
護衛のお兄さんがひっそり教えてくれたのよ。セレ様ったらお父さん(王様)のお手伝いしておこづかい貰ってるんだって。ちなみにお手伝いとは王の執務室のインクとか紙を補充する係。地味。地味に頑張ってる、王子殿下。
「知ってて貢がせてるのか、お前鬼畜だな」
後ろを通るフィル君がボソリと呟いた。
失礼な!花と紅茶代は王子が勝手に出してるんだ。しかも紅茶代は店のもんじゃないか。
と思ったら、王子様不敵に微笑んだ。あれ?
「ふふふ……今日の私はいままでの私とは違うのだ。なぜなら先日、兄上達に“お年玉”なるものを頂いたのだからな!!」
中途半端な異世界文化、キターー!
王子様は手を掲げて、まるで全軍行進!の勢いで命じる。
「限定ランチ、持ってこーい!!!」
「よろこんでー!」
何はともあれ、お客様はお客様だ。毎度ありがとうございまーす。
「ついでに余ったお金で今流行のにゃんこメダルを買うのだ。ウォッチなるものも買うのだ。変身ベルトもなのだ」
あれだよね、お金の使い方のわからん子供に大金持たせちゃ駄目だよね。お兄様達、教育間違ったよね。
「ついでに隣国の王子が自慢してた精霊の泉も買うのだ。ミニドラゴン飼うのだ。色違いで5頭なのだ」
……一体いくら貰ったんだ。非常に興味が出て来た。ついでに5色のドラゴン見てみたい。
「おいリコ、セレ様が限定ランチオーダーしちゃったぞ。お前落とされてやるのか」
なんだかドリームにどっぷり浸かり始めた王子様を放って、呆れた顔でフィル君が聞いてくるけれど、私は頬を押さえた。
「フィル君、私気付いたの……大切な事に」
「な、なんだよ」
「今更遅いかもしれないけど、わたしっ、私達……!」
「リ、リコ?」
フィル君は上目遣いで迫る私に、赤い顔をしてどもる。風邪でも引いたのかな、大丈夫かしら。
「ーー私達、お師匠様からお年玉もらってない……!」
私の悲痛な声に、フィル君はがっくりと肩を落とした。
「分かってる。このパターンだって分かってる。しっかりしろ、俺。分かってるだろうが」
壁に向かって囁いているのは壁ドンの練習だろうか。ここに女子がいるというのに。まあいいか。
私はにっこりと満面の笑みで振り返った。
「てなわけでお師匠様、お年玉下さい」
「あまりにも自然にスルーされてたから私の存在に気付いていないかと思っていたよ」
今日もお師匠様は綺麗なお姉さん達とランチ中。毎回違うお姉さんを連れているお師匠様のさすがの腐れっぷりももう慣れた。
アルティスはにっこりと微笑んで、財布を取り出して。
「リコには可愛くおねだりして欲しいんだけどなあ。お年玉あげるからお師匠様と付き合わない?」
「お師匠様!それは援助交際という名の犯罪です!!危険な発言は控えて下さい!!!」
ついにフィル君のツッコミがお師匠様にまで向けられた。
私はアルティスが差し出した金貨をサッとポケットに押し込んで笑顔を向けてみせる。
「ふふん、良かろう良かろう。お買い物かね?薬草取りかね?このリコさんが付き合ってしんぜようではないか」
「リコもそう言う意味じゃねーが、簡単に買収されるな!しかも何故、街角の紳士風口調……!?」
「可もなく不可もなく、それなりに民に慕われている出世街道からやや外れたトーマスさん52歳よ」
「それここの町長じゃねえか!!」
絶叫するフィル君。うるさいですよ、店内で。厨房から店長が睨んでいるじゃないの、私を。コラ、何故私を睨むんだ。
弟子の様子にも構わずに、お師匠様はもう一枚金貨を出すと、それをフィル君に差し出した。彼は不意を突かれた様子で、「え」と呟いて、お師匠様とそれを見比べるけど。
「君にもお年玉。ーー限定ランチでも頼めば」
フィル君は息を吞んで。真っ赤な顔をして金貨を受け取った。
「お年玉はありがたく頂きますけど。限定ランチは自分の稼いだ金で頼みますから。デザート付きで」
それを聞いたお師匠様は、クスクスと笑みを零して。
「……君は本当に、生意気でイイコだね」
そう言って綺麗に笑った。
フィル君は困ったように、でも笑って頭を下げる。
なんだなんだ、師弟同士しか分からない暗号か。それともただならぬ仲なのか。
「それはそれでオイシイ……!」
「おい、迷惑妄想暴走女。検討はつくが止めろ」
一気に青ざめたフィル君にどつかれた。何故だ。
……そうして、おねだりに成功した私は、このあとセレ様と共に5色のドラゴンを買おうとして、フィル君に全力で止められる羽目になる。……何故だ!!