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うっかり求婚されちゃいました

 さあ皆さん、お待ちかねのうっかり召喚され系女子、桜井莉子でございます。

 相変わらずの異世界生活を堪能かつ満喫している次第でございます。

 それでは今回もわたくしの優雅で華麗なる日常を、皆様に余すところなくお伝えしようと思います。

「お前の生活のどこに優雅で華麗な要素があるの?ねえ、居候のバイト生活女子高生」

 あらフィルさんたら嫌ですわ。わたくしの存在自体が優雅を体現したようなものではありませんか、おほほ。

「お師匠様!リコが何か変なもの喰ったみたいなんですけど!」

 失礼な。わたくしだってたまには高貴な方々ぶってみたいのですわ。何たってロイヤルなボンボンにプロポーズなんてされちゃったことですし。

「リコ、魔法で翻訳できない単語があったみたいなんだけど」

 仕方ありませんわね。低能で理解力の足りない愚民でも分かるように説明してさしあげてよ。おほほほほ。

「お師匠様!リコとうとういかれちゃったみたいです!」

 フィル君今日の夕飯抜きだ。決定。



「おいお前!私の妃にしてやる!」

 いつも通り食堂でのアルバイト中に、私に向かって言い放ったのは。

 金髪に青い目、造り物みたいに整った顔立ちの『ザ・王子様』だった。

「あーハイハイ。ご注文は?どうでもいいけど人を指差すのやめろ」

 私はどうでも良いでーすという顔全開で、目の前の王子様に言ってやった。

「なんだお前その態度は!私が誰だかわからんのか!」

「えええ。なに美形は自分のことを皆が知ってて当然的な法律でもあるわけ?なら私のことは近隣諸国世界中の人が知ってるのね、照れるなあ」

 心底興味なさそうに言えば、金髪ぼっちゃんは卒倒しかけた。虚弱か。

 私達のやり取りを見て奥から出てきたフィル君は、真っ青な顔をして言う。

「リコ、それ本物の王子。セインティア王国王子、セレイエール様」

「へー。で、ご注文は?」


 復活した王子様は紅茶を頼んだ。ケチ臭いな。ケーキセットくらい行こうよ、王族。

「王子たる私が直々に妃に迎えてやると言っているのに」

 ブツブツ言ってるけど、私はテーブルにくっついたゴミを取るのに精一杯。誰だよ!オーダーに無いガム喰ってたヤツは!

「王子様からのプロポーズなんて、お前が一番狂喜乱舞すると思ってたけど」

 フィル君が意外そうに私を見る。えええ。

「だって王子様って国民の税金で生きてるんでしょ?究極のニートじゃん。手に職のない男はちょっと」

「な、なんだそれは!!王は民の為に尽くしているんだぞ!」

「だからそれ王様が、でしょ。あんた何かしてるの?パンが無いならお菓子食べればとか言ってそう」

 莉子様の痛烈なパンチに、王子様愕然。あ、図星じゃねこれ。


 追い打ちをかけるように、店に入ってきたのは我らが美しいお師匠様。

「リコちゃーん、今日のおすすめケーキセットね」

「ただいま!さすがお師匠様、太っ腹ぁ!」

「追加オーダーしたら可愛らしくご主人様♡って囁いてね」

「了解です、ご主人様ぁん!」

 街を歩くだけで美人が寄ってくる金のガチョウなアルティス様は、引き連れてきたお姉様方にもオーダーを促す。いえい、売り上げアップだぜ!

「リコ、セレ様可哀想なことになってるぞ」

 フィル君たら、せっかく無視してたのに。律儀な少年だ。

 王子様はキラッキラした目を潤ませて、私を見上げる。がしっと両手で私の手を掴んだ。おお、モテ期到来か。

「セインティアの王になる者は、一目惚れした相手と結ばれないと死んでしまうという言い伝えが」

「あっ、だいじょーぶだいじょーぶ。その王子様7人兄弟の末っ子だから。王位継承権は星の彼方。言い伝えまで到達しないよ」

 お師匠様がニコニコ暴露した。がっくりする王子様はちょっと可哀想。

「私はリコに一目惚れをしたのだ……どうしたら私の妃になってくれる?」

「10年後に出直してきて」


 セレイエール・フォルディアス・セインティア王子。

 セインティア王国第七王子、御歳8歳。

 異世界だろうと、私は犯罪者にはなりたくない!切実に。



「私はリコがイイのだ!」

「えーこんなモテ期要らなーい」

「リコひどい。でも可愛い。なんかもう全部可愛い」

 大丈夫か、この王子様。ヤンデレ属性持ってるぞ。この国大丈夫か。

 天使みたいな顔で涙目でじいっと見つめられて、ちょっとぐらっと来ちゃってる私に、王子様はなおも追撃。

「リコってどういう字を書くのだ?ちょっとここに名前を書いてみてくれないか」

「えーいいけどー」

「リコ、それ婚姻届だぞ」

 フィル君が焦ったように後ろから覗き込んで言う。なんだと!!危うく騙されるところだった!

 異世界言葉はお師匠様の魔法で自動翻訳されるけど、文字は読めないんだ。

 さすが王子、子供と言えど策が高度だわ……。

 困った私はハッと隣のフィル君の腕を掴んで、思いっきりしがみついた。

「残念でした。私、フィル君のお嫁さんになるから!」

「「「えええええ」」」

 何か今たくさん声がしなかったか。

 必殺『恋人のフリ』攻撃に、王子様はよろめいた。ふらふらと食堂を出て行く。

「わ、わたしは諦めないからなあああ!」

「あっ、待って王子」

「え!?やはり私の魅力に気付いたかリコ」

「お勘定。王子様といえど食い逃げは許しません」

「……うわああああん!!」

 王子様は泣きながら出て行った。ああ、幼児虐待って通報されないことを祈る。

 どうでもいいけど、王子様であるおこちゃまが独りで下町の食堂に来ていいのか。と思ったら護衛っぽいお兄さんが軽く頭を下げて出て行った。なるほど、苦労してそうだ。


「リ、リコ、そろそろ離して」

 うわずった声に見れば、ああ、フィル君を捕まえたままだったよ。

「嫌なこった。必殺『恋人のフリをしているうちに恋が芽生えちゃった』攻撃中だから」

 私の返事に、フィル君は赤くなったり青くなったりする。

「な、な、何言ってるんだよ!」

 慌てた彼ににやりと笑ってみせたら、ますますフィル君は真っ赤になって——


「こらバイト!サボってるんじゃない!」

 店長の雷が落ちた。比喩じゃなく、魔法で。

 ごもっともですね!すみません。



 そのあとなぜかオムライスをオーダーしたお師匠様に、ケチャップでハートを描かされたあげく、魔法使いでもない私に「私の膝の上で『おいしくな〜れ』ってやってね」などという羞恥プレイ魔法を使わされ、この人の偏った異世界情報は何なのだろうとしばらく悩む羽目になる。

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