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うっかり敵を作っちゃいました

 異世界からこんにちは。今日も元気に桜井莉子です。

 人類最後の希望、比類なき国宝級美少女のわたくしですが、この度異世界にてアルバイトを始めることになりました。

「誰が人類最後の希望だ。人外魔境の変態の間違いだろう。しかも美少女とバイトは関係ない。だいたいお前はどう頑張っても平凡地味女だ」

「ひとのモノローグにツッコミ無用。うっかり魔導士見習いフィル君たら照れ屋さん。プロポーズしてくれたくせに」

「だ、だ、誰が!してないだろ!」

「“君みたいに可愛い子が汗水たらして働くなんて耐えられない、どうか僕にも手伝わせてくれ”と泣いて土下座したくせに」

「お前それ妄想通り越して、別人の記憶かなんかじゃないのか!前世か!」

 最近フィル君のツッコミも素早くなってきたもんだ。感心、感心。


「いらっしゃいませー」

 街の割と大きな食堂。夜は酒場にもなるここが、私達の仕事場。

 制服が可愛いんだこれが。白い襟のついた水色のパフスリーブの膝丈ワンピースに、白いフリルのエプロン。私の世界で言う不思議の国のアリスみたいなの。

「多分その辺の文化も、そっちの世界から流れてきたんじゃね?」

 フィル君は白いシャツに黒いパンツ。シャツの襟に金色の細い鎖をしてて、おお、これアリスのウサギさんかな。

「異世界召喚って結構前からあってさ。リコの世界のやつもきっとどっかにいるよ」

 トレイを器用に指で持って、フィル君はそう言った。おお、格好良い!鼻血が出そう!ちなみに私はトレイを三回ひっくり返した。15分で三回。お願い店長、睨まないで。


「この世界で初めて異世界召喚に成功したのは、アルティス師匠なんだぜ。すげえだろ」

 フィル君が内緒話のように私に囁いた。なにそのドヤ顔。

「なん……だと?」

「うんうん、お師匠様あんなだけど、ほんっと魔導士としては最高で」

「……すべての元凶はヤツか……!」

「え?」

 フィル君はそこで初めて私の黒いオーラに気付いたらしい。慌てて私を覗き込んだ。

「っ、あのさ、お師匠様は悪くないんだって、俺が変な召喚の条件つけたから!」

「よし、あいつをロースト粗挽き超ブラックに……」

「そ、それコーヒーの注文じゃないのか!?っていうかお前散々師匠に懐いておいて」

 今にもトレイを握りつぶしそうな私に、フィル君は青くなる。そこに響く、お客さんの声。

「すみませーん、注文」

「はあーい、ただいま♡お帰りなさいませえ、ご主人様!」

 咄嗟にメイドカフェ物真似をして振り返ったら、なぜかフィル君は壁にゴンと頭をぶつけていた。ご乱心か。


 ランチも終えて、ちょっと暇になった店内。

 さっきから私と同じくらいのお年頃の女の子のグループが、ちらちらとフィル君を見ている。

「カッコイイ〜」「声かけちゃいなよう」

 異世界でもあのノリは変わらんのね。

 しかしフィル君もアルティス師匠も超イケメンだから、あれが普通で、この世界は美形だらけかと思ったのだけど、どうやらやっぱりこの世界でもフィル君たちはカッコいいらしい。てことはそんなの二人も同棲してて、こりゃ逆ハーといわずして何と言う。

「同居な、お前ただの居候な」

 フィル君がすれ違い様にツッコミを入れた。声に出してないのにすげえ。さすが魔導士。

「魔法使わなくたってわかるわ、お前の煩悩まみれの考えなんて」

「なあんだ。私と通じ合ってるってことね」

 ふふんと小娘達に聴こえるように言ってやれば、すっげ睨まれた。こわー。


「あなたフィル君の何なの。纏わり付いて生意気なのよ」

 バイト5日目にして、帰ろうとした私は裏口でフィル君ファンクラブに取り囲まれました。ハイ。

 小娘共は近所の魔法学校に通う生徒さんだったらしく、魔法を使った嫌がらせで今日は散々な目に逢った。

 オレンジジュースからカエルが飛び出し、エプロンの肩ひもが2回切れ、コーヒーのオーダーを抹茶フロートと間違えて。あ、これは単なる私のミスだった。地味すぎる嫌がらせだけどーー数撃ちゃ当たる。

「ムカつくのよ、あなた!」

 ひとりが私に向かって、野球ボール大の火球魔法を放ってきた。うわああ、赤い服のおじさんのゲームみたいだ、シャレになんねー!


「っ、これは、ルール違反だろ」


 怒りを含んだ声がして、誰かが私の肩を引き寄せた。

 ーー誰って。フィル君に決まってるじゃないか。


「打ち消せ、氷の壁」

 フィル君は飛んできた火の玉を、自分の魔法で弾いた。

「おおお、カッコイイ!!!ヒーロー参上だよ、フィル君!いま君の好感度が私の中で限界突破!カモン、ラブイベント!!」

 私は拍手喝采。スタンディングオベーション。

「ちょっとお前黙ってて」

 フィル君はあきれ顔で呟いて、お嬢様達に向き直って。

「魔導の徒の分際で、力を持たないものに魔法を撃つなんてなんのつもりだ!恥を知れ」

 イケメンの大迫力に、女の子達は泣き出しながら、走り去ってしまった。

「おい大丈夫か、リコ」

「か、か、可哀想〜フィル君もうちょっと優しくさあ」

「っ、お前!自分がされたことわかってるのか!」

「えーでもあんなのちょろいっしょ?フィル君が来てくれるって思ってたもん」

「……っ!」


 首を傾げる私に、なぜか真っ赤な顔で絶句するフィル君。


「今日はたまたま私が先に店を出たけど、同じ家に暮らしてるフィル君とは毎日一緒に通勤してるんだから、私が仕事終わったらフィル君もすぐに出てくるのはわかりきってるのに。こんなとこでリンチしたらすぐ見つかるに決まってんじゃんね。あのお嬢様たち、知らなかったのかしら」

 ツメが甘いな。うん。

「そっ、そういう意味かよ!」

 フィル君がなぜかがっかりして言った。なんだろう、何かそれ以外の意味に聴こえる要素がどこにあったんだ。

「ああ、私達通じ合ってるから、私のピンチには王子様(フィル君)が来てくれる、とか?」

「いい!もういい!とてつもなく恥ずかしいから黙れ!」

 フィル君は生まれてきてごめんなさいみたいな顔で私を見た。なんだなんだ。

「さあ帰ろう、フィル君。さっきの活躍に免じて、今日は君の好きなビーフシチューでいいよ!」

「……それ作るの、俺だよな……」



 すっかり日も落ちた街を、私はフィル君と手を繋いで歩く。

「いやあしかし、本当に格好良かったよ、フィル君。思わず惚れそうになった!」

「もうなんでもいい……」


 異世界生活も、悪くない!




ep2.fin

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