mission:1
いつからだろうか、戦争というもの自体を生業としている事を実感し始めたのは。
最近は毎日、自分が死ぬ夢を見る、あっけなく。誰に看取られることもなく、無残に、冷たく死んでいく。そんな夢だ。
タバコの匂いとコーヒーの匂いが混ざった静かな部屋で、体格のいい男はふぅ、と溜息をついた。
ガタンと音が響き、ドアが勢い良く開く。
「オイオイどういうことだ?グレンデルのお偉いさん方は俺たちに何もせず待機しろって?」
怒りをあらわにし、入ってきた男が詰め寄る。
「さぁな、だが、上層部直々の命令だそうだ。もしかすると大きな作戦の支持かもしれんぞ。」
「バカな、たった6人でか?」
確かに、たったの6人のみで戦場に送り出すなどと自殺行為に過ぎない。部屋の中にいる6人が隠密行動に向いているとは思えなかった。
再度、ドアが勢いよく開いた。
「お前ら集まっているか?よし。ちゃんと6人いるな。」
今入ってきた男、「ロベルト・ニック」。軍の最高司令官に当たる男だ。そんな彼の階級などもろともせず、一つ前に勢いよくドアを開けた男が詰め寄る。
「どういうことです軍で強いやつばかり集めて…、パーティでも始める気ですか?こんな豚小屋みたいな狭い場所で?」
隠す気など微塵もない彼の怒りにワザと気がつかないふりをし、ロベルトは続ける。
「新しい任務だ。薄々わかってはいるだろうがこの部屋にいる6人で行ってもらう。」
部屋がざわつく。
「とは言っても最初から激戦区に投入するわけではない。つい先日、ガウス軍の簡易基地が友軍の無人偵察機によって発見された。そこを潰して来てもらう。」
「なんですって?基地まるまる一つを?」
「その通りだ。」
たったの6人、それのみでなぞ自殺行為だ。
それに集められている6人は軍の中でもトップクラスの実力をもつ面々ばかり、それをおめおめ無駄にするなどと、当然考えられたことではなかった。
「どういうことです。上は我々に死ねと?」
痺れを切らした男どもが詰め寄る。
そんな彼らを制し、ロベルトは話を続けた。
「もちろんちゃんと策はある。いや、策は無いか。…簡単に言ってしまえば、貴様らには一つの『最新装備』を試してもらいたい。」
「最新装備?はっ!プレデターのように透明化したりするんですか?バカな!」
「透明化はしない。だが、プレデターというのはあながち間違いでは無いかもしれん。」
「なんですって?」
ついて来い、そう言われた6人はそれ以上の反論も質問も投げかけることが出来ず、ただただその背中を追うことしか出来なかった。
「オイオイ……こんなモン開発出来る予算がどっから降りた…?宝くじか?」
集められた6人が全員息を飲む。作業員がせわしなく動く大きな倉庫の中で、その一つの『最新装備』を見つめることしか出来なかった。
「こりゃあアンタら上がふざけてなければ…、パワードスーツか?」
全身をピタリと張り付くようにマネキンに着用されているそのスーツを見上げ、感嘆の声を上げる。そんな彼らにロベルト自らが説明をする。
「これは我々が極秘に開発を進めていたパワードスーツ、通称F.B.S.。これを貴様らに着用してもらう。」
全身を人工筋肉で覆い、かつ各所に薄く細い装甲板を取り付けたようなそのスーツは、仰々しいカプセルに入って威圧を放っていた。
「そんで?こいつは何が出来るんです。」
そんな問いにロベルトが口を開く。が、その声は吐き出されることなく、他の声で塗りつぶされた。
「人工筋肉による驚異的な身体能力上昇、敵の弾丸を弾き返す屈強な体をこのスーツは与えてくれるだろう。」
「アーヴェイ大尉!」
面々が揃って敬礼をする、そんな彼らにアーヴェイは手を下げるようジェスチャーをする。
「お前たちにはこのスーツを着用するに当たり、任務中での本名を捨ててもらう。」
「本名を捨てる?コードネームかなんかですか。」
「その通りだ。チャーリー。」
「はい?なんですって?」
チャーリー、そう呼ばれた男が困惑する、それもそうだ。彼はチャーリーなどという名前では無い。
「そうだ、お前は今からチャーリーだ、マイク。」
チャーリーと呼ばれた元マイク・ラズダットは、少したじろぐ。が、彼の性格ゆえ直ぐに。
「了解しました。」
と敬礼をした。
「よし、ならば全員に言っていくぞ。ジャック・ハンネス改めアルファ。」
「はっ!」
ジャックと呼ばれた男は、最初にコーヒーを飲んでいた男だ。彼、アルファも続けて敬礼をした。
「次、デイビット・プライム改めブラボー!」
「了解!」
最初にドアに突入して来た男、デイビットが元気よく返事をする。ムードメーカーのような立ち位置の彼に体術で叶うものはいない。
「ローレンス・クルーン、貴様はデルタだ。」
「了解っ!」
最初にタバコを吸っていた男、ローレンスも続けて返事をする。
「シーザ・ハルトマン、エコーと名乗れ。」
「……了解。」
シーザ、エコーは短気な男ではあるが、戦闘能力は超一流であった。
「最後だ、ケイスケ・タジマ、貴様はフォックスだ。」
「はっ、はい!」
日系人であるケイスケはフォックス。フォックストロートだと長いから、と後日聞くとそんな答えが帰ってきた。
「以上6人!貴様らは今よりチーム・ミューテイトとして活動してもらう。以上!」
「はっ!」
全員揃って敬礼をし、アーヴェイは背中を向ける。
このスーツが、我々の勝利につながることを…。盛り上がるミューテイトの隊員たちを横目で見つめ、彼は少し笑うのだった。
F.B.S.戦場投入まであと3日。