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4話:初陣の首


『絶対について来い』



無線越しの言葉が、リフレインする。

そんな!ただついてこいなんて、無理だろうが。隊長についていきながら、敵を打ち落とせないなんて―――無謀すぎる。ただ障害物のない空を飛んでいるのとは、訳が違う。敵のド中を――それも、攻撃を避けながら飛ぶのなんて無理だ。



『隊長――それは、っ!?』



その次の言葉は、出なかった。

敵が私達に気がついたのだろう。蜘蛛の子のように散り散りになった。

あっという間に、乱戦状態になってしまう。繰り出される炎の弾丸の雨を、必死に避けながら、隊長の後ろについて飛ぶ。

しかし、隊長と私を分断するかのように炎に包まれたドラゴンが視界を阻んだ。なんとか回避したのはいいが、その時には既に遅い。

隊長機の姿はなく、右も左もドラゴンに囲まれ、全く分からない。そう、気がつけば迷子になってしまっていたのだ。敵か味方か、とにかくドラゴンが放った炎が、別のドラゴンを包み込む。悲痛の叫びは轟音に掻き消され、ただ無残に海へと落ちていく――のだが、それも、敵なのか味方なのかも分からない。



『もう、どれが味方!?どれが敵なの!?そして、隊長はどこ!?』

『知るか!』



なんで、みんなわかるんだろう?

見分け方は、習っている。

でも、こんな乱戦状態では避けることが精いっぱいで、首元の紋様で見分けることなんて出来ない

どうやって区別しているのか、疑問を抱きながら、なんとか乱戦から逃げ出す。とりあえず、誰が敵で誰が味方なのか判別しなければ―――攻撃もなにもないではないか。

体格の良い運搬用のドラゴンは、味方機が追い回しているし―――下手に介入して取り逃がしてしまったら、元も子もない。

さて、どうするべきか?



「あっ」



そんな時だ。

乱戦状態の空域から一機、ひょっこりと抜け出してきたものが視えた。

よろよろというのか、命からがらと言うのか、逃げ出してきたという感じ。

目を凝らしてみれば、ドラゴンの鱗には、確かに敵国の紋様が刻まれていた。



『よし、行くか』



右下のドラゴンに降下する。

さほど高度は変わらないので、後ろから撃墜してやろう。

右手でゴーグルの照準を合わせながら、距離を詰めていく。しかし、相手もバカではない。

私に追われていることに気がついたのか、速度を上げる。



『ネロ、もう少し速度を上げて。

あとは、作戦通りに』

『分かってるよ』



引き離しにかかったつもりだろうが、そうはいかない。

若干高度下げながら、速度を上げる。耳元を通り過ぎる風の音が、一段と激しさを増した。

あっという間にドラゴンの腹部に入り込む。頭上にドラゴンの圧迫感を感じた。その距離、目視50メートルといったところだろうか。

地上では遠い距離だけど、この空の上では手を伸ばせば届きそうだ。

私は躊躇うことなく、敵が次の動作をする前に、合図を放った。



『放て!』



その瞬間、ネロの口から、待ちわびたかのように炎が放たれた。

炎弾は、敵の腹部へ次々と吸い込まれていく。この距離で当たらないわけがない。

5発ほど入ったところで黒煙を上げたかと思うと、一瞬で燃え上がる。まるで火だるまのように燃え上がったかと思えば、そのまま悲鳴を上げることなく海へ沈んでいった。



「や、やった撃墜数1だ」



歓喜が胸の中に広がる。

ほんの一瞬の出来事で、あまりにも呆気なかったと思うけど、それでも、嬉しいモノは嬉しいモノだ。

小躍りしたくなるのは、ネロも同じなようで



『今のは俺の手柄だからな!俺のおかげで落とせたんだからな!』



と、どこか興奮的に話しかけてくる。



『なによ、私のタイミングが良かったからでしょ?』

『違う!俺の炎の威力が勝因だ』

『炎の威力は当たりまえでしょうが!』

『タイミングだって、当たり前だろうが!』

『よし、それじゃあ―――次の撃墜で、判断しようじゃない!』

『ふん、どうやら負けを認めたく無いようだな―――落ちこぼれ』

『みてなさい、駄龍』



次の敵を探す。

それには、あまり時間がかからなかった。なんと、すぐ後ろに敵が張り付いていたのだ。その距離、目測600メートル、

いや、550メートルしかない。敵ドラゴンの口が、いまにも開こうとしている。



「――やばっ!

『右旋回!避けて、ネロ!』」

『言われなくても!』



ぐいっと身体が引っ張られるように右に旋回する。

ネロの足すれすれの位置を炎弾が通過した。どうやら、なんとか避けることに成功したらしい。

だけど、ホッと一息つく間もない。敵は私達に狙いを定めたようだ。ずっと後ろに張りついて来る。

まさに、つい数瞬前と立場が逆転してしまっている。



『逃げた方がいいの?それとも、攻撃に転じた方がいいの?』

『知るか!お前が考えろ、落ちこぼれ女!』



速度を上げるので手一杯なネロの言葉には、どことなく焦りが感じられる。

でも、このまま速度を上げ続けても追いつかれる気がする。振り返ってみれば、一度開いたはずの距離が明らかに縮まっている。あと数秒で追いつかれてしまう。



(速度を急激に落として、追い抜いてもらう?だめ、そんなこと出来るわけない)



でも、減速するというのはいい案かもしれない。

敵だって、私達の進む速度を計算して狙い撃ちしてくる。速度を変えれば、狙い打つのも大変なはず。

それでも、ただ直線に進んでいては意味がない。なら――



『ネロ!速度を出来る限り急激に落として右に旋回しなさい!』

『はぁ!?そんなの無理に決まってんだろ!?』

『いいからやりなさい、命令です!!』



叫ぶように、私は命令した。

もう、これしか手はない。上手くいくか分からないけど、なんとかするしかないだろ!



『行くぜ!』



速度ががっくり落ちる。

その急激に落ちた速度のまま旋回し、身体にかかるのしかかる重力で軋む。

身体が軋む痛みに耐えながら、教壇で習ったことが蘇った。

そうだ、旋回すれば―――早い速度で旋回するより、低い速度で旋回した方が、小さな円を描ける。

これを利用すれば、何とか逃げ切れる――かも。



『――っ、どうだ、この落ちこぼれ女!』



身体の痛みに堪えるように、瞼を開ける。

みれば、敵ドラゴンは前方で大きな円を描いて―――こちらに向かってくるところだった。

このままいけば、衝突してしまう。



『撃つか?』

『いや、いい』



実際に、射撃するまもなく私達は通り過ぎた。

だけど、相手のドラゴンの眼には戦意が消失したようには見えない。



『また旋回しなさい。追いかけるのです』



と、命ずれば、相手方も反転している。

先程よりは、状況を打破することしか考えていなかった。でも、今は違う。

少しは、敵を倒そうと思える私がいる。



『なんとしてでも、敵の後ろに回り込んで!

どんな方法を使っても構わない』

『――ドラゴン任せか?でも、了解』



訓練時代から正面で戦うのは苦手だった。

訓練では『失敗したね』ですむけど、今は実戦だ。失敗は許されないし、失敗した瞬間に死が待っている。

敵ドラゴンから放たれる炎弾を紙一重で避け、また互いに通り過ぎた、と思った瞬間、ネロは急旋回した。

今度は左回転。炎弾を交わして2秒も経っていないのに、あっという間に敵の後ろに張り付いていた。



『やるじゃん、駄龍』

『これくらい朝飯前だ、落ちこぼれ女』



後ろについただけでなく、若干こちらの方の高度が高い。



『よし、撃ちなさい』



すんなりと、攻撃命令が出すことが出来た。

炎弾は、ドラゴンの背部分、つまり、竜騎士がいる場所に直撃した。



『よしっ!』



私が拳を握るのと同時に、敵は羽をびんっと伸ばし、そのまま回転しながら海へと沈んでいった。

契約を結んだ竜騎士が絶命した場合、どれほど体調が良いドラゴンであっても、一時的にショック状態になってしまう。

こうして高度4000メートルでショック状態になれば―――どうなってしまうか容易に想像できるだろう。



「撃墜数2――か」



今度は嬉しさよりも疲労感が、身体を支配していた。

ちょっと眼下を見てみると、もうすでに敵も味方も見当たらない。



『―――帰ろっか、駄龍』

『了解―――って、俺は駄龍じゃねぇよ、落ちこぼれ女』



ネロの抗議を受け流しながら、周囲を警戒する。

周りには、もう誰もいない。生き物の気配は、まるでしなかった。



――1番死亡率が高いのは、初陣だって聞く。

ひとまず、第一関門は突破したと喜んでいいのか?

ぼんやりと考えながら、南へと進路を進めた。




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