曇りの靴
Twitterで不定期に開催される創作企画『空想の街』(Wiki→http://www4.atwiki.jp/fancytwon)に投下した話を、加筆、修正したものです。
同時投稿していた『ウトの少女』と一部話がリンクしています。
また、今回は一部参加者様とコラボした部分があります。
コラボした方
遼さん(TwitterID:@ryoOzero)・雨屋さん
空想の街のまとめはこちら。
http://togetter.com/li/290680
どこの街にも、『噂』というものはある。
子供を戒めるためのお化けの話や、大人が酒の肴にするような都市伝説まで。
この街にも、そんな『噂』があった。
それは、風変わりな絵かきの噂だ。
何処に住んでいて、普段何をしているのか全くわからない。
神出鬼没で、次に何処に現れるか予測も出来ない。
わかっていることは、必ず赤いモノを身につけていることと、絵かきに絵を描いてもらえれば、幸せになれる、という事だけだった。
【1日目】
今日の天気は曇りのち、晴れ。
カタカタとタイピングの音だけが響く部屋で、私はそっとため息を付いた。
外は現在、曇り。
絶好のお出かけ日和なのだが、とても気が乗らなかった。
かといってこのままだらだらしていたら、せっかくのチャンスを逃してしまう。
次いつ外に出れるか、わからないのだから。
私はのろのろと立ち上がり、玄関へ向かった。
最近はめっきり履くことの無くなった、お気に入りの青い靴。
私は一瞬、今までが全て夢であって欲しいと願い、そうでないことを頭の隅でしっかり自覚しながら、ゆっくりと靴に足を押し込んだ。
靴はぴたりと足にはまった瞬間、見る間に真っ赤になった。
つやつやとエナメルのような、ご立派な赤だ。
こうなると分かっていても毎回、私はここでため息をついてしまう。
この靴だけではない、どの靴を履いてもこうなるのだ。
しかしこうため息ばかりもついていられない。
時間が無いのだ。
私はドアを勢いよく開き、いつぶりかも分からなくなってしまった外へと飛び出した。
私が目にする街は、いつも雲に覆われた灰色の街だ。
明るい日差しの下の景色や、雨にぬれる街は、部屋の中からしか見ていない。
コツコツと足音を鳴らし、私は目的地へと急ぐ。
間に合うかな。雲よ晴れないで。
知らぬうちに雲が去っていってしまうような、妙な焦燥感にかられて、私はついつい早足になる。
やっとのことで目的地にたどり着くと、ドアの中に身をすべらせた。
とりあえずコレで、外に出るまでは安心だ。
やってきたのは近くの大型スーパー。
時間が時間だけに、人影はまばらだ。
みな、当たり前のように買い物を楽しんでいる。
せきたてられるようにココに来ているのは、私だけ。
思わず自分の赤い靴をにらんでしまう。
…私の靴には、呪いがかかっている。
正確には、足に。
そのせいで私は、曇りの日以外は出歩けなくなってしまったのだ。
履いた靴は呪いが自己主張するかのように真っ赤に染まり、私はそれを見るたび呪いを思い出し、うらむ。
最近は便利になったもので、パソコンとネット回線さえあれば、お仕事もお買い物も家で済ますことが出来る。
だけどネットショッピングが生活の全てをまかなってくれる事はなく、例えばうっかり調味料を買い忘れても、クリックひとつで今すぐ手元に届く訳じゃない。
そんな『うっかり』をしでかしてしまうと、いつ来るかわからない『曇りの日』を今か今かと待ち焦がれなければならなくなる。
調味料ならまだマシ、コレが例えばトイレットペーパーだと、もっと深刻になる。
そんなわけで、曇りの日はいやおう無しに外出しなければならなかった。
久しぶりの買い物は、とても楽しかった。
時間を忘れて、ついつい買う予定の無かったものまで買い込んで、意気揚々と出口を開け、そして飛び込んできたのは、真っ青な空だった。
「あっ」
しまった、と思ったときはもう遅かった。
目の前が真っ白になる。
そして次に私が気づいたときには、家の玄関に突っ立っている私がいた。
慌てて荷物を確認する。
良かった、ちゃんと全部持ってる。
ここでうっかり落としてしまうと、取りに戻れない。
私は安堵のため息をつくと、靴を脱いだ。
足からすっぽ抜けた靴は、当たり前のように元の色に戻った。
私の足は(というか呪いは)太陽がとても嫌いらしい。
腫れの日に外に出ようものなら、あっという間に部屋に戻ってきてしまうのだ。
始めの頃はとても便利だと思っていたが、晴れの日は引きこもり決定だし、出かけた先で晴れようものなら、問答無用で強制送還。
いいことは無い。
窓から外をのぞくと、また曇りそうな天気だったが、今日はもう外に出るのは諦めた。
買ったものをしまおう。
…次はいつ外に出れるのだろう。
今日何度目かの、ため息が漏れた。
【3日目】
今日の天気は、曇り時々雨。
晴れるよりはマシかな。
いつもなら億劫で仕方ない外出が、今日は何故か気分がいい。
きっと昨日の時計塔フェスタのせいだろう。
昨日は一日中晴れだったから部屋から一歩も出れなかったが、春花火はベランダから見ることが出来たのだ。
こういう時、東区に住んでてよかったなと思う。
次々打ち上がる花火、カラフルに光る夜空、そしてそれを反射して七色に染まる時計塔。
毎日部屋の中で過ごしていた私には、それだけで充分楽しかった。
だから今日は、この気分のまま、外に出よう。
いつもよりお洒落をして。
少し遠出をしてみよう。
出先で雨に降られたら、安い宿で一泊したっていい。
明日晴れれば、すぐ帰れるのだから。
いつもより財布に少し多めにお金を入れて、高いヒールのパンプスに足を突っ込む。
歩き回るならローヒールの方が疲れないけど、高い方が気分が上がるもの。
あっという間に真っ赤になった靴を確認して、部屋を出る。
さぁ、どこに行こうか。
あてもなくさ迷うのも、楽しい。
スプリングコートがひるがえって、裾のレースが踊った。
「…こんな所に、カフェが出来てたの…」
知らない間に、中央区に見知らぬカフェが出来ていた。
趣のあるその店の様子に興味が沸き、門をくぐる。
看板には『ブックカフェ黒猫』と書いてあった。
どうやらここは、本を読みながら紅茶が飲める店らしい。
オススメのフレーバーティーと、これまたオススメというワッフルを注文した。
本は、軽く読めるエッセイ集を。
上品な音楽が、静かな店内に流れていく。
いつぶりだろう、こんな時間を過ごすのは。
以前は一人ではなく、友人と過ごしていたのだけど。
だけど今は彼女らとも疎遠になっている。
仕方がない、と、今日はじめてのため息をついた。
足がこの状態になってから、まともに外出出来なくなったのだ。
始めの頃は誘ってくれた友人も、次第に連絡をくれなくなった。
晴れたら家にワープしてしまう人なんて、確かに誘いづらいだろう。
私はゆっくりと、でも確実に、独りになっていった。
またため息が出そうになって、私はワッフルを口に押し込んだ。
ダメダメ、今日は楽しもうって決めたのだから。
無理矢理口に詰めたワッフルは甘く、私を笑顔に戻すには充分な美味しさだった。
優しげな店長に礼をのべて、私は店を出た。次はいつこれるだろう。
読みかけの本、次もあれば良いけど。
つらつらと歩き続けていると、頬に雨粒があたった。マズイ。
私は慌てて雨宿り出来る場所を探す。
その間にも、髪や服に水滴が染みてゆく。
それと共に、足が動かなくなっていく。
というか、重い。物理的に。
やっとの事で何処かの店先にたどり着いた時には、足は鉛のようにズッシリとしていた。
心なしか、色も黒ずんで見える。
もう正直動かしたくない。
…私の足は、晴れよりは雨の方が嫌いじゃないらしい。
とは言え、濡れるのも嫌らしく、雨が降るとこうして重たくなって、歩けなくなる。
嫌でも雨宿りを選択させられるのだ。
さいわい、この雨は一時的なもののようだった。やむまで、ここに居させてもらおう。…ん?
そこではじめて、私はここが『雨屋』だと気づいた。
ショーウインドゥには、大小様々なガラスに閉じ込められた『雨達』が綺麗にディスプレイされている。
なんでもこの店独自の技術だとか。
私も昔、この店の商品を買ったことがある。
小ぶりのガラス玉に入った、『春雨』だ。
優しい春の雨を私はとても気に入っていたのだけれど、私の呪いとは相性が悪かった。
どうやら手の平サイズのその小さな雨でも、呪いは反応するらしかった。
部屋の中でも足が動かなくなった私は、しぶしぶそれを手放した。
「…おや」
ふいに後ろから声がした。
この人は確か…店の主人だ。
てっきり休みだと思っていたが、営業していたらしい。(この店は雨が降ると、雨観測のため休みになるからだ)
「ええっと、あの…雨宿りさせてもらってます。すみません」
私は頭を下げた。
「いいですよ。急に降り始めましたもんね」
やんわりと主人は微笑んだ。
…相変わらず、女性なのか男性なのかわからない。
着物は男物のようだけど、柄は女物のような…そもそも着崩しているから、判別がつかない。
「素敵な靴ですね。…ふふ、『風変わりな絵かき』がご来店されたのかと思いました」
「え?」
一瞬なんの事かわからず、自分の靴を見下ろした。
そして数秒後、主人の言葉の意味を理解する。
『風変わりな絵かき』とは、この街にある『噂』だ。
所謂『クチサケ女』のような、子供達の間で語られるタイプの話だ。
この街の何処かに変わった絵かきがいて、その人に絵を描いてもらうと幸せになれるという。
その絵かきは必ず赤いものを身につけているんだとか。
確かに私の靴は、真っ赤だ。
そんな物語に出てくるような、素敵な赤い靴だったらどんなにいいだろう。
でも現実は違う。
「…ああ、もうやみますね。通り雨、捕まえようかと思ったのですが」
私の思考を遮って、主人が呟く。
私は空を見上げるふりをして、涙を押し止めた。
【7日目】
外出できる日の中でも、木曜日は特別。
何故なら木曜市があるから。
いつもはバラバラに点在しているお店が、西区に集まる。
いつまで外にいられるかわからない私にとっては、とてもありがたい市なのだ。
とはいっても、曇りだと出店数は少ない。
…いいや、見れるだけ見よう。
私はスニーカーに足を突っ込んで、玄関の扉を開けた。
雨屋「ねぇ、君。前に店に来てくれたよね? これあげるよ。観賞用「雨上がり」 古い売れ残りでごめんね。 また店に来てよ。バイバイ」
「雨上がり…こんなのも売ってるんですね。ありがとうございます」
コレなら、私の足も反応しないみたい。
貰った雨上がりを慎重にバッグに入れて、私はすいすいと歩き出した。
…それにしても。
やっぱり、靴が赤くなるのはいただけない。
今日のスニーカーはザラザラとした質感が気に入って買ったものなのに、赤くなると同時につるりとしたエナメルのような光沢が出てしまうのだ。
このデザインでコレは、ちょっと悪趣味じゃない?
靴だけ浮いてるような気がする…そんなことを考えていたとき。
「あの!」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、小さな男の子が立っていた。
…泣きそうな顔をしている。
私何かしたっけ…?
「あの…『絵描きさん』ですか?」
「え?」
絵描きさん?
そのフレーズには思い当たる節があった。
さっきの雨屋の主人にも、以前間違われたことがあるからだ。
「絵描きさんって、『風変わりな絵描き』のこと?」
男の子はこくりとうなずいた。
「絵描きさんに絵を描いてもらえれば、お願い事が叶うって…僕…僕…」
「あああ。泣かないで。ちょっとお姉ちゃんにお話してくれるかな?」
私は動揺しながらも、男の子の話を聞くことにした。
よっぽど思いつめているようだった。
男の子はどうやら、友達とけんかしてしまったらしい。
「その子が嫌がること、言っちゃったんだ。僕、それ知らなくて…」
「…ゴメンなさいって、言った?」
「…言おうとしたんだけど、言えなかった。閉じこもっちゃって」
なるほど。
「だから、絵描きさんに絵を描いて欲しいんだ。描いて貰ったら、お願い事が叶うんだよね?」
うん?お願い事?
私が聞いたのは確か『幸せになれる』だった気がするが…
「僕、ちゃんと謝りたい。だけど、きっとあの子は会ってくれないと思う。だから、会えるようにして欲しいんだ!」
…なるほど…でも、私は『風変わりな絵描き』じゃない。
ためらいながらそれを男の子に話すと、見る間に元気が無くなった。
「ご、ごめんね…」
「…。」
あああ。また泣いちゃいそう。
よっぼどその子と仲直りしたいんだなぁ…
「…ね、その子は、おうちから出てきてくれないんだよね?」
聞くと、ややあってこくり、と男の子はうなずいた。
「直接会えないなら…手紙を書いてみたらどうかな?」
「…手紙?」
「そう。それなら、ごめんなさいが伝わるでしょ?」
「…手紙…」
男の子は考え込んだ。
…もしかして。
「ね、もしかして、喧嘩した相手って女の子?」
男の子の顔が見る間に赤くなった。やっぱり。
「じゃあ、可愛い便箋使わなくちゃ。ノートの切れ端じゃダメだよ」
私はわざとからかう口調で言う。
「可愛い便箋を用意して…お花とか、その子の好きなお菓子とかも、持って行って」
「…そうすれば、会ってくれるかな?」
「きっとね。便箋も、お花も、その子のことを考えながら、選ぶ。その子のために、君の時間を使うの。…女の子はね、自分のために時間を使ってくれるの、嬉しいんだよ。だって、その間、君はその子のために一生懸命になるでしょ?」
「うん」
「そうすると、その子に、君の一生懸命が伝わる。…そしたらきっと許してくれるよ」
「…ホント?」
「うん。お姉さんなら許しちゃう」
男の子の顔がパァッと明るくなった。
「僕、お手紙書いてみる!ありがとうお姉さん!」
そういうと俄かに走り出す。
私はその後ろ姿を見送った。
…いいな。純粋で、真っすぐで。
大切なものを、素直に大切に出来る。
そこでふと、気がついた。
…私、あの子みたいに、必死になったことがあっただろうか。
無くしたくないと、一生懸命努力したことがあっただろうか。
馬鹿みたいに、執着したことは?
…私、私はいつも…あきらめてばかりいなかった?
男の子の姿はもう見えなくなっていた。
そっと靴を見下ろしたが、そこにはいつものようにテラテラした赤があるだけだった。
【最終日】
今日の天気は、昼から曇りのち雨。
私は、この前のカフェに来ていた。
「濡れますよ」と心配顔の店員さんに無理を言って、テラスでパンケーキを頬張る。
足にはいつものように、テカテカの赤い靴。
だけど今日の靴は、いつもとちょっと違う。
少年と別れたあと、私は靴を買った。
私の呪いに負けないぐらい、ピカピカの赤いパンプス…今日履いているのはそれだ。
案の定、足を突っ込んでも色が変わったようには見えなかった。
どうせ赤くなってしまうなら、最初から赤い靴を履こうと開き直ったのだ。
この呪いがなければと、何度思った事だろう。
だけど、呪いが解けなくったって出来ることはあった。
例えば家から出れないのなら、友達に遊びに来てもらえばいい。
取っておきの紅茶とお菓子を用意して。
久しぶりに会う友人ならおしゃべりだって弾むだろう。
思えば私は今まで、こうして積極的に行動することがなかった。
何をするにしても、受け身だった。
友達との遊びの約束も、来るのを待っているだけで、自分から誘いに行かなかった。
そうして薄れてしまった友人関係を、すべて呪いのせいにして。
こんな単純で簡単な事に、今まで気づけずにいた。
あの少年に会うまでずっと。
どうせ無理だとはなから諦めていた。
手を伸ばす事さえしなかった。
こんなにすぐそこに、答えはあったのに。
私はちらりと靴を見る。
今まで嫌で嫌で仕方なかった赤い靴。
今なら少し、好きになれる気がした。
自然と笑みがこぼれる。
紅茶に手を伸ばしたその時、隣のテーブルに人がいるのに気付いた。
…いつの間に?パンケーキに夢中になっていて気づかなかったのか。
そこにいたのは、スーツ姿のサラリーマン風の若い男性だ。
ここら辺じゃ珍しい。
この街は職人さんや自営業ばかりで、会社勤めの人はいないからだ。
多分、出張で移動の最中に立ち寄ったのだろう。
彼は手元の端末機をちょこちょこいじっている。
アイパットだかなんだか…って奴かな。
持ってないからわからない。
指でタッチして操作出来る奴だ。
彼は左利きなのだろう、さっきから左の人差し指で画面をつついている。
彼の手が動く度、薬指の指輪が揺れる。
結婚指輪だろうか。
それにしては珍しい、真っ赤な指輪だなんて。
飾りも細工もない、ただただ赤い指輪だ。
珊瑚などで出来てるんだろうか?
…そこまで考えて、ふと、一つの『答え』が浮かんできた。
…まさか。
私は何度か、その人と間違われた。
雨屋の主人にも、そして昨日の少年にも。
その人は、必ず『赤いもの』を身につけているという。
「風変わりな…絵かき…?」
私が呟くと、彼は私に笑いかけ、そして口元に人差し指を当てて『しー…』と言った。
やっぱり、と思うと同時に、疑問も沸いてきた。
だって、『風変わりな絵かき』の話は私が生まれる前…私の母親が、それこそ昨日の少年より小さな時に聞いた話なのだ。
しかもおばあちゃんに。
どう考えたって、こんなに若いはずがない。
いやそもそも生きてるはずがない。
私がぐるぐると思考の迷路で迷っていると、彼が独り言のように話し始めた。
「いい時代ですね」
…意外とイケメンボイスである。
「絵の具がなくても、絵がかける」
彼の指がツイツイと動く。
…彼は端末機で絵を描いているのだろうか?
そういうアプリがあるんだろうか。
お伽話のような話の主人公が、最新の電子機器を使っているというのは、なんだかちぐはぐした印象を受ける。
「貴女には、私は必要ないようですね」
彼は続ける。
「そもそも私が必要な人なんて、一人もいないんですよ。みんな気付いていないだけなんです。すぐそばの、幸せに」
彼の表情からは、感情は読み取れない。
「そしてみな、それに気づく力もちゃんと持っている…」
「貴女は、大丈夫です」
ニコリと笑うと、彼は端末機をササッと仕舞って立ち上がった。
「さて行かなければ」
そういうなりスッと歩きだしてしまった。
私は動く事も出来ず、彼を見送った。
途中消えるのではと思ったが、角を曲がるまで彼の姿は消えなかった。
しばらくポカンと彼の消えた道を見つめた。
この街ではたびたび不思議な事が起こるけど…。
カラン。コロン。
その時だった。
やけに固い音が、道路に響く。
雨…いや、飴だ。
さっきまで降っていた甘い雨を食べた虹が、飴に分解されている。
見上げれば、カラフルな飴が思い思いに降り注いでいる。
その向こうに昨日の少年と、真っ白な羽を生やした少女が飛んでいくのが見えた。
夕焼けに照らされたその羽は、金色に光って見えた。
【終】