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Limheim ―女神の目を持つ者―  作者: かや
はじまりの記憶
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序章 追憶

 彼女が外界に姿を現したのは、まだ足元もおぼつかない二歳の時だった。

 ぼさぼさの金髪は煤や土で汚れ、衣服も擦り切れていたが、眼だけが何にも穢されることなく澄んでいたのを、覚えている。


 その日スナール族の本拠地であるこの村は、ついにアルド族の襲撃を受けた。当時はまだ、今ほどその名を轟かせてはいなかったが、血気盛んなアルドの族長は周辺の村を襲い、統合し、その力を強め始めていた。アルド族の本拠地から荒野を抜け、小高い山を一つ越えたところにあるこの村も、もちろん例外ではなかった。きびしい冬の始まりを匂わせる晩秋、アルド族の一派は山を越えて平和な村を襲撃した。

 幸か不幸か、冬を越すため、村には食料や燃料などの備蓄はたんまりとあった。いや、彼らは初めからそれを狙っていたのかもしれない。周辺の村の中でも特に冬の環境が厳しいこの村は、晩秋のこの時期、他のどの集落よりも資源を有していたといえる。

 略奪の限りを尽くしながら、ついに彼らの魔手は村の倉庫ともなっている族長の屋敷にまで至った。


 そのとき屋敷で何が起こっていたのかは、今となっては定かではない。屋敷で暮らしていた人々はみな、アルド族の非情な切っ先によって葬られてしまった。

 ただ、村にわずかに残った戦士が屋敷に辿り着いたときには、どういうわけか村を占拠することもないままアルド族は撤退しており、ちいさな姿がひとつ、炎のまわり始めた屋敷の奥に残されているだけだった。

 

 少女は奇跡的に助け出された。

 屋敷の奥深くの子供部屋、そこにはまだ火の手は上がっておらず、幼子はよく整えられた調度品のなかで静かに佇んでいた。

 彼女は胸元に怪我を負っていた。刃物による傷は新しいものではないものの、一連の騒動で傷が開いていた。屋敷の医者はすでに事切れていたため、すぐに村の診療所へ運ばれた。

 村の者たちには、この女児が何者なのか知らされていなかった。だが、発見された場所と衣服の上等さ、――そして彼女が“あるもの”を握りしめていたことから、族長の娘ではないかという結論に至った。



 子供たちの避難先として使われていた村の診療所。そこで初めて彼女を目にした瞬間を、忘れることはないだろう。ながく隠され続けてきた族長の娘は、その名に恥じぬまっすぐな目をしていた。



 イーリス。

 幼い彼女は、その澄んだ目ではじめての世界をどう見つめたのだろうか。

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