恐怖を与える不気味な演出の方法
これはあくまでエッセイであり恐怖小説を書く上でのアドバイスなので、あえて残酷描写ありのタグはチェックしませんでした。普通の人なら大丈夫かと思いますが極端に苦手な方はご注意ください。
どうも皆さんこんにちは。初エッセイです。
講座めいたタイトルですが、あくまで僕が個人的に思っているだけなのであしからず。でも参考にしてくれたら嬉しいな。そんなエッセイです。
で、早速本題なんですが……
「どういう風に描写すれば、演出すれば、読む人に恐怖を感じさせることが出来るのか?」
これはホラー小説――と一口に言っても惨劇ホラー、幻想ホラー、サイコホラー、怪奇ホラーと色々あるのでこのエッセーでは恐怖小説とさせていただきますが――を書こうと思った人なら誰しも考えることだと思います。僕も僕なりに考えました。
そして僕は僕なりにひとつの手段、というべきでしょうか。それを見つけました。というよりはまあ、僕ならこういうのが怖い、ってだけなんですがね。
前置きが長くなりましたね。
とどのつまり、実際どういう演出の仕方が怖いのか? それは「繰り返し」なのです。
たとえば同じ語句の繰り返し、同じ表現の繰り返し、同じ擬音語、擬態語の繰り返し……これが意外と人に恐怖を与える、ということが僕には最近分かったんです。(ドヤ顔)
科学的根拠は? と訊かれると辛いのですが……(あるかもしれませんが僕は知らない、あるいは無いのかもしれない)しかし、これは結構当てはまるのではないでしょうか?
というのも、この「繰り返し」の恐怖は、文章に限った話ではないのです。
その代表的なのが、音楽でしょう。
一般的に言われる、「不気味な曲」「恐怖の前兆を感じさせるようなBGM」は、同じメロディの繰り返しによって構成されていることが多いのです。
「短いメロディが同じテンポで何度も何度も繰り返される」ような音楽は総じて不気味で恐怖を感じさせます。これは音楽界では結構有名な話なんですよ。皆さんも想像してみてください。怖いでしょう?
実際にある曲では、「ショスタコの交響曲第七番の第一楽章」なんかが有名な怖い曲じゃないですかね。え? そんな曲は知らないですか?
じゃあメジャーなゲームミュージックでいきましょうか。ポケットモンスターの「シオンタウン」のBGMなんかどうです? かなり不気味なBGMですよね。子供の頃プレイしていてトラウマになった人だっているでしょう。あれも考えてみれば同じメロディの繰り返しなんですね。
もっともっと分かりやすくいきましょう。もう音楽ですらなくなってしまうんですが、時計の秒針の音なんかどうでしょうか。最近はディジタルが多くなったから聞く機会も減ってしまったかもしれませんね。あの秒針の音、苦手だって人は結構いるんじゃないでしょうか。それはやはり繰り返しによる恐怖だと僕は思うんですよ。
「そう言われてみればそうだな」って思ってもらえましたでしょうか。
そしてこれは文章のときも同じなのです。
同じ表現を短いテンポで何度も繰り返す。
同じ単語を短いテンポで何度も繰り返す。
同じ擬音語を短いテンポで何度も繰り返す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
繰り返すのです。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返す繰り返すのです。
なんてね、今ちょっと怖くありませんでした?(ウザかっただけ、とか言わないように)
何度も執拗に同じことを短いテンポで繰り返されると人間、不気味さを感じるものなんだなあ、と最近思ったんです。
恐怖を与えるのには繰り返しが重要……ということを、恐怖小説を書いてみようかなと思っている人はそれとなく心に留めておきましょう。
それから恐怖を与えるコツをもう一つ。
文章は短文でザックリぶつ切りにした方がいいでしょう。ダラダラと長く文を続けるよりは、短い文をいくつも重ねた方がより不気味さが上がるように思えます。
スピード感も出ますしね。
怖くしたいときはズバリひとつひとつの文章を長くするより、サクッと短い文をたくさん書く。これも僕が気をつけていることです。
ホントかよ? と思う方もいるでしょう。
僕自身なんとなく思うだけなので絶対に正しいわけではありません。にわかには信じられないというのが本音だとは思いますよ。
そこで最後に「繰り返し」と「短文」を意識して、即興でちょっとした物語を書いてみます。本当に即興なのでクオリティの方は保証できません。
ただこれを読めば、「繰り返し」と「短文」のテクニックが実際に役に立つのかどうかの判断材料程度にはなるのではないでしょうか? 良かったら読んでいってくださいね。
じゃ、ちょっと書いてみますね。
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……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……
時計の秒針の音が聞こえる。
規則的に機械的に、ただ音と時を刻む。
まるで僕の聴覚を舐めまわすような鬱陶しい音だ。
……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……
そして僕の聴覚を刺激するのは秒針の音だけではない。
全く同じテンポで繰り返される、もう一つの音。
……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……
まるで打ち合わせでもしたかのように、二つの音は重なる。僕の耳を舐めまわす。
目の前に広がるのは赤。雨漏りするように赤い水滴が床に、落ちる、落ちる……。
……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……
赤い水滴が床を赤く染め、赤い水溜りを作る。秒針の音と重なりながら。
僕はただそれを呆然と見ていた。
……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……
赤い水滴の元を見やる。だらりと仰け反った首。頭。白目を剥き、口は醜く開け広げられている。鼻は潰れ、顔面はただ赤。そこから水滴が落ちる。
……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……ぽたっ……
僕は動けなかった。金縛りにあったように全身の筋肉が硬直し、そこから動けないでいた。何者かの意思であるかのように、ただただ落ちる赤を眺めていた。目を背けたかった。
……かちっ……ぽたっ……かちっ……ぽたっ……かちっ……ぽたっ……かちっ……ぽたっ……
ああ……。
僕はいつまでこの二重奏を聞いていなければならないのだろう。今すぐにでも逃げ出して枕に顔をうずめて眠ってしまいたい。悪い夢なら早く覚めてくれ。覚めてくれ、覚めてくれ……。
しかし何度瞬いても。目の前の光景は変わらない。
あの死体は紛れもない。妹だ。僕の妹だ。僕の。僕の……。
……ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ……
水溜りが大きくなって音が変わってきた。より陰湿で薄気味悪い音に。
ああ……。
誰が妹をこんな……いや、そんなことはどうでもいい。
妹がいない世界に何の価値があるだろう。
……ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ…………ぴちゃ……
死にたい。今すぐに後を追いたい。僕も妹のところへ逝きたい。
……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……かちっ……
妹も寂しがっているかもしれない。僕が行ってやらなきゃ。逝ってやらなきゃ。
死にたい。死ななきゃ。死ななきゃ。死ななきゃ。死ななきゃ……
僕は彼女の首に刺さっているナイフを引き抜いた。生ぬるい血液が僕に飛散する。
妹の血に濡れたナイフを僕は自分の喉に突きたて、引き裂いた。
噴水のように飛び散る僕の血。それが妹がつくった水溜りに混ざり、僕はそこに倒れこむ。
赤い水溜りと僕が同化する。
ああ……僕は妹と今、ひとつになれたのだろうか。少なくとも妹の水溜りと僕の赤い水はひとつだ。僕はそこに横たわっている。そんなことを考えているうち僕の意識もまた、赤い水溜りに沈んでいったのだった。
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と、まあこんなところでしょうか。
本当に即興なのでお粗末な出来で申し訳ないのですが、少なくとも「繰り返し」と「短文」はふんだんに使いました。(逆に意識しすぎたかもしれない)
怖い話というよりは気味が悪い話ですね。
しかし繰り返しと短文によって不気味さは引き立ったと思っています。
皆さんも今後恐怖小説を書くことがあれば、この通りにしろとは言いません。ただ、こんなエッセイがあったな、とちょっとでも思い出して、あわよくば役に立ててもらえたら幸いです。
お付き合い頂き、感謝します。では。