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まどろみ、朝

作者: 木華

初投稿です。いたらない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。

ベランダ側の生成色のカーテンから光が差し込んでいる。



もう朝なのか。


「うーん。」と、身体を伸ばそうとして、



気づいた。



自分の隣に、常にはない温かさがある。


白いシーツとブラウンのふわふわ羽毛布団、

そして

こげ茶色の枕の中に埋もれているもの。


ふわりとした印象だけど、

実はしっかりとしている黒い髪。


その隙間からのぞく、長いまつげ。

それに彩られ、今は見えないダークブラウンの瞳。


すっきりと通った鼻筋。

薄いくちびる。


どちらかというと、顔は整ってはいる。かも。


モデルさんみたいに整っているわけではないけど、

包み込むような優しい雰囲気もあり、はっきりいって素敵だと思う。

彼自身、中学時代から彼女がいないことは一度もないらしい。

なんだかわかるわ。

でも、はにかんだような笑顔が一番好き。


改めて、

彼の寝顔は初めて見た。


なんだかかわいい。


思わず、手を伸ばしそうになったが、寸前で止める。



彼が起きてしまうわ。



いつもなら彼のほうが早く起きていて、こんな機会はなかなかない。


規則正しく布団が上下しており、時折、「すー。」という音が聞こる。

彼女の顔に笑みがこぼれる。



こんな朝もいい。



いつもならいれたてのほうじ茶の香りで目が覚める。


彼と付き合う以前は、朝はコーヒーと決めていた。


しかし、彼とともに迎える朝が増えるにつれ、自分までこの香りになじんでしまった。


コーヒーや紅茶ではなく、朝はお茶だよ、それもほうじ茶。


若いのに、おじさん趣味なのね。

顔は紅茶を飲みそうなのに。

いいだろ、美味しいよ、ほら。



ベッドの上で、彼の顔をまじまじと見ていて、いつもやり取り思いだした。


なんだか、お茶が飲みたくなってきたわ。


彼は気持ち良さそうに寝ていて、起きそうにもない。


やっぱり疲れたのかな・・・。

でも、元気な時は本当に元気。


少しだけ彼の鼻をつついた。


「むう。」と、声がした。


また笑みがこぼれる。



するりとベッドから出て、

冷えた濃い茶色のフローリングに足をついた。


すぐ脇においてある白いシャツだけを羽織り、

丁寧にボタンと留めていく。

大きめのシャツは一枚でも十分な丈がある。


そのまま、素足でぺたぺたと歩きだす。


すでに部屋の中は朝日を浴び、ほんのり明るくなっていた。


カーテンが白く輝いて見える。

もう灯りはいらない。



大きな液晶テレビの前を通りすぎ、紺色の3人ほどは座れるソファの横を抜ける。

そして、目の前の

対面式の白を基調としたキッチンまで向かう。


まず白いケトルに水を入れ、スイッチを、オン、っと。

急須、急須。あ、あった。


流し台のすぐそばに、透明な急須と白磁の湯呑み、鬼焼きの淡い深緑色の湯呑み、

お茶葉が入った銅の缶が、お盆の上にまとめておいてあった。


「急須にお茶葉を銀色のスプーンで2杯。」


いつもの彼の口癖がよみがえる。




ケトルから湯気が立ち始めた。


カチッ。


急須にお湯を入れ、白磁の湯呑みにもお湯を入れる。


湯呑みに入れたお湯も急須に入れ、

しばし待つ。


こんなときにすら彼のことを思い出すなんて。


白いシャツから彼の匂いがすることに気づいてしまう。

しゃぼん玉とお日様の匂い・・・


少し冷たい手を、熱い体温を、甘い言葉を・・・



ほうじ茶、どこか香ばしい香りが部屋の中に漂い始めた。

現実に戻り、

心なしか火照った頬に手で触れながら、湯呑みにお茶を注ぎ、一口。


美味しい。

ほっと一息ついた瞬間。



「僕にも入れてください。」



いきなり聞こえた音のほうに目を向けると、

彼がソファから振りかえって、こちらを見ていた。

上半身は裸のようだ。


おそらく下には、ジーンズでも履いているだろう。


目が合うと、にこっと微笑んだ。

その目がどこか熱を持っているような・・・。


はっと、自分の服装を思い出す。

素肌の上に白いシャツ、それも彼のものを一枚着ているだけだ。

自分でもどんどん顔が赤くなっていくのがわかる。


「くくっ。」と笑い声が聞こえる。


「そんな恰好しているほうが悪いんですよ。

 色々と透けてますよ。昨日の跡が見えてしまってます。

 と、そんなことより、

     お茶を入れてください。

 その香りで起きてしまったんですから。」


と、だけいうと、彼はテレビのほうに向き直り、黒いクッションを抱きしめた。


「むー。

 なんで今日は寝てたのよ。

 いつもならお茶をいれてくれてるのに・・・。

  しかも、見ているなんて・・・。

             悪趣味よ。」



「たまにはゆっくりしたいんですよ。

  隣にいつもの湯たんぽさんがいると安心していたら、二度寝してしまった。

 いつになく真剣に、こちらに見惚れていると思ったら、

  いきなり鼻をつつかれるなんてね。

   せっかくまどろんでいたのに・・・。」


  !!!


「起きていた、の。」


「隣でなにかがもぞもぞし始めたら、

    嫌でも気付いてしまいますよ。」

 

「なによ、それ。」


また、「むっ。」、といいながら、

彼女、ほのかはケトルに水を入れ始めた。

水の音がザーと響く。

訪れる一瞬の静寂。




「愛しい温かさがいなくなって心配しました。

 また、逃げられてしまったのかと…。」


彼、幸太がぼそりと呟いた。


「なんだか私が勝手に逃げたみたいな言い分ね。

 あなたが・・・、その・・・。」




ピュー、カチッ

ケトルの中の水が、ちょうど沸騰し終えた。


「あっ、お茶葉を換えないと。」


急いで、ほのかは、急須に手をかける。

その際に隣においてあった湯呑みが倒れてしまう・・・


「あ、あっつ・・・。」



ガタッ


幸太がソファから急いで立ち上がり、ほのかの手を取る


「火傷にはなっていないみたいだけど、痛くない?

 大丈夫?」


「だ、大丈夫。

 ちょっとびっくりしただけだから。」


幸太がほのかをテーブルを挟んで前から、ぎゅっと抱きしめる。


「えっと、幸太、さ、ん…?」



「ごめん、俺も悪かった。

  まさか君が、あんなベタな勘違いをするなんて、思ってなかったから。」


「なによそれ。

 妹さんが、しかも、あんな綺麗な人がいるなんて、聞いてなかったから…。

 あんまり似ていなかったし・・・。」


「まぁね。近々話すつもりだったから。

  自慢の妹でもあるけど、今回のことはしんどかったな。

 でも、そのおかげで

  君に朝のお茶を入れてもらえるなんてね。

    案外疲れてくたくたになるのも、悪くない。」


幸太がほのかの頬に唇をよせる


ちゅっ


頬に、そして、唇と唇が重なる。


重ね合わせ、啄み、さらに重ねる。


「う、うんんっ・・・。」



自然と舌と舌が絡み合う。



「う、うぅん、あ、はっぁ・・・」



お互いの唇が離れ、額をすり合わせながら、目と目が合う。



「本当にごめん。

  誤解とはいえ、君を傷つけた。

 でも、これだけはわかってくれ。

  俺は君のことを、愛している。」



「それは、

  その、

    私もいっしょだから・・・。」


ほのかは、ためらいがちに目を伏せる。


「幸太さんが、別の人を好きかもと思ったときに、

   どうすればいいのか、わからなくなって・・・。

 幸太さんの邪魔はしたくない心と、

 幸太さんと一緒にいたいと思う心がまとまらなくて・・・。

  だから、あなたを避けたの。

    ううん、

      私、あなたから逃げたの。

 でも、やり直したくって。」


「やり直すも何もないさ。

 君と僕は、すでにこうして一緒に過ごしているんだから。」


と、言った幸太は、大きく後ろに反りかえり、右手で自分の額にぺしっとたたいた。

 

「あ~、あ。

 また、そんな目で見つめてきて。

 本当に君にはかなわないな。」


「どうしたの、いきなり?」


「昨日の夜みたいに

 朝だけど、もう一回、ベッドに行きたいなってこと。」


「えっ。」


ほのかの頬が一気に赤くなる。

と、

同時に、また彼女に口づけの嵐がふりかかった。








ベランダ側の生成色のカーテンから強い光が差し込んでいる。


もう、昼近くかな。


自分の腕の中にある重さと温かさに愛しさを覚えながら、目をそっとあける。


地毛だという、茶色に近い黒い髪。

腰まであった綺麗な髪を肩まで切った時、

おかっぱだと髪形を笑ったら、ボブっていうのと怒られたな。


ぱっちりとした二重瞼の綺麗な黒い目は、

今は閉じられている。

ぷっくりとした唇。

首から下は、絹のように白く、手に吸いつく肌。


初めて彼女と肌を重ねた時、彼女の初めてを自分がもらった。

信じられなかった。

こんなに、自分を誘う華は、いままでいなかった。

こんな彼女がほっておかれていたとは・・・。

自分と出会ったのは、必然だったとしか言えない。


下から見上げてくるはっきりとした黒い瞳。

柔らかい唇。


小さな黒子のある首から続く綺麗な鎖骨。


服の上からはあまりわからないが、意外にもふくよかな胸。

赤く熟れた頂。

心持ちふっくらとしているが、しっかりくびれがある腰。

腰からなだらかな曲線を描く臀部。

自分という悪い虫から大事な場所を守る黒い茂み。

そして、

その先にある蜜をひたたす秘所。


自分の全てを絡めとっていく。



たまらない。



君は、

こんなにも俺をゆさぶる。



あの日。

妹が勘違い男に付きまとわれていると聞いて

様子見ついでに、一緒に歩いていた姿を君が見ていたなんて。


君と連絡がとれなくなって

どれだけ俺は、

君のいるはずもない、いや実際にいなかった新しい男と・・・


君を憎んだか・・・。


自分から離れるなんて・・・。

絶対に許せることではなかった。


例え君が他の誰かを好きなって、愛し、心に俺がいなくても、

俺は君を捕まえにいっただろう。

俺しか見えないように、囲い、手折って、逃げ出せない深い深い牢獄に堕していっただろう。


それほど、僕は君におぼれている。



今日は、

本当は二人でゆっくり散歩でもしながら、過ごすつもりだった。

朝からのんびりしたくて、布団の中から出なかったら、

珍しく君が起きてきたので、どんな行動をするのか、興味があった。



愛おしくてたまらない。



朝、起きたら、ほうじ茶をいれる。


実は、身体が冷えるという理由で、以前に付き合っていた女性が癖にしていたことだ。

自分もあまりにも心地よかったので、癖になっていた。

以前は、コーヒー派だったんだけどな。


今では一種の儀式のようなものだ。

君が、このお茶の香りを嗅ぐたびに、自分のことを思い出すようにと・・・。


あぁ、君はどこまで僕を変えていくんだろう。

いままでそんな女性はいなかった。




さっきのお返しに君の柔かい頬をつつく。


「う、ぅん・・・。」


あー、あ

やっぱり誘ってるよ。


でも、君は起きそうにない。


確かにやりすぎたかな・・・。


仕方がないが、一旦風呂にはいってくるか。


だけど、


その前に、



もう少し、君とまどろんでいたい。

読了いただき、ありがとうございます。

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