表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】追放された地味令嬢、実は王国唯一の“魔力翻訳者”でした 〜役立たずと言われましたが、もう契約は終了です〜  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/11

番外編 魔力翻訳者の休日


 北方魔導研究所に、珍しく静かな朝が訪れていた。


「……平和ですね」


 庭のベンチに座りながら、リリアはぽつりと呟いた。


 春の風が研究所の旗を揺らしている。


 王都結界崩壊事件から二週間。


 研究所は王国正式支援機関となり、以前とは比べものにならないほど忙しく――そして、活気に満ちていた。


「平和なのは君が仕事を片付けすぎるからだ」


 後ろから声。


 振り向かなくても分かる。


「おはようございます、アルヴィン」


 彼はいつもの黒衣姿で立っていた。


 だが手には書類ではなく、小さな木箱を持っている。


「王都から届いた」


「また報告書ですか?」


「違う」


 隣に腰を下ろし、箱を差し出す。


「感謝状と褒賞金、それから……勲章らしい」


「らしい?」


「興味がない」


 即答だった。


 思わず笑ってしまう。


 箱を開けると、王家紋章入りの銀章が光った。


 正式な国家功労章。


「……すごいものですね」


「当然だ。国家を救った」


 さらっと言う。


 リリアは困ったように笑った。


「実感がなくて」


「だろうな」


 アルヴィンは頷く。


「君は“直しただけ”と思っている」


「違うんですか?」


「違う」


 きっぱりだった。


「普通は直せない」


 少し照れくさくなり、視線を逸らす。


 沈黙。


 鳥の声だけが聞こえる。


「研究員たちが賭けをしている」


 唐突にアルヴィンが言った。


「え?」


「君がいつ休むか」


「……そんなに働いてます?」


「三日連続徹夜だ」


 自覚がなかった。


「研究が楽しくて」


「それは知っている」


 彼は少しだけ目を細める。


「だから監督が必要だ」


「監督?」


「今日は休暇だ」


「えっ」


「所長命令」


 逃げ道がない。


 リリアは苦笑した。


「何をすればいいんです?」


 少し考えてから、アルヴィンが言う。


「散歩」


「散歩?」


「研究所以外を見るのも仕事のうちだ」


 不器用な言い方。


 でも気遣ってくれているのは分かる。


 二人で庭を歩き始める。


 花が咲き始めていた。


「……変な感じです」


「何が」


「前は、失敗しないことばかり考えていたのに」


 足を止める。


「今は、明日が楽しみなんです」


 言ってから少し恥ずかしくなる。


 アルヴィンは何も言わなかった。


 ただ、静かに隣を歩く。


 やがて小さく呟いた。


「それなら良かった」


 風が吹く。


 髪が揺れる。


「リリア」


「はい?」


 名前を呼ばれ、振り向く。


 彼は少しだけ迷ったような顔をしていた。


 珍しい表情だった。


「一つ、確認したい」


「何でしょう」


「……王都に戻りたいと思ったことはあるか」


 予想外の質問だった。


 少し考える。


 王城。

 貴族社会。

 息苦しかった日々。


 そして今。


 研究所。

 仲間。

 自由。


 答えはすぐ出た。


「ありません」


 はっきり言う。


「ここが好きですから」


 アルヴィンの肩から、わずかに力が抜けた。


「そうか」


 短い返事。


 けれど、明らかに安堵している。


 リリアは首を傾げた。


「どうしてそんなことを?」


 少し沈黙。


 彼は視線を逸らしたまま言う。


「……君は貴重な人材だ」


「仕事の話です?」


「半分」


 そして、珍しく言葉を選ぶように続けた。


「もう半分は、個人的理由だ」


 心臓が跳ねた。


「君がここにいない研究所は、想像できない」


 それは告白ではない。


 でも。


 それ以上にまっすぐだった。


 リリアは思わず笑った。


「私もです」


「?」


「アルヴィンがいない研究所、想像できません」


 今度は彼が固まる番だった。


 数秒後。


「……そうか」


 耳が少し赤い。


 春の風が二人の間を通り抜ける。


 遠くで研究員たちの声が聞こえた。


 いつもの日常。


 けれど確かに、以前とは違う。


 役立たずと呼ばれた令嬢は、


 いま。


 必要とされる場所で、

 必要としてくれる人の隣に立っている。


 そして――


 アルヴィンは心の中で静かに決めていた。


(もう二度と、手放さない)






――番外編・完――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ