見えない壁
ヤンデレ⚠️
放課後の校門をくぐると、隼人はふと立ち止まった。
いつもは行き交う生徒の声や足音が、今日はなぜか遠くでこだましているだけだ。
「ねえ、今日も一緒に帰ろう」
エマが手を差し出す。白い肌に夕陽が反射して眩しい。
隣にいるだけで、逃げ場がないような圧迫感があった。
「部活あるんだけど…」
隼人が言う前に、紬が後ろから腕を絡めた。
「終わるまで待つ」
その声には、甘さだけではなく、決して譲らない強さがあった。
二人の視線が同時に自分に向けられる。
無意識に足が止まる。
笑っているのに、笑っていない。
心臓が少しずつ早くなる。
歩き出しても、三人の間には逃げ道がない。
学校の帰り道は、昔と同じなのに、世界の色が少しずつ変わって見えた。
影の濃さも、風の音も、周囲のざわめきも――すべて、自分たちのために止まっているようだった。
「隼人、ねえ」
紬が声を潜める。
「もし、ここから出られなくなったらどうする?」
冗談だと思った。
でも背筋がぞくりとした。
そして、ふと視線を上げると、誰もこちらを見ていなかった。
クラスメイトも教師も、まるで存在を認めないかのように視線を逸らす。
まるで自分だけが、世界から切り離されてしまったみたいだった。
エマと紬の手が自然に隼人の両側に絡みつく。
無言で、ただ寄り添うだけ。
言葉は必要なかった。
逃げようとすればできるはずなのに、なぜかその気になれない。
夕暮れの坂道を歩きながら、隼人は初めて思った。
――もう、外の世界には戻れないのかもしれない、と。
三人の影が長く伸び、互いに重なり合う。
息苦しいほど近い距離。
安心感と恐怖が混ざり合った空気の中で、隼人は、誰かに許されたわけでもないこの日常を、ただ受け入れるしかなかった。
箱庭――外に出られない、でも逃げたくはない、三人だけの世界。
その小さな静寂の中に、次第に足音が重なっていくように感じられた。




