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魔法少女と二代目。  作者: ささかま 02
魔法少女と解体業
38/41

38 手の届く範囲


 一昨日、急に空が暗くなった。

 昼過ぎにも拘わらず天気が崩れたわけでもないのに、真っ黒になった空にはわけのわからない裂け目まで現れて。まぁ一躍街は大パニックである。


 パニックと言っても、そこは災害大国兼、日頃から怪物の被害に慣らされている住人たちは迅速かつ安全に避難所に向かったし、避難しなかった住人もそれなりに安全に気を付けて暮らしている。

 一昨日以降、連日怪物が出現しているが、そいつらより仕事を選ぶ辺り、日本人っていうのはどうしようもなく仕事人間なんだなぁ。


 因みにうちの会社は早々に閉鎖して社員全員に避難指示を出した。

 工期はストップするし、いいことなしなのはわかり切っているが、さすがに社員の不安を無視して業務に従事させるわけにはいかないしな。何より珍しく連日怪物が出ているのなら、多少現場を止めていても誤差の範囲だろ。さらに破壊されるかもしれないし。


 セルフのガソリンスタンドで給油しながらぼんやりと空を見上げる。

 薄暗い色に奇妙な裂け目。その隙間に見えるのは雷鳴轟く謎の城。意味がわからない。


 テレビに切り換えたカーナビでは、ニュースキャスターがあの城には怪物の親玉がいるのではないかと憶測を述べている。

 美空町から避難する人も増えているらしいが、どうしたものかな。


 ガソリンの精算機の前でため息を一つ。お札を突っ込んでじゃらじゃらと出てきた硬貨を小銭入れに仕舞った。

 会社に戻って事務仕事だけやるかね。いくら非常事態だとしても仕事がなくなるわけではないし、社員も母さんも避難させたので一人だ。気ままにやるさ。


 すっかり人のいなくなった道に車を走らせる。ふと人影が見えてスピードを落とした。

 嘘だろ? なんでここに居るんだよ。人のことを言えないが、若いお嬢さんなんだからそこは避難しておきなさいよ。


「さくらちゃん」


 徐行で近寄り窓ガラスを開ける。

 こちらを見て驚いたようなお嬢さんが肩を撥ねさせた。


「孝樹さん」

「送ってく。乗って」


 随分と不安そうな顔しちゃって、こんな状態だしムリもないとは思うが、だったらなおさら安全なところへ避難するべきだろ。

 大人しく後部座席へと乗ったさくらちゃんを、ミラーで盗み見ながらハンドルを握り直す。一応避難所に家族と滞在はしているらしいのでそこまで送ることにする。


 ミラー越しのさくらちゃんは落ち込んでいるというか、焦っているような。そんな何かを抱えている表情をしていた。

 危ないことはするなと何度も言ってきたつもりなんだが、下手に首を突っ込んでいるわけじゃねぇだろうな。


「孝樹さんは、避難しなかったんですね」

「ん? まぁな。社員は避難させたけど、やることもあるしもうちょっと街にはいるよ」


 さすがに酷くなったら避難も辞さないが。

 とはいえ、細々とした事務仕事だけでも終わらせておきたいわけよ。


「……孝樹さんは、どうしたらいいと思いますか?」

「どうって、この状況? そうだな……特にできることもないが、手の届く範囲の行動はしたいと思うよ」

「手の届く範囲……」


 誰もいない信号で止まる。

 赤いライトが、静かに灯っていた。


「私も、できるかな?」


 縋るような目が、こちらを見ている。


「なんて、答えてほしい?」

「え?」

「俺が言った言葉で、納得できる?」

「……わからない。でも、私にとって正しい大人は、孝樹さんだから」


 正しい、か。そう見えていたのならよかったのか? そう望んでいたはずなのに、いざ明言されるとむずかゆい気がする。

 後頭部を掻いて、息を吐く。それから、もう一度息を吸った。


「なら、きっとできる。さくらちゃんなら大丈夫。でも無理はするなよ、ちゃんとしんどくなったら人を頼れ」


 視界の端で信号が青色に変わった。

 後続も、対向もいないのをいいことに交差点前で、アクセルも踏まずに、さくらちゃんの次の言葉を待つ。


「うん、うん!」


 力ない笑みだった。

 でも、固まっていたものが解けたような笑顔だった。


「……孝樹さんには伝えておくね。この間、カロンに会ったんだ」

「そう、か。元気にしてた?」

「遠くへ引っ越すんだって」


 その笑顔を浮かべたにも拘わらず、目を伏せて唱えるさくらちゃんに、なんとなく嘘だと思った。この子は何を背負っているんだ。

 少し前に抱えていた嫌な感覚がぶり返す。結局アイツについては何にもわからないまま。それでも、あの銀髪の子どもは──。


「は?」


 不意に後部座席に淡い光が溢れた。

 さくらちゃんのポケットから謎の光が放たれている。


「さくらちゃん? それって」

「ごめんなさい孝樹さん。私ここでいいや」

「あ、おい」


 遮るようにさくらちゃんが扉を開けて車の外へ出た。

 慌てて俺も外に出れば、さくらちゃんが光る何かを手にしながら俺を見て笑う。何かを覚悟している顔だった。


「プリズムパクト」


 眩しいほどの光が、さくらちゃんを包み込む。

 キラキラと輝く光の帯が何度もさくらちゃんに巻き付いて、どんどん姿を変えていく。髪の色も長さも変わり、背も少し伸びたように見える。ピンクの花弁が舞い、彼女を包み込む。


 あぁ、そうか。そうだったのか。

 否定したいのに、納得が先に出る。

 この子が、さくらちゃんが。


「花びら舞い散る愛の光、フェアリーピンク」


 ずっとこの街を守っていたのか。


残り3話!

明日はまとめて更新予定!

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