24 傷跡一つ
背中と腕が痛い。
思いっきり背中ぶつけていたからなぁ。今朝会社に湿布を持って行って母さんに貼って貰ったんだが、普通に運動不足と学生時代よりちょっと気の緩んだ腹肉を指摘された。酷くね?
まぁ確かに?
学校卒業して以降、一切運動なんてしていない。現場出たところで重機動かすだけで、気の緩んだ腹肉をしているのは否定できない。
後、背中と一緒に負傷した腕も結構痛いんだが、これ変な化膿とかしてないよな?
アドレナリンが出ていたのか昨日の時点では痛みを感じなかったのに今になってじくじくと痛みだしている。
軽く怪物の爪にひっかけただけだと思ったんだがな。
今のところ腕を上げる程度なら問題ないが、痛みが酷いようなら病院行くか。あんまり引きずっているとさくらちゃんも気にするだろうし。
昨日、あの後は改めて謝るさくらちゃんを宥めて、「危ないところには近づかない」を言い含めた。
さすがに怖い思いもしただろうし、今後は怪物の出た地帯に近付かないだろう。最近落ち込んでいることが多いから気にはなるものの、それはそれとして危機感を持って行動してほしいものだ。
それもこれも、街で暴れる怪物が悪いんだがな。
他力本願で悪いが魔法少女、頑張ってくれ。当方一般人でな、あの怪物どもに対抗する手段なんてほとんど持ち合わせていないんだ。
ああそうだ。怪物と言えば、あの怪物といっしょにいたガキ何だったんだろうな。そういえば前もいた気がする。
なんか怪物と一緒に人型の存在もいるとかなんとかネットのニュースで見た気もするが、アイツがそうだったのか。……宙に浮いている子供が、一般人なわけがないし、そういうことなんだろうな。
仕事終わりにコンビニで一服しながら、昨日あったことの思いを馳せる。
さくらちゃんを家まで送り届けた後しばらく時間を置いて、車とシュークリームを回収したが、シュークリームは残念なことになっていた。わかっていたが、勿体ないことをした。
ぽっかりと肺に貯まった煙を吐き出す。
そろそろ帰るか。コンビニ前に設置してある灰皿にタバコを押し付けて、車の鍵を探すべくポケットに手を突っ込む。
「動くな」
意識の外から、投げかけられた声に一瞬肩を撥ねさせながら振り返る。子供だ。それも昨日会ったばかりの、何ならさっきあれが怪物と一緒にいる人型のやつかと考えていた奴が、そこにいる。
キッと睨むように俺を見ているが、お礼参りか? 一応一般人なんだが?
「なんか用か?」
「……」
声をかけてみたが、無言ですか。えぇ? なんか用があって声をかけたんじゃないの?
よくわからないが、これ幸いと子供の様子を観察する。昨日は白っぽいと思った髪はどうやら銀色だったらしく、光を浴びてキラキラと輝いていた。年の頃は十歳そこら。カロンと同じくらいだ。
わけもわからず子供を見返していたら不意に大きな音がした。よく知った何かが壊れる音だ。
「うおっ、結構近いな」
「しばらくここにいろ」
「あー、ご忠告どうも?」
これは一応、危険から遠ざけてくれたって思っていいのか? 全く意図がわからない。昨日は怪物を消しかけられたと思ったんだが。
いや、昨日命を狙われた相手と、普通に話している俺も大概おかしいのはわかっている。
でもなんかこいつほっとけねぇんだよなぁ。ムスッとした顔が、逆に必死そうに見えて。
別にこいつに対して俺がどうこうできることっていうのは無いんだが、あいつを助けてくれる誰かが居ればいいなと思うくらいは許されるだろ。
いくら街を壊している怪物側の存在とはいえ、子供だしな。ちゃんとした大人が、勝手に物を壊すのは悪いことだって教えてやってくれよ。
「なんで声かけてくれたの?」
「珍しくアイツが戦ってるからな」
あーはい。お仲間さんがいるのね? ならよかった、のか?
でもその仲間も道を外しているっぽいしな。魔法少女たちはこういう道を外れた子供の社会福祉的な対応してくれるのか? それはそれで魔法少女に負担がかかりすぎな気がしないでもないが。
とにかく、こいつが俺を引き留めたのは邪魔されないようにしていると受け止めていいんだろう。
昨日の行動とはちぐはぐだが、相手は見るからに子供だしそういう気分の変化があったっておかしくない。
そもそも、こいつらが何で街を壊しているのかも、俺たち一般人は知らないしな。一貫性のない行動を取っているように見えたって、案外こいつらなりの理由があるのかもしれない。
ただ、だからといってこいつらに寄り添えるかと、言われると難しいがな。
「……オマエは、怖くねぇの? オレらのこと」
「あー、まぁ怖いっちゃ怖いけど。こうしている分には別に。あ、だからって昨日みたいなのは勘弁な」
実はまだ結構痛いんだよ。背中も、腕も。
帰って包帯を変えてみて、血が滲んでいたら諦めて病院に行くか。そもそも、この状況から無事に帰宅できるかもわかってないが。いや、帰らせてくれるよな?
「……ほんとに、ヘンなヤツ」
何が面白かったのか、銀色の髪の子供が笑う。
そうしていると、あの怪物に街を壊すように言っていた子供には見えない。むしろ、その無邪気な顔を俺はよく知っている。
街を壊そうとしている怪物を操る子供の、その表情に。
確かに、カロンの面影を見た。
何度か姿を見ていたけど、こちらの姿で直接話すのは初めて。




