23 痛みを抱えて
時世柄と言うべきか、この街の解体、建築会社は懇親会が多い。
何なら資材や廃材回収の業者との関係も他地方よりも密接だ。
とは言えそれは昔からというわけではなく、頻繁に社長陣で会って話をするようになったのは怪物が現れるようになった最近のことで。
そうやって連携を強化しなければ追い付かないくらいには好き勝手されちまってるからなぁ。
魔法少女も怪物を倒す力があるとはいえ、いつどのタイミングで現れるかもわからない怪物には後手に回らざるを得ないのだろう。
どこの会社も怪物の被害に頭を悩ませているらしい。
ただどこの会社も長年会社を支えてきた社長ばかりで業界内での俺の立場はそんなに高くはないんだよなぁ。
神妙な顔して「勉強になります」って言っておけばいいので楽ではあるんだが。
別に界隈で幅を利かせたいわけでも、大企業にしたいわけでもないのでいいか。
今いる社員の生活を保証できて、この怪物騒ぎが落ち着いた後も傾かずに安定した会社経営をできればそれで。
からころと小気味いい音と人当たりのいい店員の退店挨拶を聞きながら店を出る。
俺が一番下ということもあり会食後、社長陣を見送って、ふらりと鬱憤を晴らすように行きつけの洋菓子店に来た。やっぱ俺はお偉方と高い飯食うより、社員にちょっとした差し入れする方が好きだわ。
パティスリー美空のシュークリームを社員分と予備に一個。俺の分と呼びがあれば、何やら最近ケンカしているらしい子供二人へのお土産にもなるだろう。
もし会えなくても、予備は事務の石川ちゃんのお土産にすればいい。最近資格取得のために勉強してるって言っていたし、ちょっとした息抜きにはなるはずだ。
そんなことを考えながら歩いていたら前方から何やら不穏な気配が漂ってきている。
ぞろぞろと連れ立って老若男女の一団が道路の端に固まって不安げな顔で話し合っている。
あー、これは間違いなくあれですわ。
「どうも。もしかして、避難ですか?」
「ええ、この先怪物が出て……」
勘弁してくれよ。この先のパーキングに車止めてるっていうのに。
比較的落ち着いている男性に声をかければ、彼も困った様子で返してくれる。こういう時、すっかり怪物騒ぎで避難に慣れ切った住民の伝達は素早くてありがたい。あまりいいことではないがな。
「マジかー。いやね、車があるんですよ。向こうに」
「それは、なんというか。ご愁傷様です」
怪物に壊された前提で反応しないでくれよ。
いや、その可能性は大いにあるがせめて車の無事を願ってくれよ。
「大きな音は聞こえないですし、もしかしたらもう魔法少女たちが解決してくれたかもしれないですが、行くのならお気を付けて」
「ありがとうございます。あなたも気を付けて」
さすがに車を置いて帰る選択肢はない。よくないとはわかっているが車移動に慣れると歩くのが億劫になるんだよな。
あと、置いて帰った時の駐車料金も気になるし。
先ほどの彼の言葉を信じ、もう終わったものとして道なりに進む。そこの角を曲がればパーキングだ。幸い建物が壊されるような音はしていない。していないのだが。
代わりに何やら言い争うような声がするんだが、何事?
「バカにするなって言ってんだよ!」
ケンカ? よしなさいよ、往来で。
そろりと角から覗き込む。パーキングのすぐ目の前で、黒くてでかいのがいる。
うわ、まだ怪物いるじゃねぇか。それに怪物のすぐそばには仲間なのか白っぽい髪の子供が浮いている。
だが、それよりも。
「うるさい! 弱い者いじめしたいわけじゃない!早く変身しろ!」
怪物の仲間のガキが怒鳴りつけている相手。それが問題だ。
こちらに背を向けていて顔は伺えない。それでも、見慣れた制服の、見慣れた後ろ姿だった。
なんで、さくらちゃんがあんなところにいるんだよ。
まさか逃げ遅れたか? とにかく今はさくらちゃんを助け出すことが先決だ。どうする。物を投げるか? 生憎シュークリームと車の鍵しかないが、気を引くくらいならできるだろう。
「危ない!」
頭で考えるより先に体が動いていた。
怪物が鋭い爪を振りかぶる。さすがにあんなものを食らったらひとたまりもない。買ったばかりのシュークリームを放り出して、地面を蹴る。
飛びつくようにして抱え込み、そのまま地面に落ちる。
生憎漫画の主人公のように世界がスローに見える、なんてこともなく、普通に怪物の爪が肩に引っかかって、そのまま背中から地面にぶつかった。
いや、大金星でしょ。さくらちゃんを庇いきって、自分が下敷きになって着地できたんだから。
「は、はは。いってーな。……大丈夫か? さくらちゃん」
目を丸くして驚くお嬢さんの返事を待たずに立たせて、怪物から距離を取らせる。
さて、この後はノープランだぞ。投擲に使えそうだったシュークリームは道の向こうで無残に落ちている。
「なんで、なんでだよ! なんでオマエがここで……ああ! もう! やってやる! 全部、オレが! 壊してやる!」
癇癪を起こしたように喚くガキに、何を言っているのかわからないがひとまずさくらちゃんを背中に庇えば、有難いことに魔法少女たちが駆けつけてくれる。
早々に安全地帯に退避させてもらうか。
「あの、孝樹さん。私……」
「危ないことするなっていっただろう」
今にも泣きそうなお嬢さんの手を引いて歩き出す。
背中は痛いが、まぁ我慢できないほどではない。とにかく、さくらちゃんに怪我がなくて良かった。
「ごめんなさい」
謝るよりも、笑ってほしいんだがなぁ。
投擲武器:シュークリーム
ダメージ…1
効果:ちょっとベタベタして不快




