22 誰かのために
さくら視点。
孝樹さんはよく、信頼できる人に相談しろと言う。
私にとって孝樹さんは充分信頼に足る人なんだけど、孝樹さん自身のお眼鏡にはかなわないらしい。
だから一応ちゃんと考えたのよ。
まずは孝樹さんが一番薦める両親。もちろん大好きだし、私にとって守りたい人たち。それは学校の先生や他の友達も同じ。
じゃあ、七海と梨穂は?
大切な仲間で親友。ただ二人も何か悩んでいるし、今相談して負担にならないかとずっと迷っていた。
結果的には、思い切って話してよかった。
私が心配していたのと同じように、二人もお互いを心配してくれていたし、お互いに思っていることを話したかったみたい。
カロンやプルートのことを二人と話して、魔法少女プリズムトリニティとして、どうしていくかを決めた。可能な限り、説得しようって。
誰だって故郷を壊されるのは嫌だもの。カロンたちが故郷のために美空町を壊しているのなら、他の方法でイノセントジュエルを探すように相談しようって。
説得して、それでだめなら、また三人で考えようって。
それに、カロンの言う通り、バイデントたちは人間に混じっているらしい。
七海と梨穂も、人間に変身した破壊の使者たちに会っていた。
七海にとってはヨルさんが破壊の使者のニクスだったのが衝撃だったみたい。
ニクスは人間の姿で、イノセントジュエルの場所を探していた。ヨルさん、ニクスは意地悪だったけど、七海は嫌いではなかったと言う。
「嘘をつかれていたのが悲しい。でも、だからこそ、ちゃんと説明させてやる」って意気込んでいる七海を見て私も頑張ろうと思えた。梨穂も梨穂で、P5と何かあったみたいだし、説得できないか頑張ってみるって。
二人と話をしてよかった。きっと、三人なら何とかなるよね。
本当は孝樹さんにも相談したかったけど、さすがに魔法少女をしています、なんて言えないし。
プリズムトリニティとしてバイデントと戦っていますなんて孝樹さんに知られたら、危ないことするなって怒られるよね。
どういう状況なのかはわからないけど、プルートはイノセントジュエルの奇跡に頼らないといけない状況で、そのためにクライドという人がカロンやバイデントたちを率いている。
カロンは、プルートのために、美空町を壊すと決めたんだと思う。その結果、どんなことを言われようと、責任を果たすと。
大人とか、責任とか。孝樹さんを見て考えたんだろうなぁ。
解体現場の様子に目を輝かせるのはちょっと気になったけど、孝樹曰く許容範囲らしいし、それ以外は孝樹に甘えたり構ってもらって嬉しそうにしている少年だった。
私に対しても少し生意気なだけの子で、多分、きっと、普通の。
だから私はもっと、カロンのことを知るべきだと思ったの。
目の前で、大きな音が鳴る。人が、悲鳴を上げて走り去る。
黒くて大きな体に鋭い爪と赤い眼光。
バイデントだ。
そしてその上には。
「……カロン」
「……」
カロンが、私を見下ろしている。
今は七海たちもチュチュもいない。きっと皆すぐに気が付いて、来てくれると思うけど、でもその前に。
「もう一度、話がしたいの」
できるだけ、落ち着いて。
ゆっくり、息を吸って、口角をきゅっと持ち上げる。
魔法少女プリズムトリニティとして、プルートの侵攻をどう対応していくか。
街を壊してイノセントジュエルを探さないとプルートが壊れると言っていた。美空町を壊されるのは嫌。でも、カロンがプルートを救いたいと言うのなら、街を壊す以外の方法でイノセントジュエルを見付けられないのかな。
チュチュが言うには、イノセントジュエルの力は無限ではない。だからか一方を救えば、もう一方を見捨てることにもなる。
今までの魔法少女たちはイノセントジュエルを世界の再生に使っていたと言う。なら私たちの世界が破壊されなければ、この世界を再生させる必要もない。プルートの復興にイノセントジュエルの力を使えるはず。
「もう街を壊すのをやめてほしい。イノセントジュエルを探すなら、一緒に探すから」
「……は? 何バカなこと言ってんの?」
「私は本気だよ。この街の人たちにも、カロンたちにも、悲しい思いはしてほしくない」
真っ直ぐ見上げて手を伸ばす。
カロンは、自分や私のことを孝樹さんには話さなかった。話したくないのか、話すつもりはないのかはわからない。でも、孝樹さんを利用して、っていうのは、ない、はず。
だったら。
「っふざけんな! お前はプリズムトリニティなんだろ!? だったら戦えよ! 人間を守るためにさぁ!」
「聞いて! 絶対何か方法があるはずだから! 一緒に考えるから!」
「バカにするなって言ってんだよ! こっちはお前ら人間を倒してでも、プルートを救うために来てるんだ! だから、オレと戦え!」
カロンが声を上げる。
それは癇癪を起こして怒っているはずなのに、すごく苦しそうで。
きっと、私の知る、孝樹さんの前で無邪気に笑っていたあの子が本当のカロンなんだ。
「カロン。協力しよう?」
「うるさい! 弱い者いじめしたいわけじゃない! 早く変身しろ!」
私を見てしびれを切らしたように、カロンがバイデントをけしかける。
ダメなの? まだ、私の言葉はカロンには届かない? どうしたら、こんな時、あの人なら。
「危ない!」
伸びてきたバイデントの爪を避けるために、プリズムパクトに手を伸ばしかけた時。
急に視界が暗くなった。
一瞬の浮遊感と、衝撃。でも痛くはない。
むしろ、温かくて。よく知った、安心する匂い。
「は、はは。いってーな。……大丈夫か? さくらちゃん」
何で、とか。どうして、とか。
そういうのは全部置いておいて。
誰かが危険に晒された時、自分の危険は顧みず咄嗟に体が動いてしまう。
私の好きな人、荻野孝樹さんという人は、そういう人だ。
カロンの仲間についてもその内、何かの形でちゃんと出力したい。




