19 夏の終わり
なんつうかこう、普段元気な子が静かだと気になるというか、何かあったのかと心配になるというか。
コンビニから出た俺を見付けて、一瞬いつものように表情を明るくしたと思えば、すぐに何かを思い詰めたような迷子みたいな顔をしちゃってまぁ。
いつもは良く回るさくらちゃんのお口も、今日ばかりはお休みのようだ。
隣にくっついて歩いては来ているものの、浮かない顔のままパーキングに止めた車の傍まで来てしまった。
いや、確かにちょっと精算機前に来ても静かについて来ていた時点で、どのタイミングで意識が戻るかなといたずら心が湧いたのは事実だが、これは良くないよなぁ。
ここまで心在らずでふらふらと追従されてしまっては、このまま帰らせるのも心配になる。
「さくらちゃん、そっち回って」
「え、あ。はい!」
はじかれたように返事をしたさくらちゃんがパチリと大きな瞳を数度瞬かせた。
意識が戻ってきたようで何より。でもいつまた考え事モードに戻るかわからないので、今日はさすがに車で送らせてくれ。うっかり車に引かれたり、そこまでいかずとも躓いて怪我でもされたら、後味が悪いので。
「えっと、あの。孝樹さん」
「うん、助手席乗って。シートベルトはちゃんとしなさいよ」
「わかりました、じゃなくて」
「声かけられるまでぼんやりしているお嬢さん放り出していけるほど、俺は仕事人間でもないんだわ」
社用車の扉を開けて鍵を差す。
青空駐車場に置いておいたせいで車内はいささか暑いが、クーラーを入れるからそこは許してくれ。
コンビニで買ったコーヒーのペットボトルをホルダーに差し込み、残りの袋をダッシュボードの上に放り出した。
おずおずとさくらちゃんが助手席に座り、シートベルトを装着するのを横目にカーナビに手を伸ばす。
「家……は、言い難いな。近くのコンビニ教えて。そこで下ろすから」
本当はこうやって送るのもあんまり良くないんだけどな。
というか親が把握してない人間の車に、未成年が乗るのって本当にどうなのよ。いくら気を付けているって言ったって、おかしな関係と誤解されたって仕方ない。いやまぁ今の状態のさくらちゃんを一人で帰させる方が心配ではあるんだけど。
「若いからって、あんまり暑い中ふらふらするもんじゃないよ。今は簡単に熱中症になるんだから」
「ごめんなさい」
「おうち帰ったらちゃんと水分と、後塩分も取ること」
また何やら悩んでんのかねぇ。
いくら悩み多きお年頃と言ったって、悩む場所ぐらい考えなさい。何も真夏の昼間に外で、考え事なんてしなくてもいいでしょ。せめて屋内に行きなさいよ。
沈んだ表情のままのさくらちゃんを横目に、カーナビが電子音で右折を告げる。
まぁ、ムリに聞く気はないし、話したくないこともあるわな。
信号で止まったのをいいことにさっきダッシュボードに放り投げたばかりのコンビニの袋に手を伸ばした。
ガサガサと煩わしい音を立てて取り出したるは、薄いセロファンに包まれた苺大福だ。
「レジ前のやつって、なんであんなに食いたくなるんだろうな」
それをそのままさくらちゃんの手の上に落とす。
ずっと悩んでいたら疲れるでしょ。考えるのも休み休みにしなさいな。
「……、ありがとう。孝樹さん」
大福一個で、その顔が引き出せるならお安い御用ですよ。
いつもの溌剌とした元気な笑顔とは違うものの、肩の力が抜けた柔らかい笑顔に一安心する。
パッと信号が変わり、少しずつアクセルを踏む。
シートベルトを締めてもらってるとはいえ、他所のお嬢さんを乗せているのだからいつも以上に気を付けて運転する。
こういうことを言うと、普段から安全運転を心がけろと教習所のテストに怒られるな。
さすがに社用車で事故ったことはないが、数年前に一時停止でネズミ捕りに引っかかったので免許証の色が今日の空みたいに青く輝いてるんだよ。
ポーンと気の抜ける音と共に、電子音が目的地付近に着きましたと告げる。
いや、住宅街は目的地まで案内しなさいよ。あとちょっとがわかりにくいこと多いんだから。
注意深く辺りを見回して見つけたコンビニの駐車場に車を止める。
はい、到着。気を付けて帰りなさいよ。
「俺じゃなくていい。辛くなる前に信頼できる人間を頼れよ」
「うん。……もし、本当に辛くなっちゃったら、孝樹さんに相談してもいい?」
「いいよ。でも、相談するなら『辛くなる前』だ」
「……、うん! ありがとう!」
本当はもっと、保護者とか、教師とか。その辺りの責任の持てる立場の人に相談してほしいんだがなぁ。
ここまで関わっておいて、今更放り投げるとかはないが、せめてさくらちゃんが悪く言われないように立ち回らないとだな。
いそいそとシートベルトを外し、先ほどとは打って変わって明るい表情になったさくらちゃんが車の外に出る。少し、眩しそうな顔で振り返り手を振った。
ハンドルから手を離し片手を上げて挨拶を返しながらも、後ろを確認する。コンビニに入ってくる車はない。出るなら今だな。
バックミラー越しにさくらちゃんが小さくなるのを見ながら、道路に出る。
あんなレジ前で百円ちょっとで買った大福を大切そうに抱えて笑うくらい抱え込んじゃって。少しでも心が軽くなってくれたならいいんだが。
しかし、女子高生も精一杯悩んで生きているんだなぁ。
俺にとってはそっちの方が、夏の日差しよりも眩しいわ。
あくまで主人公は一般人なので、魔法少女たちの事情を一切知らないまま話は進んでいきます。




