15 素知らぬ顔で
「孝樹さん、大人の女性ってどう思います?」
何やら真剣な顔でお嬢さんが言った。
多分これは笑ったらダメなやつだよなぁ。
「別に、どうということもないけど?」
いや、まぁはい。嘘です。普通に興味はあります。
美人とか、その、ほら。グラマラスな感じの方とか、とてもいいと思うぞ? 年頃のお嬢さんに聞かせられる内容ではないので、口に出すわけにはいかないけど。
「そっかぁ。最近よく七海が、ヨルさんって大人の女の人と話していてね。なんだか格好いいなぁって思って」
俺も一応大人なんですがね。別に、憧れられたいとかはないが。
いつものように、車を置いたパーキングまでさくらちゃんを伴って歩く。
なんというか。さくらちゃんが頻繁に声をかけてくれるおかげで、女子高生と並んでいても、通報されない程度の清潔感は保とうという意識が芽生えてきた。
事務の石川ちゃんにも好評なので、問題は無いと思いたい。子供の安全を考えたらいいことなのだが、最近は世間の目が厳しいので。
さくらちゃんが俺に飽きるまではちょっと頑張っておこうと思う。
あと、通報されたら母さんにも呆れられそうだし。
「あー。なんだっけ、七海ちゃんって、あれ? 苦手な人がいるって言ってた」
「そうですそうです。最近は開き直ってケンカしてるって言っていました」
前にさくらちゃんが言っていた年上の女性にからかわれているっていう。
そうか、ケンカしているのか。多分それ、その人喜ばせているだけの気もするが。余計な不和を招きそうなので言わないでおこう。
「ヨルさん髪も長くてすらっとした美人だし、七海は意地悪だって言うけど、大人の女性って感じ憧れるなぁ」
長髪の美人か。
いいな、ぜひお目通り願いたい。
しかしまぁ、このぐらいの子ってやっぱ年上って存在に憧れるものかねぇ。
話に聞く限りその人物は本当に美人なんだろうが、さくらちゃんはさくらちゃんで可愛いと思うよ? 身長は普通くらいだし、髪も肩にかかるくらいの長さだけど、年相応の元気なお嬢さんって感じで可愛らしいと思う。
でもやっぱ話し相手は同世代の方がいいと思うよ? 話題も合うだろうし、変に気負わずに済む。
年上の方が頼りがいがあるように見えるかもしれないが、それは長く生きているだけで、若い子だってしっかりしている子はいるし。
「なんかこう……、大人の人と仲良くしているだけで、その子まで大人っぽく見えません?」
それはちょっとわかる。高校、大学の時年上の彼女がいる奴が、ちょっと大人に見えたもんな。
別に付き合っている相手でそいつの価値が変わるわけでもないのに、なんかちょっと周りから一目置かれるし対応が変わるんだよな。
パーキングに辿り着いても隣にいるさくらちゃんは、慣れた様子で俺が精算機に小銭を投入するのを眺めている。
夏休み中でしょうに、わざわざ俺に構わなくてもいいんだぞ? それともあれか? さっき言っていた、大人と一緒にいることで大人っぽく見られるやつを実践しているのか?
「私も早く大人になりたいなぁ」
「なんでそんなに大人になりたいのよ」
「だってー、大人になったらー、んふふふふー」
うーん、これはわからん。ご機嫌ならそれでいいんだが、相変わらず女子高生というのは、俺には理解の及ばない生態をしているな。
精算機から車止めのロックが外れたことを知らせる電子音がした。適当に小銭入れをポケットに入れて代わりに車の鍵を取り出す。
「できることが増えるのは間違いないが、その分責任もあるし面倒ばっかりだぞ?」
「んー。でも、夢とかなりたいものがあるなら望むところじゃないですか?」
「わぁ意外と好戦的」
なに? なんかなりたいものがあるの? ならいいんじゃない?
大人にならなきゃできないことなら、「早く大人になりたい」って願うのも理解できる。でも今しかできないこともあるんだし、勉強でも遊びでももっとじっくり楽しめばいいとも思うがな。
こんな街中の小さなパーキングでする話じゃないので深くは聞かないが、次に人生相談する時はちゃんとした場所で、ちゃんとした大人に相談した方がいいと思うよ。それこそ保護者の方とか、学校の先生とか。
怪物の被害も多いし必要な職種ではあるけど、やっぱうちはブルーカラーとか言われたりもする業種ですし? さくらちゃんが良くても周りの目がなぁ。
世間の目を考える俺など知ったことではないと、さくらちゃんは笑う。
「早く大人になるから、待っててくださいね」
「馬鹿なこと言ってないで、ゆっくり大人になんなさい」
だからそういうのどこで覚えてくるんだ。
わかっているんだか、無邪気なだけなのか。頼むから変なのに引っかからないでくれよ?
このくらいの年の子なんて周りが見えなくなる時期なんだから、俺の方でも一応気を付けておくけどさ。限度ってものがあるじゃない。
またねー! なんて大きく手を振って去っていくお嬢さんの背を見送る。
まだまだ子供なんだから。せめて健全な大人たちが守れる範疇で笑っていてくれ。
大人に憧れる子供




