11 人のことを言えない
こういう言い方をすると誤解を招くのはわかっているが、子供っていうのは軽率に死にに行くような行動をとるものだ。
特に小学生。
こちらもそれがわかっているから姿を見つけ次第、車を徐行運転にするが、背後の確認もせずに突然、道路を渡ったり方向転換をする。
一人でいてもそうだが、複数人揃えばもっと道路でわちゃわちゃとし始めるので運転の際は注意が必要だ。まぁ子供が無邪気にはしゃげるのは良いことでもあるんだがな。
コンビニで買ったペットボトルを入れた片手に現場まで歩く。
今日の現場には保志さんと柿崎さん、チョウさんがいて、記憶を辿って三人がよく飲んでいるものを買って来た。
そうして差し入れを持ちつつ現場の様子を確認しに来たはずだったんだが。
防塵布と木製の仮囲いをくぐって先にいたのは、子供を肩車したチョウさんだった。明らかに俺と目が合ってやべっというような顔している。
「安全スローガン、唱和」
現場にいた三人にそう告げると、いそいそとチョウさんが子供を下ろし、他二人も横に並び、保志さんをはじめに、二人が声を揃えた。
「無事故・無災害で今日も一日安全作業。あわてず、焦らず、確認作業。立入禁止区域へ入るな、入れるな、見逃すな」
三人が気まずそうに唱え終わったのを見て、ため息を吐いた。
わかってるなら、三人揃って何やってんのよ。
「ンで、その子は何よ?」
「すまん、孝ちゃん。その子、なかなか出ていってくれなくてさ」
「この子、ワルイ子じゃないよシャチョー。ジューキスキな子、ワルイ子いない」
「チョウさん、ここは素直に謝ろう。下手したらこの子が怪我をしていたかもしれないし」
反省してるならいいけど、さすがに社会科見学をやるなら事前に報告をくれ。
世の中には重機を好きな子供がいるのは俺もよく知っているが、俺たちみたいなブルーカラーの仕事を快く思わない親もいないわけじゃないんだよ。後、何より怪我をした時の対応に困る。
「なぁなぁ! あんたがこいつらのボス?」
「ボスって、まぁそんな感じだけど」
「アレ壊してんだろ? オレもやりたい!」
何ともまぁ元気なお子さんで。ちらりと保志さんの方を見れば困った顔で手を合わせている。
仕方ない。子供と視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「解体、興味あるの?」
「おう! だって壊すの楽しいじゃん」
「そうかそうか。でも建物を壊すのは年齢制限と資格が必要なんだよ」
「えー! でも俺壊すの得意だよ」
「そりゃ将来有望だな。ぜひでっかくなったらうちの会社に来てくれ」
ごねるな、ごねるな。
チョウさんたちもこれで機嫌取って帰って貰おうとしていたのか。気持ちはわかるが今度からは入れないようにしてくれ。
「なぁなぁいいだろー?」
「だーめ。ほら、親御さんは?」
「親なんていねぇよ。オレも壊したいー」
おま、それどっちの意味だよ。近くにいないのか、そもそもいないのか。どっちにしろ厄介なんだが?
ぐいぐいとスーツの裾を引っ張る子供にため息を吐いて、ぐしぐしとぼさぼさになっている黒髪を撫でてやる。
「わかったわかった。面接に合格したら見学だけはさせてやるから」
「メンセツ? なんだそれ」
「俺の質問に順番に答えていくこと」
「なんだそんなことかよ。じゃあ早くやろーぜ、メンセツ」
腕に下げていたコンビニの袋からコーラを取り出す。
柿崎さんがいつも飲んでるから買ってきたが、これは没収です。代わりに俺のコーヒーでも飲んでてくれ。
残りの袋をチョウさんに渡すと「アリガトねー」と、ご機嫌なお礼が返って来た。調子いいなぁ。
子供を連れて端の方に移動する。
「はい、じゃあ面接を始めます」
「おう!」
「君の名前は?」
「オレはカロン!」
カロン君ねぇ。最近の名前事情はすげぇなぁ。どんな漢字書くんだ?
コーラのペットボトルの蓋を軽く開けて、カロンに渡してやる。
「あんたは?」
「荻野孝樹です」
「ふーん、コーキか。……なんだこれうめぇ!」
「あーあー。暴れるとこぼれるぞ」
テンションたけぇなぁ。
子供は苦手ではないんだが、テンションが上がった子供はどう扱ったらいいかわからん。
「カロンはどっから来たんだ?」
「プルート」
何処だよ、プルート。
そういう名前のアパートか?
「クライドたちと来たんだ」
「それは兄弟? それとも友達?」
「クライドはボス! スゲー強いんだぜ!」
「そうかそうか」
何にもわからん。
どうしたものかと頭を悩ませていると、カロンが作業を再開し始めた三人を見ながら口を開いた。
「コーキもあれやるんだろ?」
「解体のことか?」
「そー!」
「まぁ、やるにはやるが」
「いいなぁいいなぁ! グシャって潰れたりガラガラ崩れんのおもしれぇよなぁ」
随分と壊すのがお好きなようで。
楽しみ方は人それぞれだがな。積み木を崩す瞬間が好きな子供と同じようなものだろう。解体用の重機が好きでこの仕事を選んだ人間だっているのだし。実際俺もそうだし。
なのでカロンの気持ちはわからなくないが、ただ安全面では話は別だ。
近くに転がしていた予備のヘルメットに手拭いをかませて、カロンの頭に被せる。
サイズはあってないが、無いよりはましだろう。
「うわ! 何すんだよ!」
「ヘルメット被って、ちゃんと言うこと聞けるなら面接は合格」
「壊していいの!?」
「それはダメ」
「ケチ!」
甘いのは百も承知だが、やっぱあんなキラキラした目で見られたら、断りにくい。
これは保志さんたちのこともいえねぇなぁ。
現場作業員と少年来訪者




