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episode_2

一瞬だけフリーズしかけていた脳が再起動する。自称吸血姫<レディ・カーミラ>による唐突な行為によって綾瀬永利もまた、普通の人間と同様の感情を見せていた。

正直隙がありすぎるともいる。彼女が本気で攻撃するような状況であれば、顔の方が無くなっていたに違いない。ただ、永利にとって彼女の攻撃性は無かったのは事実だ。

殺気に対する感性に対して敏感な永利にとっては、彼女の攻撃性を感じ取れなかったことにそこまで疑うことはなかった。しかし、むしろそれはそれで疑問が出てきてしまう。

彼女の行動原理はいったい何なのかという疑問に対してすぐに明確な言動をできるかというと、正直永利にはそこまで器用な感性は持ち合わせていなかった。

「一体どういうつもりだ?吸血鬼の姫君にしてはおてんばがすぎるど思うが」

「誰にでもこういうことをしているわけじゃないわ。私は貴方を下僕にする方を考えたのよ」

「下僕?」

「使い魔ともいうわね」

「典型的すぎるがだから愚かともいえるな・・」

「愚直ともいうわね」

違う。と言いかけたが、正直そこまで注意するほど気が利いているわけでもなかった。すぐにここから立ち去るほうが賢明だと考えているっからだ。

俺は関係ないとそう言いたいわけじゃないが、こんな場所で吸血鬼となれ合っているとさすがに上から怒られる可能性がある。

「逃げたら駄目よ。貴方はもうここで私のものなんだから」

「さっきのは暗示なのか?悪いが、俺にはそういうものはきかない」

「嘘、女の子のファーストキス経験済みなの?誰と?」

正直、ここで逃げてもそう悪くは無いが。正直しつこい吸血鬼から逃げたところで逆効果だということが考えられる。

間違っても猛獣に背中を見せてはいけない。それは、この世界でも十分通用することになっている。追いかけられたとして、何時までも戦力がもつわけじゃない。


実際の所、発砲には許可が居る。現時点で上層部からの許可は無いため、威嚇射撃等はまずできない。

綾瀬永利に現状許されているのが帯刀。といっても、その呪剣そのものに個人認証システムというありがたいものがついているため自由に使うとすぐに情報が出てしまう。

いつどこで使われたか、入念に記録されてしまう以上好き勝手はできない。管理され過ぎているのも困りものだが、特にこの場合は厄介だった。

「さぁ、下僕になりなさい」

「残念だが断る。そこら辺の犬でも飼っていろ」

「わんちゃんが戦力になるとも言うわけ?私が欲しいのは英霊に匹敵するカードよ」

「一体何をするつもりなんだお前は。状況によっては、こちらも手段を考えるが」

「警察を呼んでも無駄よ」

そりゃぁそうだろう。ただ、本気でそう言っていそうなので困ったところはある。

「私にはやるべきことがある。そしてやらなければいけないことがある。一人では、正直解決が難しいところもあるのよ。

貴方は機関に管理されているタイプなんでしょう?ブラッドカーストのランクは低いけれど、戦闘能力はある程度いいところがあるわね」

「一体何が目的なんだ。一応言っておくが、俺を雇うということは他の組織に喧嘩を買うという意味だ」

「そう。じゃぁ協力関係というところでもいいわ」

ハードルを落としてきたが、むしろそっちが本命というところだろう。むしろ、下手にOKを出す方が危険に感じられる。

もしかしたら、彼女はただのハニートラップとすら考えられる。吸血鬼を使ったハニートラップというのも斬新すぎる気はするが、今はそういう世の中だ。

実際、普通の人間は吸血鬼の魔眼に抵抗する術はない。目には目を、としてブラッドカーストを持つ能力者をガードマンにすることがある。

「今日の夜、ここに来なさい」


「本気で来ると思っているのか?まだ協力するとさえ言っていないぞ」

「報酬はあるけれど。一応私はお金があるもの」

「金には困って居ない」

「どうして?」

「誰もが億万長者を狙っているわけじゃないからな」

「ミリオネアね。せめてビリオネアを狙えるくらいの願望とかないの?」

「それは俺を挑発してるのか・・?」

吸血鬼の中には多くの財産をもっている奴もいるのだろうけれど、流石に兆単位まで持っている奴は少数派だろう。

明らかにただの戯言でしかない。こんなことをしているぐらいなら、本当にすぐに引き下がったほうがいいだろう。

「いい?来なかったら家に直接襲撃するわよ。家全体が血まみれになってもいいわけ?」

「それこそ安い脅迫だな。そっちは何処に住んでいるんだ?まさか、ビルの屋上とは言わないだろう」

「何でわかったの!?」

大げさな驚きをしているが、本当に屋上に住んでいるのだとしたら本当に頼もしい奴だった。

ビルの屋上、それこそ看板の中に住んでいるというネタもあったが。さすがにそんな行為を許す奴などいないだろう。

勝手に住んでいた場合、盗電で捕まる可能性もある。世の中、そうフィクションにようには行かないのだが・・。

「本当に何が目的なんだこの吸血鬼は・・」

「吸血姫よ。ニュアンスが違うのが分からない?」


「そういうネタも流行らないと思うが」

「古き良き真祖よ」

「真祖ね。君たちはそういうが、政府が認定している正式名称は起源体、つまり病気の発生源となっている個体のことだ」

「いちいいち鬱陶しいわね!何よ起源体って、神聖な真祖をインフルエンザと一緒にするな!!」

どっちかというと狂犬病や天然痘に近い扱いなのだが。しかし、まだ治療法も無いのでそれも間違いということにはなっている。

強いて言うのであれば、必要以上に致死性が高い風邪みたいなものだ。それこそ、被害者こそ多い病気。

実際には、病気にかかった本人よりも、その二次災害によって死に至る人間の方が多いというデータすらある。


というわけで、即時帰宅した自分は昼寝をしようとしたが、電話がかかってきたせいで安眠妨害されることになった。

「真祖に会ったそうだな」

女性の声だ。名前は安土蚊帳子。ブラッドカーストの力を持つ人間を管理している組織の一人ということになる。

綾瀬永利の監視の仕事をしている彼女とは、かなり長い付き合いになるが。正直、ここまでくるとかなり鬱陶しいものがある。

「監視カメラが動いている以上、お前の行動は全て管理されている。そこを忘れないことだ」

「はいはい。結構なことだな」

「女の子とキスをして遊んでいい年齢か?」

「・・・・」

恥ずかしいところまで記録されてしまった。下手をすると逮捕されかねない。

「真祖の年齢が高い場合もあるだろ?」

「残念だが、彼女の年齢は公表されている。国民も知って居るお姫様だからな」

「何だって?]

「エリュシオン王国。ヨーロッパに出来た新しい国の一つだ。小国、それこそスイスやオランダの国土とそう変わらない国だが、吸血鬼が王族として支配している。

クソ真面目に、国の中央にでかい城を建てているだけあって、他の国からは冗談の一つにすら語られているぐらいだ」

「そんな国があったのか」

「お前が呑気に訓練をしている最中にな」

「外部との接触を禁止していたのはお前たちの方だろう」

「ネットもゲームも一日10分だ」

短すぎる。

一体どこの英才教育の家庭だ。下手をするとチェスさえまともに出来ない。

「むしろその方がいいだろう。スマホもPCも、そもそも仕事以外に使うメリットはなんだ?」


「お前は俺の親か?体裁上は管理会社のくせに」

「こっちだって暇じゃないんだ。私は他の吸血鬼も管理を任されている。全く、備品を破壊したあげく暴走を繰り返すとは・・」

「それこそこっちの知ったことじゃない。それで、あの吸血姫の名前は・・?」

「エレオノーレ・ヴァンシュタイン。名前は普通だが、本人は姫君、プリンセスということになっている。つまり、公爵なんだそうだ」

「公爵?」

「デューク・エレオノーレ、と言うのが彼女の一般的な呼称だが。彼女はそれをかなり嫌っている。

その代わり、レディ・カーミラと名乗って居るらしいが。カーミラの元ネタがただの殺人鬼だからな。国民には浸透していない」

「成程。しかし、中世ヨーロッパの吸血鬼みたいな生き方でもしているのか?伝説上の化け物と、病気によってできた異常者では何か違うが」

「違うことはない。過去にも存在していた可能性はある。血による洗礼、それによって物質を強化できるんだから。

一番の問題は、そんなお姫様がお前に接触してきたことだ。能力を見破られた可能性がある」

「・・・・」

「綾瀬永利のブラッドカーストランクはE。最下位ということだが、特殊能力を持っていることで例外的な待遇を得ている。

本来なら危険因子扱いで、もっと不自由な生活をしていることになるぞ」

「・・・・」

「その気になればお前は吸血鬼狩りの暗殺者として成長するだろうが、相手はその力を無視できるだろう。

しかし、高潔である分自ら動くことはほとんどない。エレオノーレはつまり、お前を本気で駒に使いたいのだろう」

「お前たちが何とかできないのか?」

「無理だな。エリュシオンが自由にしている以上、私たちでは手を出せない。国際関係にメスを入れることになる」

「政治的な理由なんて何処にあるんだ。王様の一人娘が外国をうろついているだけだろ?」

「それはそうなんだが。エレオノーレに接触することで、エリュシオン王国に刺激するようなことは避けたい」


「面倒なことになったな」

「全くだ。そもそも、どうしてお前のような奴にエレオノーレがキスまでしたのか・・」

「・・・」

むしろそれが理由なんじゃないか、とさえ思えてくる。問題が必要以上に重なって居るのは事実なようで、頭痛がしてきそうだった。

王様の一人娘がよく知らん奴と外国でつきあっている?ことがばれた場合、エリュシオン王国が何らかの処置をする可能性があるらしい。

「能力者同士の戦闘は避けたい。しかし、エレオノーレは恐らく何らかの戦いに巻き込まれている可能性がある」

「外国で勝手に戦闘するな」

「実際のところ、吸血鬼に国境線は無いようなものだ。奴らには奴らの領域がある。王国として君臨したエリュシオンはかなり稀な状況だろう」

「・・・・」

「お前も知って居るだろうが、吸血鬼には高ランクになると土地の城主として君臨するようになる。

支配している領域が極端な結界を生むことになり、そして誰も立ち入れない区域になっていることがある。

お前が立ち入った場所がまさにそこだろう。ただ、領域そのものは狭いはずだ。本来なら排除するべきだが、しかし静か過ぎる」

「勝手に住処にしているようなものか。しかし、エレオノーレは一体なにをしているんだ?」

「さぁ、しかしただの観光ではないのは確かだ。十分注意したほうがいい」

「まさか、俺にエレオノーレと相手をしろと?」

「さっきからそのつもりで言っているのだが。お前とはいい相手になるだろう?」

「からかっているだろう。こっちはただの被害者だ」


「お姫様にキスされておいてその言動とは、いささか現代病が過ぎる。綾瀬永利、お前がするべきことはヒーローごっこじゃない。

エリュシオンから来た姫君の行動を監視しろ。もし何かあれば、お前の命も危うくなるのは事実だ。今日の夜、絶対に指定された場所まで行くことだな」

「代わりの人間は居るはずだ」

「そんなことをして彼女の機嫌を損ねたらどうする」

「本気で言っているのか?いや、そもそも・・彼女の年齢はつまり、その意味では外見と同等なのか」

「せいぜい18歳というところか。まぁ、それより以下だった場合お前は逆に投獄されているだろう」

「本気で言っているのか、それとも馬鹿にしているのかどっちなんだ?俺は寂しくてあんな場所をうろついていたわけじゃないんだ」

「グールの徘徊に関してはともかく、それ以上の事件に関しては特に義務を与えていないはずだ」

「屁理屈を・・」

「世の中そういうものだろう。むしろ、命令されていないこと以外で勝手に動き回る奴のほうがおかしいんだから」

「俺にもう少し自由はないのか?」

「あるさ。お前がやるべきことは、グールという病気で一度死んだ人間の駆除を担当している、ただの労働者なのだから」

「労働者にしては、あまりにも過激だな・・」

どちらかといえば軍人、は行きすぎだとしても凶器は扱っている。民間人が所有できないものも取り扱っているのだから。

武器を持って闘っている分、中にはファンタジーよりの感性を持つのかもしれないが。しかし、永利にはそんな余裕は無かった。



「金なら彼女から貰えるだろう?」

「金で動けと・・?」

「愛と金、その両方があれば人はいくらでも無敵になれる」

「嫌なことを言うな」

「人間は何か一つだけを持っているだけでは強くなれないという意味だ。総戦力をもって己を使え。出し惜しみこそ最大の失敗の原因になる」

「総戦力ね。全員で一つになって戦えみたいな話だ」

「全戦力を戦争に使うような戦いは惨めになるかもしれないが、それも一つの手段だろう。しかし不思議なものだが、人間はむしろ昔の方が攻撃的だそうだ」

「確かにそうかもしれないが、状況は違わないか?」

「私としては、100年前こそ理不尽に感じるとは思うがな。ロボットに家庭を任せて、自分の中だけで生きる。そんな行為を、昔はSFと呼んでいたが。

人間が生きる目的がある意味、昔とは違うということだろう。それこそ、ある意味搾取的にも感じるかもしれないが。実際の所はどうだ?

生きる以外に目的を持っていない人間が居た時代と、生きること以外に目的を持って仕事をする人間の時代では」

「つまり、俺に戦うことに目的を持てと言っているのか?」

「最初からな。それを目的にせずどうして生きて居られる?薬品を注射して何とか暴走状態<バーサク>を抑えているお前の現状が」

「・・・・」

「その注射もメイドロボットが管理しているが、順序を間違えるな。お前は自由になれないんじゃない。自由を剥奪された人間なんだ。

だが、しかし普通の人間もまた万全とはいえない。一定の学力、それこそ中流レベルの学歴じゃ到底まともな・・」

「分かった、分かったからもういい」

「何だ、まだ話は終わって居ないぞ」

「何でそんな辛辣な話題をするんだ。お前はサディストなのか?」


「私は中庸な人間でいるつもりなのだがな」

嘘をつくな、どう考えてもかなりのサドだろう。ただ、もうこれ以上の会話さえ無駄だと思って来た。

「夜に会えばいいんだな・・」

「それでいい。そして、お姫様の騎士として戦うのであれば好都合だ」

「・・・・」

「ここまで都合のいい戦いはないだろう?」

「ある意味、俺はディストピアの被害者だろう」

「勘違いするな」

「あ?」

「私たちがするべきことは幸せになることじゃない。時代によって出来た、必要以上に大きすぎる不幸を排除することだ。

簡単なことだろう?理解するだけなら、そもそもそこまで難しい数式を使うこともないんだ。

今の時代には今の時代の病理がある。その中心に居るお前が、まさか俺は関係ないというつもりか?だとしたら、確かにディストピア行きの方が相応しい」

「戯言を・・」

「倫理だよ。大は小を兼ねる。目には目をの方が遥かに野蛮だということを理解するぐらいには成長しろ」

「・・・・」

「第一、トイレ掃除もロボットにさせている時点でどうかとは思うが」

「あぁ、トイレ掃除に関しては妹がやっている」

「何?」

「何でも、未だに水関連の仕事は苦手なのだそうだ。視覚的な情報が混沌とするとバグるらしい」

看板がそこにあるとそこをすぐに認識する。だから、一般道路でも、道端に突然100キロ走行可能と言うものが見えると本当にやってしまうのだそうだ。

人工知能の欠点ともいうが、目の前にある嘘を見抜く力がまだ低い傾向にある。だから、情報が混沌としてくるとおかしくなるのだそうだ。

「バナナを銃器と見間違えるからな・・」

「じゃぁどうして注射器をうつ仕事はできるんだ?」

「簡単な話だろう。お前がロボットの言いなりになって居るだけだ」

そういう、ものなんだろうか?綾瀬永利は、ただ首をかしげるしかできなかった。

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