第二幕:眠り薬と悪魔の誓い ― 愛か魂か
眠り薬と悪魔の誓い ― 愛か魂か
亡者に導かれ異界へ行こうとするファウスト。
悪魔クララはそれを止めようとするが、ファウストは眠り薬を飲み干す。
「オレは絶対に反対だ!」と悪魔は吠えた。
「心を異界に飛ばす?冗談じゃない!オレがなんとかしてやる!」とクララはファウストを庇うと、亡者を睨みつけた。
「ファウスト、心を飛ばす危険をお前は知ってる!身体とのつながりをなくし、お前は死ぬんだ。オレがなんとかして、ここから脱出させてやる」と彼女は言った。
ファウストは彼女の中のメフィストに言う。
「君は、最初から悪魔の力を使わなかった」と言葉を続けた。
「悪魔の裁判でも、悪魔ルシフェルは、君を元に戻さなかった。君も鏡から話しかけた。」クララは目を細める。ファウストの次の言葉を待っていた。
「君が力を使えば、クララが失われるからだ。いま、ボクには、ふたつの道がある。君を取るか。クララを取るかだ」
ボクは沈黙していた。
となりに君がいたから、ボクは微笑んだ。
やあ、君。とんでもないファウストの告白から始まったね。悪魔がファウストの異界行きのを防ぐには悪魔の力は必要。
だけど、使っちゃうと取り戻しにきたはずのクララを失われるなんて。
そんな話を聞かされたんだ。
君なら、どうする?
まあいいさ。
彼らの話を聞いてみよう。
「ファウスト。失われるわけじゃない。ただ、あなたを愛する私とは違う私がまた相手をするの。もとの私ではないだけ。」
「クララ。やめろ。ボクは決めたんだ。君を悪魔たちから連れ戻すと。
ボクがそばに置きたいのは、君でなきゃならない」
クララの顔が醜く歪んだ。
亡者は、クララの歪んだ顔を、まるで久しい友のように見つめていた。
その目は、哀れみとも、勝利ともつかない光を宿していた。
「もういい。ボクは行く」
止める瞬間はなかった。
ファウストの衝動的な行動は、
彼をバカな行動に走らせた。
眠り薬を、一気に飲み干したのだ。
「ファウスト!」とクララが、
彼を抱きかかえる。
ファウストの手から松明が離れて、床に転がる。
松明の火は、彼女の足に絡んで離れる。
肉の焼けこげる匂いがただよう。
「やめろ!なんてこと、神さま!」とクララかメフィストか、声が入り混じる。誰が言ったんだろう。
ファウストの鋭い目からひかりが失われていく。彼はゆっくりと目を閉ざす。
君は不安に感じてボクの手を掴む。
悪魔は泣いていた。
ファウストの頬に雨が降ってた。
そうさ。
本当なら、ファウストが泣くべきだった。死にたくないって泣けばいい。
悪魔に離れたくないって、
言えばいいのに。
泣けばいいんだ。
泣けば良かったんだ。
「ファウスト!行かないでくれ!」と悪魔の悲痛な叫びが痛々しい。
亡者はファウストの額に手を当てる。
ぼんやりとした輝きと共に、
彼女はファウストと共に異界へと行く。
ボクらもついて行こう。
異界へ。亡者の生きてた世界へ。
(こうして、第二部は悪魔の涙と共に幕を閉じる。)