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第一幕:湖底の囚人たち ― はじまりの降下

湖底の囚人たち ― はじまりの降下

ファウストとクララは地下世界に閉じ込められ、

亡者の女と出会う。螺旋階段の底で、魂の試練が始まる。

やぁ、君。ボクらは大変な所に取り残された。

君が来たことはうれしいけど、ここは湖の底の底、地下の世界。


前回、ファウストは悪魔たちから、彼の所有物のクララを奪われたんだ。

悪魔の裁判により傷つけられたクララを救出したまでは良かった。

だけど、ボクらは地下世界に残されて、今ここにいる。

螺旋階段を登っても、降りても、どうにもならない。


「クララ。君の力でなんとかならないのか?」とファウストは階段を登りながらきいた。片手で松明を掲げ、螺旋階段を照らし、残った手で、クララ、悪魔の女の手を握る。

ボクらは、二人の背中を見てついていってる。

「愛しい旦那さま。私、悪魔の力で脱出できたらと思いますわ。だけど、理想の女にはしないこともあります」と言って、ファウストの手を握りしめる。

「旦那さま。もし、二人で地下に残らなねばならない時は、あなたを殺した方が理想の女らしいかしら?」と物騒なことを聞いてくる。

なぜかって?

それは彼女の優しさだからさ。

飢えて苦しませたくない。

悪魔は、合理的だろ?


「そんな事は、理想の女は口にしない」と言ってファウストは座り込む。

たぶん、心が折れたね。

鋭い知性を働かせても、ループを破れる保証はない。

奈落に向かって飛び降りるのも、正しいのか確証はない。

ようするに、ボクたちはお手上げだった。

ルシフェルが、ボクらをぶち犯すと思ったら、あっという間に連れ戻される。

はやく地上に戻りたかった。


螺旋階段の壁には、かつて天使たちが歌った旋律が、黒い文字となって刻まれていた。

読もうとするたび、文字は血のように滲んで、意味を失っていく。

「降参だ」とファウストの声が落ちるたび、その文字だけがかすかに揺れた。


「亡者よ!降参だ!お前の言うことを聞こう!君を知りたい」とファウストは奈落に向かって叫んだ。

「降参だ」という言葉は、いたるところにあたり、跳ね返っては堕ちていく。


ターンタンと誰かが登る足音がした。

螺旋階段をゆっくり、だけど確実に登る白い影。栗色の髪を揺らし、透けるような衣をまとった美女が、ゆっくりと登ってくる。彼女は青白い顔に赤い紅を塗っていた。愛する男を魅了するために。

「ファウスト。わたしを知ってほしい。わたしを。

犯した罪さえ、あなたに知られる」

彼女は立ち止まる。

ボクらの目の前で。

そっと、ボクらは下へ降りた。彼女の魅惑的な尻を見送った。


「君を知りたい。

が、君が病気持ちか、

ちゃんと確認させてもらわなきゃ」とファウストは亡者に言う。

それを聞いたクララが唾を吐き捨てる。

君の足元にへばりつく。

君は頬をひきつらせたから、ボクは優しく微笑んだ。


亡者は無視して、話を進めた。

「ファウスト。あなたは、

これから心を異界へ飛ばすのです。

わたしが、導きましょう」と言ってファウストに身体をすり寄せる。

クララが彼を守るように前に出る。

「うせろ、亡者め。彼に近寄るな」と男の声がもれる。

「男の嫉妬は醜いです。

亡者でも、本物の女の方が、彼には、ファウストにはふさわしいのでは?」と亡者は悪魔に挑発をする。

このままだと、悪魔か亡者のどちらかが奈落に堕ちていく。

そう思わされた。

「いい加減にしろ、クララ。ボクらは先に進まなきゃいけない。」とファウストは彼女をたしなめた。

「亡者よ、心を飛ばすと言っても、そう簡単に行けるものか?」とファウストは言う。

すると亡者は、彼にあるモノを手渡した。ガラス瓶である。

その中身はラウダヌム。

アヘンとアルコールのブレンドの眠り薬だ。


「これで、あなたの準備ができました。行きましょう。夢幻の異界へ」


ファウストの掌に渡された瓶は、

光を失った水のように沈黙していた。

中で眠る液体が、どこかで彼の魂の泡立ちを待っているように見えた。


(こうして、第一幕は幕を閉じる)

鋭き知性は敗れ、残されたのは闇。

ファウストは、この闇から脱出できるのか?

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