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狛猫と花火

 商店街にある神社には狛犬ならぬ狛猫がある。

 養蚕で栄えたこともあり、蚕に被害を与える鼠を捕るために、猫が重宝されていたことが由来らしい。そして狛猫は全国でも珍しいため、商店街の活性化につなげようとPV動画を作ることになった。

「私のとこの映研で作ることになったから、主演としてミケを借りるわね。飼い主の透くんも同行すること」

 セミの鳴く声に辟易して部屋に閉じこもっていた僕に対し、大家さんの娘である早希さんは腕を組んでそう宣言する。断ろうとするも、拒否すれば下宿から追い出すから、と言われ降伏した。

 夕方、渡された機材を持って神社に行く。なるほど僕の役割は荷物持ちか。一方、主演男優のミケは映研のみんなに餌をもらってご満悦だ。格差社会を感じつつ、小さな末社に置かれた狛猫の前に到着する。

「早希さん、ミケはここで何をすればいいの」

「ボス猫としてみんなを集めてここで遊んで欲しいんだけど――ミケ、お願いね」

 みゃあ、と答えたミケは、境内をひとっ走りしてくると、野良猫を率いて戻って来た。夕日が照らす境内で、狛猫の周りを猫達が遊ぶ様子が撮影されていく。陽が沈み、赤から黒に変わっていく境内は異世界への入り口のようだ。

「暗くなりましたけど、もう撮影できないんじゃないですか」

「この時間を選んだのは訳があるの。今に分かるから」

 その瞬間、神社が大きな音とともに白く光った。

「花火! でもお祭りは明後日じゃあ」

「実行委員の人に試し打ちがあるって聞いたの。絶好のシチュエーションでしょ?」

 でも大きな音に驚いて野良猫たちは逃げてしまった。ミケも驚いたらしく、くるくると僕の足元をまわっている。やがて次の花火と共に、情けない声をあげて僕の胸へ飛び込んできた。僕は体勢を崩し、狛猫に向かって倒れ込んでしまう。

「あぶない、透くん!」

 早希さんが身を乗り出し、僕とミケを受け止めてくれる。でも勢いの方が勝り、僕らは狛猫の間に倒れ込んだ。ぺたんと地面に座り込み、おでこが痛いな、と思って前を見れば早希さんの顔が近くにあった。お互いミケを掴んでいたので動くこともできず、またびっくりして顔を離すことも忘れて硬直する。やがて最後となる花火が上がり、僕らは白い光に包まれた。

 

 さて、撮影の後日談。

 撮影ミスかと思われた花火のシーンが採用され、縁結びの狛猫として好評を博し、観光客が増えてきているらしい。

「主演男優、お疲れ様」

 早希さんはそう言って笑った。

狛猫は、京丹後市の金刀比羅神社のものがモデルです。とても愛らしい狛猫で、お祭りもあるのでぜひ、観光に行ってらしてください。

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