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猫の雨宿り

 梅雨の時期となり、雨の日が続く。昨日からの雨も朝になってようやく止んだ。

 下宿先で僕が飼っているミケは、地面から蒸しあがってくるような水気が好きなのか、鼻を鳴らして外へ出て行った。その時、顔をしきりに前脚でこすっているのが気になった。猫が顔を洗うと雨が降るというけど、天気は大丈夫だろうか。

 果たして昼過ぎに小雨となった。ミケを心配して、商店街の通りに出て捜し歩く。そのうち本降りとなり、慌てて近くの喫茶店の軒下へ避難した。カフェオレの匂いが好きなミケなら、このあたりにいるんじゃないんだろうか。

「みゃあ」

「ミケ?」

 その声の先を振り返れば店先ではなく、窓ガラス越しにいた。こいつめ、のうのうと店の中で雨宿りをしていたらしい。

「すみません、うちの猫が――」

「お、透じゃないか。ミケを迎えに来たのかい?」

 同じ下宿に住んでいる春樹先輩が、入り口に立ったままの僕を招き入れる。

「先輩、ここでアルバイトをしていたんですか?」

「けっこう時給がいいからな。雨が止むまですこし休んでいけよ」

 お言葉に甘えてミケと雨宿りをする。窓ガラスを伝う水滴をミケが追いかけ、その姿を見た通行人が店内に次々と入ってきた。

「雨はやみそうだが……ちょっと珈琲を淹れるのを手伝ってくれ」

「僕が?」

「俺は調理担当さ。珈琲担当の店長はいま外出中でな」

 どうしようかと悩んでいると、先輩が肘で僕をつつきながらカウンターの中へ押し込んでくる。

「毎朝、早希ちゃんと一緒に珈琲を淹れて慣れているだろ。どちらがミケの好きなカフェオレの匂いを出せるか、だったか。そのカフェオレでいいからさ」

 結局、押し切られてカフェオレを作ることになった。存外、みんなに好評なようで、調子にのって作りすぎてしまった。さっき入ってきた気品あるお爺さんにも注文を取らずに出してしまったほどだ。

「いいカフェオレですね。君、ここでアルバイトしませんか」

 びっくりしたのはこの人が店長だったからだ。返答に悩んでいるとカフェオレの匂いに魅かれたミケがよじ登って髭を擦りつけてくる。こら、お前、僕の顔で髭を吹いているんじゃないだろうな。

 その時、雨音がまた大きくなった。どうやらまだここに雨宿りをしなければいけないようだ。断って居座り続けるのもなんだしなあ。

「えっと、お願いします」

 ちなみに呼び込み係としてのミケと一緒の採用だった。猫が顔を洗うと雨が降るというが、アルバイトにもありつけるらしい。

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