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猫の髭とカフェオレ

エピソード10までが短編版(1話1000字)となります。

エピソード11から3000~4000字に再構築した長編版を載せていきます。

併せてお楽しみください。

挿絵(By みてみん)

 僕はカフェオレの匂いが好きな猫を飼っている。

 その猫――名前はミケという。高校に入学したころ、突然母さんが猫を飼うって宣言したのはいいんだけど、僕に世話を押しつけた。まだ小さかったミケがお腹を減らして、みいみいと鳴くので、僕は布団から這うようにして起き出し、自分用のカフェオレと猫用のミルクを準備する。たぶんだけど、不登校だった僕を心配し、両親がミケを飼うことを決めたのだと思う。嫌なことがあると自室にこもってた僕を、ミケはその愛らしい声でドアの外に連れ出してくれた。

 ここまではいい話しだ。そしてここからは困った話だ。

 だって登校できるようになって、勉強に明け暮れていれば普通に朝は眠くなる。僕がなかなか起きないと知るとミケは実力行使に出る。伸びた髭を駆使して、僕の体中をこそばしてくるのだ。

「や、やめ、ミケっ! 分かったから!」

 観念して起き上がり、カフェオレを作りつつ、ミケのためにミルクとキャットフードを用意する。まあおかげで学校に遅刻をすることはないのだけど。リビングでカフェオレの匂いが満ち渡り、お腹いっぱいになったミケは満足そうな鳴き声を上げて髭を僕に当ててくる。世話は大変だけど、それも僕が都心の大学へ行くまでの間だ。そう思うと、この髭も名残惜しいと思っていた。

「じゃ、盆と正月には帰るから」

 春の陽気を感じる三月下旬、僕はそう言って家を出た。大きな荷物は後で送ってくれる手筈なので、下宿先でカフェオレを飲みながら日々を過ごす。他にも下宿人はいるのだけど、緊張感からかいまいち話をする機会が見いだせない。そのうち荷物が届いたと、管理人さんの呼ぶ声が聞こえ、玄関に向かう。

「へっ? なんで母さんが来たの?」

 母さんは笑って後ろに持っていたものを僕に突き出した。

「ミケ?」 

 すごい勢いでミケが飛び込み、僕の匂いを嗅ぎまわる。そして口元から漂うカフェオレの匂いにたどり着き、満足そうな鳴き声を上げた。

「毎朝、カフェオレの匂いを求めて大暴れ。それに父さんも私も紅茶党だし、ミケの世話は任したわ。大丈夫、下宿には許可を取っているから」

 ミケがすごい勢いで髭を僕の首に当ててくる。それにもだえて変な声をあげていると、下宿人が次々と玄関に集まり、笑いながら興味の目を向けてきた。

「あ、最近引っ越してきた松井透です。……よろしく」

 僕の挨拶にミケが「にゃあ」と合わせ、相変わらずのカフェオレの匂いがする日々が始まったのだ。

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