ep.7天才と凡人
吉村凛太郎のプレイは、まさに「天才」と呼ばれるにふさわしかった。彼は自分がコートのすべてを支配しているかのような動きで、翔太たちのディフェンスを軽々とかわし、正確にゴールへとシュートを放つ。その余裕のある動作には、長年鍛え上げられた自信と確信が宿っていた。
「なんなんだ、あいつ…どうやったらあんなに動けるんだ?」翔太は吉村の一挙手一投足に釘付けになっていた。
試合が進む中、吉村凛太郎は圧倒的なパフォーマンスを見せ続けていた。彼は素早いステップでディフェンダーを抜き去り、適切なタイミングで仲間にパスを送り、チーム全体を指揮していた。まるで彼一人で試合をコントロールしているかのようだった。翔太はそのプレイを目の当たりにし、自分がいかに未熟であるかを痛感した。
「これが、トップクラスのプレイヤーか…」心の中でつぶやきながらも、翔太は必死に戦い続けた。しかし、吉村のプレイに対抗するには、今の自分ではまるで歯が立たない。
試合が進むごとに点差は開いていったが、翔太は諦めることなく、何度もゴールに向かって突き進んだ。その姿勢は、チームメイトたちに勇気を与えていた。田中も美咲も、そして他の部員たちも、翔太を見て自分たちの限界を超えるようなプレイを試みた。
だが、現実は残酷だった。聖龍学園は試合終了まで隙を見せることなく、完璧なプレイで試合を支配し続けた。試合が終わる頃には、点差は圧倒的なものとなっていた。
「負けた…」試合終了のホイッスルが鳴り、翔太は膝をついてコートに手をついた。息が荒く、汗が全身をびしょ濡れにしている。だが、心に残ったのはただの悔しさではなかった。それは、吉村凛太郎という存在に対する憧れと、彼に追いつきたいという強い願望だった。
「俺も、あんな風になれるのか…?」そう思いつつも、翔太はふと顔を上げた。
すると、吉村凛太郎がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。彼は汗一つかかず、冷静な表情を崩さないまま、翔太の前で立ち止まった。
「悪くなかったよ。」吉村はそう言い残して、再びチームメイトの元に戻っていった。その言葉に、翔太は一瞬驚いたが、すぐにそれが何を意味しているのか理解した。自分がまだまだであることは分かっている。だが、その「悪くない」という言葉は、彼にとって次への挑戦への道標だった。
「よし、次はもっと強くなる。」翔太は静かに誓いを立てた。