アリオン
──アリオン。
迎えに来て
あの遥か遠い空の彼方から
天使のようなその翼で いつか微笑んで
そんな風に 空を見上げる
会社の昼休み 夏空
白い入道雲が押し寄せる
あの雲の彼方に なんて
いつかのあの日 あの人は消えて
静かに風が吹き渡る ビルの街並みの向こう
空と海の間 押し潰されそうな心臓 高鳴り
水平線の光る彼方 鳥たちの姿も消えて しばらく
アリオン……
現世とは違う時の流れ 時を背負う者
いつか誰か そう言った
私に── 風が吹く 会社の昼休み この屋上
遥かに望む 青空 積乱雲の彼方
耳もとを指先で掻き上げる
黒髪が風に靡く どこか 空 漂うように
遥かな時の流れは いつも
人の命を巻き添えにする
アリオン──
胸に刻まれた想い出
私には見せようとしなかった
人でも機械でも無い あなたの
心臓
この国を守るため
確かに感じてた あの時と同じ
見上げる夏雲
吸い込まれそうな彼方
俯いた私の視界
足もとのコンクリート 風に靡くリボン 会社の制服
白い人工皮膚 生体識別番号 私の 胸の谷間
アリオン
あなたと同じ
いつか日常を置いた
今
遠ざかる地上
私は時を選べない
アリオン──
ここから飛んだ
灰色の地面
誰も知りえない暗証番号 開く扉 承認
光る波紋 水面に石 投げ入れたよう 広がる
打ちつけられるより 引き裂かれる心
あなたの居ない世界 私には……
だから
アリオン──ずっと探してた
ごめん……。
「──次元通過システム接続。作動……開始します」
……きこえるデジタル音声
何処から?
耳の奥で 鳴り響いて
あの人の空に抜ける
白い空間
見たことのない前世
置いてきた過去
鼓動さえ感じた今
あなたとの未来
超えて──
「──解除。高度5000メートル。着陸時衝撃、一万Gt……」
彗星は──、かつて人類の進化よりも太古
地表に落ちた
この星より重く 命を削った
もう誰も居やしない
それなのに
アリオン──、私には
人なんて 姿無くした 心さえ
アリオン 私には……
何も見えなくて
無くすことなんて 出来なかった
過去よりも 未来よりも
時を超えて
今──
夜になる
暗黒の空 黒の地平線 雷鳴 光る
どこまでも命絶え どこまでも心忘れ 屍の連なりゆく砂礫
誰が誰なのかさえ分からない
生きてるのか 死んでいるのかさえ
……アリオン
どこにいるの?
生まれ変わろうとしているの?
もはや 誰も居なくなった荒野
暗闇の地平線に 赤く輝く大地
灯火の衆群 まるで火の玉のような
誰かを迎えるような 誰かを送るような
燃え尽きる命 人でも機械でもない その心臓
残骸に灯る 幾多の灯火
私の体内の 機械音声──
「──ライフゲージ、確認。残存個体数、1797001。地対空敵機械天使、2525464──……」
まだ 命運ぶ 黒色の天使 なれの果て 人の命も心もない機械天使
私たちとは 心通わなかった けれど
アリオン……
あなたは
私たちは
誰と戦っているんだろう?
誰かを犠牲に? あなたを犠牲に?
もう いいはず
私との 未来は──?
誰かがそう叫んだ
いいえ。
私が、そう望んだ
機械音声── 耳の奥の? 頭の中の?
それから
私しかいない 空の真ん中
会社の制服が 風と共に 地表に迫る
秒速
白い人工皮膚 私の
生体識別番号 刻まれた紋様 胸の谷間
あなたと同じ
影
アリオン……
広い広い 青空 この空の
ただの真ん中
積乱雲の立ちのぼる彼方
遥か雲の向こう──
地上からは 見えなかった その先
──いた。
片翼の天使 背負われた大剣
翼とともに 折れた残骸
破壊された半顔
月のような 夜のような
あなたに触れる
アリオン……
それから 雨に
空は黒く
鳴り止まない
鳴り止まない
私みたい
雷鳴 豪雨
虚空から生み出された 叡智の犠牲者
大戦の英雄 今は誰も 知られることのない
かつて
いつかの あの日 私といた
それは──
許されたはずよ
アリオン……
あなたを
見つけた その背中 黒い片翼
折れた大剣
どれだけを 終わらない永遠
その中に、闇に 深く 赤く 地に染めて
黒色の雲間より 雨が吹きすさぶ
未だこの星は 時を刻む
赤い大地
横たわる黒い片翼 天使のよう 白い微笑み と あなた
その寝顔
何度も呼びかけた
アリオン…… あなたの名前
教えてくれた。そう
いつかの屋上 会社の?
それさえも美しく惑わせて
想い出は 知らない誰かが まるで
自分が誰かを知ろうとして貪る それ
世界大戦。
人の命も 機械も 人でも機械でも無い私たちも
その裸も その微笑みも
全てが風と共に奪われた 赤い大地
そんな風に見えた
地表から雲の残影が削り取られる
もう 日が落ちていた
黄昏時──、誰そ彼。
習った 軍人高等学校 この国の言葉
あなたといた あの時 幸せだった まだ 十代の
許されていた
アリオン──
あなたは居なかった 終焉には誰も 命を燃やす
命の欠片すら残らず
それが
世界との約束だから
アリオン……
アリオン……
あなたの名前
あなたの亡骸
あなたの声を
何度でも呼ぶ
返事が聴こえるまで
あなたに会いたい
アリオン……
アリオン──
私の手の中の アリオン
その残骸




