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第2話 紗央莉は激怒した

 朝から娘の美愛と母さんの三人で買い物をしていた。

 美愛は大事そうに箱を抱えている。


「お父さん喜んでくれるかな?」


「もちろんよ、ありがとうって言ってくれるわ」


「本当?」


「本当よ」


 箱の中身はゴルフが趣味の政志さんの為に美愛ちゃんが選んだゴルフ手袋。

 政志さんの誕生日に合わせて購入した。


「お手伝い頑張ったもんね」


「うん!」


 お婆ちゃんに褒められ美愛ちゃんは得意顔。

 一杯お手伝いを頑張って貯めたお小遣いで買ったから、喜びもひとしおだろう。

 もちろん足りなかったので、不足分はコッソリ支払ったけど。


「まだ来るまで時間あるから、お茶しましょ」


「そうね紗央莉、美愛ちゃんは何が飲みたい?」


「やった私オレンジジュース!」


 今日は自宅に両親を呼んでの誕生会。

 ご馳走は私が働くレストランでケータリングを頼んだ。

 政志さんはお父さんと留守番をしているんだけど、まだお酒を飲んでないよね?


「母さんお疲れ様」


「いいえ」


 喫茶店でホットコーヒーを飲みながら一息吐く。

 美味しそうにオレンジジュースを飲む美愛に私達の顔も綻ぶ。


 親子に見える私と美愛だけど、この子は姉の子供で私の姪なのだが、娘に母である姉の記憶は無い。


 美愛は産まれて2ヶ月で自宅に置き去られた。


 仕事が終わり、夕方に帰宅した政志さんが、ベッドで泣いていた美愛ちゃんを見つけた時、姉の姿は消えていた。


 政志さんは直ぐ様、私達家族を呼んだ。


『...これがベビーベッドに』

 駆けつけた私達家族に政志さんは手紙を差し出した。

 娘の眠るベビーベッドの脇に姉の書いた書き置き、私達は震える手で受け取り中を読んだ。


[政志さんへ]

[私は彼と真実の愛に生きますので、もう一緒に暮らせません、どうか探さないで下さい。]


[娘は差し上げますから、頑張って育ててね。

 安心して下さい、美愛は正真正銘貴方の娘です。

 もう会うことも無いですが、お元気で。

 史佳]


『なにこれ...』


『政志君...史佳は』

 手紙を読んだ両親が呆然と政志さんを見た。


『分かりません...今朝もいつも通りで変わった様子は』

 項垂れる政志さんも何があったのか理解出来ない顔をして、事態が全く分からない様子だった。


 当時保育士をしていた私は美愛ちゃんのオムツを交換し、粉ミルクを買いに近くのドラッグストアへ走った。

 美愛ちゃんは母乳だったので、自宅に無かったのだ。


『...とにかく史佳の行方を』


『...そうね、事件に巻き込まれてないか』


『そうですね、それが一番です...』

 哺乳瓶で美愛ちゃんにミルクを与えてる間に話は纏まっていた。


 警察に捜索願を提出し、興信所にも依頼を出した。

 姉の身に何が有ったのか?

 それだけが心配だった。


 私も保育園の仕事を休職し、美愛ちゃんの面倒を見る事になった。

 直ぐに託児所なんか見つからない、政志さんの両親は既に亡く、そうするしか無かったのだ。


『...史佳が浮気を』


『なんて事だ...』

 1ヶ月後に興信所から出た報告書に私達は肩を落とした。

 姉は浮気をしていたのだ。

 相手は姉が勤めていた会社の上司で、その関係は3年に及んでいたという。


『なんだ...俺が浮気相手だったのか』

 呻き声に近い言葉で政志さんは項垂れた。

 政志さんと姉が出会ったのは二年前、つまりその一年前から姉は上司との肉体関係にあったのだ。


『俺は不倫を隠す為のカムフラージュか...』


『政志君...すまない!』


『あ...あぁぁ!』

 両親が叫ぶ、対する私は声も出なかった。


『とにかく史佳と話を』


『そうですね...早く見つけましょう』

 そして、不倫相手である家族も途方に暮れていた。

 同じく失踪してしまった男、全く関係に気づかなかったそうだ。

 子供を二人抱えて、呆然と涙を流す姿に胸が痛んだ。


 事態は一年後、急展開を見せた。

 姉の不倫相手が見つかったのだ。

 二人共、まともな仕事につけず、刺激も失い、空虚な生活に喧嘩が絶えなくなり、姉を捨てて元の家庭に戻って来た。


 直ぐに姉を追って、聞いたアパートに向かったが、そこは藻抜けの殻だった。

 政志さんは男に慰謝料を請求し、無事に支払われたが、姉は依然見つからない。


 もう政志さんは離婚を決めていたが、失踪期間の関係で手続きが進まない。

 その頃には美愛ちゃんのDNA鑑定も終わり、無事政志さんの子供と判明したのは何よりだったが不幸は続いた。


 それは当時交際二年目だった私の婚約者家族からの呼び出しだった。


『そんな姉を持つ人間と結婚させる訳に行きません!』


『そうだ!』

 婚約者の両親から私達家族は罵倒され、何も言えなかった、事実だから当然だ。


『紗央莉』

 ずっと黙っていた婚約者の亮二さんが私を呼んだ。

 彼からの助けを期待したが...


『もう二度と姿を見せないでくれ』


『そんな...亮二さん』

 私の期待は敢えなく散ってしまった。

 ちゃんと彼には説明し、分かったと言ってくれていたのに...


「ん?」


「どうしたの紗央莉?」


「政志さんからだ」


「直ぐに出なさい」


 私の携帯が鳴る。

 画面には政志さんの文字が。


「どうしたの?」


 何があったんだろう、ひょっとして今日の料理に何かトラブルが?


『紗央莉...アイツが来た』


「アイツ?」


 アイツって...まさか?


『史佳だ...また一緒にだと、ふざけやがって』


「はあ?」


 一気に血の気が退き、次の瞬間頭に噴き上がる。


『今アイツは自宅に居座ってる、とりあえず弁護士を手配したから、紗央莉は美愛とお義母さん連れて実家に頼む』


「ふざけるな!!」


『おい紗央莉...』


 何を馬鹿な!


「冗談じゃない!直ぐに帰るから!!」


 通話を切り、母さんに向き直る。


「アイツが見つかったって、直ぐに帰るからお母さんは美愛を実家で、お願い」


「あ?え?」


 お母さんは目を白黒させている。


「史佳よ、あのバカが帰って来たの!!」


 思わず大声で叫んでいた。

 絶対に政志さんを、美愛ちゃんを離すもんですか!!

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