そこではまず何か発言や行為があってから、そのあとそのエコーや繰り返しとして何らかの発言や行為を出すこと
私は今どこにいるのですか、と女に問うた。部屋には着替えがあること、シーツは洗ったばかりであること、女は犬の散歩に五時ごろ出掛けるが三十分もすれば帰って来ること、それから夕食の支度を始め、それを私は黙って待っていればいいということなどを聞いた。女が私に対してなぜこの様に親切にしてくれるのか分からなかったが、これまで私はどの女に対しても、手をあげたり、騙したり、いらぬ冗談を言ったりしてこなかった、と思う。だから、親切にされてもおかしくはない。女がしきりに誰かの名前を言うので、それは誰だ、と聞くと、犬の名前だった。なぜ私の顔を見ながら犬の名前を呼ぶのか。そういうが習わしがあるとは思えない。犬が部屋に入ってきて、私に飛びついた。私はこの犬と会ったのが初めてではない気がした。だが、私は犬に対していつもこう感じている。犬は失っていたものを取り戻したかのように、私の顔を舐めた。どうして腕ではなく、顔をしきりに舐めるのか。私の横に、いつの間にか少女が立っていて、こちらを見ている。手には人形が握られているが、少女はその人形の片方の腕しか掴んでいないので、もう片方の腕が地面につき、汚れていた。少女が犬の顔を手で突いた。一度、二度、三度。そうして犬は私の前から離れた。最初にいた女はもうこの部屋にはいなかった。下から犬の名前を呼ぶ声がして、犬が部屋から出ていった。この声はさっきも聞いた。私には子供がいなかった。少女を見たことで、そのことを思い出した。私は座っていたが、立ち上がり、少女の視線を感じながら、窓に近付き、そこから外を見た。異国だった。遠くに白い動物、おそらく羊がいるのが見えた。写真でしか見たことのない建造物もあった。だが、なぜ私は女と会話をできたのか。私はどこまで知っているのか。少女に問うた。ここはどこ? 少女は歯を出して、声を出さず笑った。銀色だった。