第3話 軍人、飛行機に乗る
未来が日本の国会議員から自分の娘が受けているストーカー被害を内密に解決して欲しいと言う極秘任務を受けることを承諾してから実に1週間もの月日が経っていた。
この1週間の間に未来は、自分自身がこれから通うことになる日本の高校のことや、今10代の若者の間で流行っていることや、日本では当たり前のことであり絶対に守るべきこと等様々なことを学んでいた。
そして、それから1週間後。
未来は日本に行くために荷物をボストンバッグに詰め終わると、荷物を手に持ち前日に少佐から伝えられた時間の数十分前に集合場所である少佐の部屋の前に来ていたのだった。
「集合時間よりも少し早く来てしまった・・・。・・・まぁ、大丈夫だろ」
未来は腕時計で時間を確認し、集合時間よりも数十分以上早く来てしまったことを呟いていたが、直ぐに「まぁ、大丈夫だろ」と結論づけたのだった。
そして、未来は一度少佐の部屋の前に荷物を置くと、扉を数回ノックした。
未来が部屋の扉を数回ノックすると、扉の向こう側から「どうぞ」と言う少佐の声が聞こえて来た。
少佐の声が聞こえて来ると、未来は一度部屋の前に置いた荷物を再び手に持つと扉を開け「失礼します!」と言い、部屋の中に入って行った。
「流石、未来だな。指定した時間よりも20分も早いぞ」
「そんなのは、当然ですよ・・・。8年間ずっと少佐から「男なら、約束の時間の20分前に来るのが当然だからな」と言われ続けられましたからね」
「た・・・確かに、そんなことを言い続けた気もするな・・・」
「・・・・・・少佐。まさか、自分が言ったことを忘れてるってことは無いですよね?」
「そ・・・そんな訳は無いだろうが!!そんなことよりも、早く行かないと飛行機の時間に間に合わなくなるぞ!!」
「色々と引っかかる所はありますが、確かにこのままここで、悠長に話していたら飛行機の時間に間に合わなくなりますしね」
未来が部屋の中に入って行くと、少佐は部屋の一番奥に置かれているデスクの上で書類の整理をしており、未来が部屋の中に入って来ると慌てた様子で手に持っていた書類をデスクの上に置き未来の元に近付きそんなことを言葉を口にした。
未来は自分が集合時間よりも20分も早く来るようになったのは少佐から8年間「男なら約束の時間よりも20分前に来るように」と言われ続けられたからだと言った。
すると、少佐は若干目を泳がせながらそう言った。
そんな、少佐の言動を見ていた未来はジト目で少佐のことを見ながらそう言った。
未来に的を得た発言をされてしまった少佐は、誤魔化すように部屋の時計を見て時間を確認し「飛行機の時間に間に合わなくなるぞ」と言い、デスクの下に置いてあったボストンバッグを手に持ち部屋を出て行った。
そして、未来も少佐の後に続き部屋を出て行った。
「・・・・・・部屋を出る時は気が付きませんでしたが、何故少佐も自分同様バッグを持っているのですか?」
「ん?そんなのは決まっているだろう・・・。俺もお前と一緒に日本に行って、一緒に暮らすためだからだ」
「・・・・・・えっ、少佐も一緒に来るんですか?」
「あぁ、いくらお前が18歳って言っても日本ではまだ未成年扱いにされるからな・・・。それに、まだ未成年の奴が保護者も居らず一人暮らししているということが知られたら心配され、後々面倒臭いことになる可能性もあるからな」
「確かに、そうですよね」
未来は少佐の後ろを歩きながら、少し遅れて少佐がパンパン荷物が詰まっているボストンバッグを持っていることに気が付くと「何故、バッグを持っているのか?」と聞いた。
すると、少佐は途中で立ち止まり後ろを振り返り「何を言っているんだ、お前は?」といった表情で未来を見ながら「一緒に日本に行って、一緒に暮らすため」だと答えた。
そんな、少佐の答えを聞いた未来は「少佐も来るんですか?」と驚いた様子を見せたが、少佐の次の言葉を聞くと「確かに、そうですよね」と納得した素振りを見せた。
「少佐が俺と一緒に日本に来る理由は分かりましたが、少佐がここを離れても大丈夫なんですか?」
「あぁ、大丈夫だ。俺自身そろそろ、軍人を引退しようと考えていたし、今回の極秘任務は引退するのには丁度良い機会だと思っていたしな。勿論、俺の後釜は事前にしっかりと指名しておいたからそこら辺のことは心配しなくっても大丈夫だ」
「・・・そうですか、それなら特に心配することは有りませんね」
しばらく、未来と少佐の2人は歩き続けた後、今度は未来が足を止め前を歩いている少佐に「少佐がここを離れても大丈夫なのか」と聞いた。
未来がそんなことを少佐に聞いた理由は、少佐-加藤重弘は日本人ながらも数十年前に米軍基地に異動し、異動してから4年で少佐に昇格し、少佐となった同時にこの島の米軍基地の管理者に任命されたほどの優秀な軍人だったからだ。
だが、重弘は元々軍人を引退しようと思っていたらしく、今回の極秘任務は軍人を引退するのに丁度良い機会だと思っていたのだった。
未来は重弘が、しっかりと自分の後釜になる人物を指名しておいたと言うことを聞くと「それなら、特に心配することは有りませんね」と言い、再び重弘と共に歩き出した。
未来と重弘の2人は共に米軍基地を後にすると、島の沖合に重弘の指示で軍人達が事前に用意しておいた船に乗り、グアム島にあるグアム国際空港に向かって行った。
そして、2人が船に乗ってから40分後。
2人が乗った船は事故に遭うこと無く、無事に目的地であるグアム島に到着した。
そして、グアム島に到着した2人はトレーニングを兼ねて、あえて車を使わずに歩いてグアム国際空港に向かって行った。
「今更だが、飛行機は大丈夫なのか未来?」
「・・・・・・さぁ、あの事故から8年間飛行機には乗ったこと無いので分からないですよ」
「そ・・・そうか、もし飛行機に乗って気分が悪くなったら俺に言えよ分かったな」
「はい、分かりました少佐」
未来と重弘の2人は共にグアム国際空港に向かって歩いていると、突然重弘が立ち止まり後ろを振り返り未来にそう聞いた。
重弘が未来にそんなことを聞いた理由は、8年前にあんな悲惨な事故に合い、飛行機に乗ることはできるのかと心配になったからだ。
だが、未来はしばらく黙り込んだ後に、冷たい表情をしながら重弘にそう言った。
そして、2人は再び歩き出しグアム島国際空港に向かって行った。
「なんとか、10分前には到達したな」
「はい、そうですね少佐」
「よしっ、それじゃ俺が荷物を預けて来るからお前はそこのソファに座って待っててくれ」
「はい、分かりました少佐」
あれから未来と重弘の2人はグアム国際空港に向かって歩き続け、特に怪我もすることも無く無事に出発時間の10分前にグアム国際空港に到着することが出来た。
グアム国際空港に到着すると重弘は自分の荷物と未来の荷物を持ち、未来にソファに座っているように指示を出し、手荷物カウンターに荷物を預けに行った。
そして、未来は重弘の指示に従い近くにあるソファに座った。
「悪い、少し遅くなった」
「大丈夫です少佐、自分はそんなに待っていませんので」
「そうか・・・、それは良かった。荷物を全部預けたことだし保安検査場に行くぞ」
「はい、分かりました少佐」
自分と未来の荷物を預け終わった重弘はソファに座っている未来の元に行き少し遅れてしまったことを軽く謝罪した。
未来は、ソファから立ち上がり淡々とした口調でそう答えた。
そして、未来と重弘の2人はセキリュティゲートを通るために保安検査場に向かって行った。
「はい、お2人とも大丈夫ですよ。どうぞ、お通り下さい」
「ありがとうございます」
「・・・・・・ありがとうございます」
セキリュティゲートを無事に通ることが出来た未来と重弘の2人は係員の指示に従い搭乗ロビーに向かい、紙に書かれている搭乗ゲートを通り、待機している飛行機に乗って行った。
「未来、窓側に座ったらどうだ?景色を見てた方が色々と落ち着くだろう」
「ありがとうございます、少佐」
飛行機に乗り込んだ未来と重弘の2人は一度チケットに書かれている番号の席に座ったが、重弘が窓側に座り外の景色を眺めていた方が気分も落ち着くだろうと思い席を立ち上がり未来と席を交換した。
『皆さま、今日もグアム国際空港112便日本行きをご利用くださいましてありがとうございます。この便の機長はキルビル・フランク、私は客室を担当致します金山愛美でございます。この便は間もなく出発致しますのでシートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締め下さい。また、日本羽田空港までの飛行時間は約3時間30分を予定しております。何か御用がある方は、お気軽に私達乗務員にお声がけ下さい。それでは、ごゆっくりおくつろぎ下さい』
未来と重弘がそんな会話を交わし、お互いの席を交換した後、機内に乗務員のアナウンスが流れた。
そして、アナウンスが流れ終わり乗務員達がそれぞれ席に座りシートベルトを締めると2人が乗っている「グアム国際空港112便」は段々と動き出し、徐々に離陸して行き、「日本羽田空港」に向かって行った。